第5話 『暗雲』
話を終えると羽生明里は一息つき、冷めたコーヒーを口に含んだ。
少し気分を落ち着かせた彼女を確認すると、八雲は話の核心を突いた。
「で? 結局その〝まだら〟様ってのとキミの友達がいなくなったって話とどう繋がるんだ?」
そう、今の話はあくまでも『〝まだら〟様』という都市伝説の内容を聞いただけであって彼女の親友である高橋愛奈という少女の失踪とはなんの繋がりもないように思えた。
「さっき渡した曼陀羅模様の紙、ありましたよね? あれが私と愛奈と他の友達とでやった〝まだら〟様の儀式用紙です」
そう言えば、と八雲は先ほど見せてもらった用紙を改めて見直す。
そこには繊細で綺麗な模様が描かれているのだが、先も感じたどこか薄気味悪い感覚に陥った。
それはそんな降霊術に使用されているという経緯があったからなのだと八雲は知る。
類似した話で有名なのは『こっくりさん』や『エンジェル様』、そして海外で言うなら『ヴィジャ
そしてそれらが勝手に動いた、という話しも今では科学的に証明されていたりもするのだが――――――――――。
「しっかし分からんね。そもそも流行りってのは分かるけど、そんなんで行方不明者が出るってなら結構な数の行方不明者が出る事になる。学校で流行ってるってんなら尚更だ。なのに行方不明なのはお友達の高橋って娘だけなんだろ?」
思春期特有の怖い話と同じようなものだ。
この手の話はいつまで経っても風化しないものだ。
しかし、
「じ、実は――――――――――愛奈だけじゃないんです。手を離したのは…………」
「え?」
明里は自分の手を力強く握る。それは自分の手の震えを隠すようにも見えた。
「実は、私も―――――なんです。それだけじゃない、他にも友達二人も同じように離してしまって」
どうやら話は段々良い方にはいかなくなってきた。
「あの日、私たちが
彼女の話によると、
友人の一人がどうしても気になる人との関係を占いたいという事でその『〝まだら〟様』の儀式を行ったようだ。
いつもの手順通りに行ったのだが、その日だけはいつもと様子が違ったそうだった。
「いつもなら『〝まだら〟様』を呼び出した時、曼陀羅模様に沿って入ってくるんですけど、いつもより…………その、ペンの震えが細かく激しかったんです」
「でもさ、それって手から伝わる微細な振動とかじゃなく? 科学的にも微細な振動はどんなに意識をしてても自然に震えるってテレビでやってたし」
そう、結局のところ『こっくりさん』や『エンジェル様』などと言うのは思い込みによるもので気にし過ぎないのがいいものなのだ。
そんな感じで何気なく、本当に何気なく曼陀羅模様の用紙を光に翳して透かして見上げた。
「――――――――――――――――――――――――――――――なぁ?」
「はい?」
八雲がどこか遠くを見つめるように目を細める。声色も少しトーンが落ちている。
「さっきいつもとは違ったって言ってたよな? そのペンの震え以外で何かなかったか?」
その質問に考えてみるが、明里は何も思い出せないでいた。
「特には…………どうしたんですか?」
その明里の質問に対して八雲は答えず、デスクの中にある虫眼鏡を取り出し用紙をじっと見ている。
「微細な振動ってのは人が文字を書く際に緊張状態から自然に出るものなんだ。それは誰もが経験するもんだ。でも――――――――――――――」
用紙から目を離すと改めて明里と向き直る。
彼の表情は至って真剣だった。
「なんつーか、正直これは俺の手には余る案件だなこりゃ」
「あの、さっきから何を――――――――――――――」
明里の疑問には答えず手招きをし彼女を自分の近くに来るように促す。
頭に疑問符を浮かび上がらせるも彼女は八雲に近づき、彼と同じく用紙に目を落とす。
そこには何度も見慣れた曼陀羅模様が書かれている用紙しかなかったが、八雲は無言で虫眼鏡を渡し、それで覗き込むように促す。
「一体何が」
殺すころすコロスコロす呪呪殺す殺すころすコロスコロす呪呪殺す殺すころすコロスコロす呪呪殺す殺すころすコロスコロす呪呪殺す殺すころすコロスコロす呪呪殺す殺すころすコロスコロす呪呪殺す殺すころすコロスコロす呪呪殺す殺すころすコロスコロす呪呪殺す殺すころすコロスコロす呪呪殺す殺すころすコロスコロす呪呪殺す殺すころすコロスコロす呪呪殺す殺すころすコロスコロす呪呪殺す殺すころすコロスコロす呪呪殺す殺すころすコロスコロす呪呪殺す殺すころすコロスコロす呪呪殺す殺すころすコロスコロす呪呪殺す殺すころす呪呪――――――――――――――
模様と思っていた線には細かい文字でびっしりと書かれていた呪詛の言葉か書き殴られていた。
「ひっ―――――――――――」
思わず明里は虫眼鏡を放り投げる。
その隣では八雲が頭を掻きながら空を見上げる。
久しぶりにギャンブルで勝ち越した時には爽やかな風が吹いていたはずなのに今は曇天の空が広がっていた。
「はぁ、こりゃ面倒な事になりそうだ」
そんな呟きが静かな事務所に響いた。
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