分別作業

奈良ひかる

第1話

 人を見分けるなんて事が本当に出来るのかは謎である。

 先輩達は何かしらの自負があるらしく、何かしらのルールで判断している

 ようだが俺には未だにそんな物はない。

 

 

 一般人よりも多少は多くの人と会っては来ているが、人がどう思っているか

 なんて分かる訳がないという考えがより一層強くなるばかりだ。

 

 

「はい、どうぞ」



 今日も今日とて、面接である。

 俺の仕事はここで人をふるいにかける事だ。

 

 

「どうぞおかけ下さい」



「失礼します」



 履歴書を確認しながら、適当に質問をしてどうするかを俺が決定するのだ。

 所詮は俺の好き嫌いだけの判定でしかないのだが、それで会社も満足している

 のならそれでいい。

 

 

「はい、ありがとうございました。合否の方は後日連絡させてもらいます」



「ありがとうございました」



 こうしてまた人の人生が決まって行くのだと思うと気分が滅入るので、考えない

 ようにしている。それがここでの生き方だ。

 

 

「はい、どうぞ」



 次に入って来た人は中途採用である。

 最近多いのだが、自分より年上とかあまり相手にしたくはない。

 とは言え、仕事だから仕方が無かった。

 

 

 何だか無駄に明るい感じが気に障るが、きっと受けがいいのだろうなとは思う。

 こういう人間は何かしらの人脈やらコネやらを持っているので非常に面倒だ。

 対応を間違えるとこっちが怪我をする。

 

 

「先輩、すいません」



 後輩が急に入って来たので面接を中断する

 

 

「どうした? 今、面接中だぞ」



「はい。でもこれはすぐに知らせないといけないと思いまして」



 それには採用してはいけないリストが載っていて、ちょうど今面接している人

 がそこに乗っていた。

 

 

「ありがとう。お前もここに居てくれ」



 俺は後輩を部屋に残したまま、質問をする。

 

 

「すいませんが誰の紹介ですか? 」



「柏木さんですが? 」



「またあの人か。はい、ではもうお帰り下さい」



「え? 結果は? 」



「不採用です」



「でも私、柏木さんと知り合いですよ? 」



「それは関係ありません。そもそも貴方、前職メディア関係の人ですよね? 」



「いえ、違いますが」



「平気で嘘つきますね。貴方達が仕事に就ける訳ないでしょ? お帰りください」



 状況が不利だと分かると帰っていった。

 二対一なら誰でも引く場面ではあるのだが。

 

 

「ありがとな、助かったよ。これでもう柏木さんも終わりだな」



「先輩、また昇進しちゃうんじゃないですか? 」



「もういいよ。俺、そう言うの興味ないんだ。お前を推薦しておいてやろうか? 」



「止めて下さいよ」



 俺は冗談っぽく言ったが、結構本気でそう思っている。

 この後輩の能力は高いのだ。

 

 

 

 

 

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分別作業 奈良ひかる @nrhkr278

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