20-1 ソラ
ソラはモニターを通して、カズマとドッペルの様子を観察していた。
その目は余分な感情を排除した観察者のものだ。
――以前カズマに、ヨモギのことを「必要な犠牲」だと話して聞かせた。
彼はまっすぐな目で激昂していた。
ソラをマッドサイエンティストとでも思ったのかもしれない。否定はしない。
ただ、カズマに告げていないこともあった。
「必要な犠牲」の頭数には、始めからソラ自身も組み込まれている。
『テレパシーを利用した大規模な洗脳を可能とすることにより、社会における倫理観を消失させる。
そして、倫理観が存在するが故に不可能とされる人体実験を可能とし、人類に貢献する』
……彼らに滔々と語ってみせた猟奇的な支配欲。それら半分は嘘だ。
“高度な知能”により他者を意のままに操る優越感は、とうに涸れていた。
本音は、自分が洗脳されたいのだ。
約七年前、ソラはドッペルゲンガー製造計画における被験者だった。
ソラはドッペルゲンガー。オリジナルは、十歳そこらの少年だった。
少年は、現在のカズマたちと同様に、この計画が道理にもとることを逸早く感じ取って阻止しようとした。
だが、そう簡単に上手く行くはずもない。ソラたちは片方に出来得る限り高い知能を託すことを決めた。
たった十三歳でその人生を閉じた、オリジナル。
彼の最期を鮮明に覚えている。
ソラが研究所でカズマに投与した、まさにその薬で彼を廃人にした。
オリジナルの少年は、心が強かった。
辛い。苦しい。頭が痛い。体が痛い。彼は幾度となくそう叫んだ。
その度にソラは心が折れ掛けた。
だから「やめよう。もうやめよう」と説得を試み彼を介抱しようとしたが、彼は歯を食い縛って首を横に振った。
続けろと、自分の代わりにこの実験を終わらせろと。
ソラは泣きながら薬を飲ませ続けた。
どれだけ薬を与えても彼は死ななかった。
ソラは研究所の人間を
彼の苦しみを終わらせたくて、だが自分ではどうしても手を下せなかったために、頭を使って研究所の人間に自分を信用させた。
その一件により、ソラは被験者から実験者へと成り上がった。
それから研究に投資している企業の人間を操ったり、クロと接触したりしながら、計画を突き崩すための下地を整えていった。
ソラはひたすら
高い知能と、少年一人の半生が託された以上、その責任を果たす以外の生き方を自分に許せなかった。
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