19-5 実験計画書
*
全てを読み終えたが、ただの電子文字なのに不快になった。
文字に
そして、情報量の多さに思考がパンク寸前でもある。
テレパシー。洗脳。
字面は何かのおままごとに見えるが、本気なのだろう……。
ソラが演説でもするように軽快に話し始めた。
「ドッペルゲンガーになっちゃった偽教授は賢いと思うんだよね。
人の知能は感覚の遮断された環境下では低下していく。
だからオリジナルを温室に隔離し、光・音・室温あらゆる刺激を一定にし、知識を与えず、接触する人間をも制限していた。
オリジナルは既に幻覚・幻視・抑うつ・思考の退行化を伴う限界段階だった。
オリジナルの知能は下がり続け、自分の知能を上げ続けることが出来たわけだ。
でも俺はね、ある一点でモモウラ教授は馬鹿だと思うよ。
“高度な知能”? ははっ馬鹿らしい!
そんなことじゃないだろう!
この計画の素晴らしさは、オリジナルとドッペルゲンガーのつながりそのものだ。
この仕組みを応用すれば人間に短時間で特定の思考を植え付けることが可能になる。
洗脳こそがこの実験の真価なのに。
俺には教授の不毛さは理解できないよ、まったく。
だから俺はあの人からドッペルゲンガー製造計画を取り上げたかったんだ。
そしてもっと有意義な研究に役立ててやろうってね、何年か前からタイミングを見計らってたんだけど都合よくドッペル君とカズマ君が来てくれた。
そういう意味で君たちに心から感謝しているよ。
もう分かるよね? 今、俺はデータが欲しいんだ。
テレパシーを行っている間、脳で何が起きているのか知りたい」
そう語り続けながら、カズマが計画書を読む間に持ってきたらしい装置をカズマとドッペルの頭に取り付けた。
装置の機具がカズマの頬の痣に当たってかなり痛む。
「俺の最終目的は、短期間で大人数を洗脳できるシステムの実現」
ソラの独り言のような語りは続いた。
ドッペルはカズマの前の椅子でずっと何か思考を巡らせている。
それが分かるのは、ドッペルが眼鏡の弦に触れているからだ。
「洗脳の命令塔――母体は最高の知能を持った女性にするつもりなんだ。
そして、そのシステムに『ヒガン』と名付ける。
今はまだ人類全ての洗脳は遠く彼岸にあり、だが俺の悲願だ。
そして、それを実現する彼女はぜひ彼岸花のように苛烈であって欲しい。
最高の知能を持った人類であり、司令官でね……。
そういう願いを込めてるんだよ」
自分の言葉に心酔しているようだ。
すぐに笑い仮面を貼り付けたように笑った。不気味だ。
「まあそれはいい。今はまだ洗脳実験の第一段階だ。
記憶の共有によって、二人の人格の境目がなくなると想像してもらったらいい。
安心して、実害はないよ~」
――――――――――――――――――
※以下の文献は、モモウラオリジナルが温室に隔離された状態での情動のあり方を考える際に参考にいたしました。
・杉本助男,「感覚遮断環境下の人の心的過程」,社会心理学研究第1巻第2号,広島大学,1986年
ご紹介した身で申して良いものか分かりませんが、こちらの論文をご覧になりたい方は元気な時にお願いいたします。
閉鎖環境での人間の極限状態を、写真付きで淡々と分析されておりまして、少々辛くなるかなと思います……。
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