あなたの人生で失敗している部分を教えてくれる司令塔

ちびまるフォイ

求められているという錯覚

「このバイトの募集見て来たんですけど……」


「ああ、人間司令塔を希望の方ですね。こちらへどうぞ」


別室に通されるとモニターが並んでいる個室に通された。

ハリウッド映画で警察の人が街の監視カメラをくまなくチェックするシーンが浮かぶ。


「ここであなたは"司令塔"になってください」


「は?」


「さまざまな人が自分の人生がこれでよかったのかと悩み、

 うちの会社へと司令塔の依頼をしてくれます。

 

 司令塔のあなたは、そこでその人の人生を1日見まくって

 人生を豊かにしていない部分をバシバシ指摘するんです」


「なるほど……」


「最初から一度に何人も見るのは大変でしょうし、まずはひとりから始めましょう」


椅子に座らされてバイトがはじまった。

モニターには依頼者に取り付けられた映像が送られてくる。


「さあ、あなたが思う人生を不幸にしている習慣などを指摘してください」


「は、はあ……」


映像を見ていると依頼者は毎日毎日グチをひとりでこぼしていた。

これはいけないと思い、依頼者に司令塔アドバイスを送る。


「もしもし、聞こえますか?」


『はい?』


「あなたの日常を見ております司令塔です。

 今日あなたの行動を見ていて非常にグチが多いなと感じました」


『しょうがないでしょう……毎日毎日つらいことばかりなんですよ』


「いいことに目を向けていきましょう。辛いこともありますが、

 その中であった小さないいことを見逃しています」


『え、そうなんですか』


「たとえば、今日はすごく天気がいいじゃないですか」


『まあ……』


「朝食もうまく作れてたじゃないですか」


『それは……』


「職場で気になっている子から声をかけてもらえたじゃないですか」


『あ、あはは。そこも見られてるんですね』


「あなたの心拍数や思考も含めてモニタリングしてますから。

 司令塔としてアドバイスしますが、あなたは不幸だと思いこむことで

 今を努力しない理由としているだけですよ。改善していきましょう」


『は、はい! ありがとうございます!!』


依頼者の耳へと届くスピーカーのカフを下げて息をついた。


「すごいじゃないですか。これが最初とは思えない司令塔っぷりです」


「こんな感じでよかったんですか?」

「ええ、もう完璧です!」


「ちょっといいことした気がして気持ちいいですね」


「きっと依頼者も自分の人生を軌道修正するきっかけになったと思いますよ」


それから俺はすっかり司令塔バイトにのめりこんだ。


子供をより良くするために親が申し込むパターンから、

代わり映えしない生活を変えたい高齢者までさまざまな人から依頼がやってくる。


人気の"司令官"となると名指しで指名されるので売れっ子は大変だ。


「ふふ、みんな俺のアドバイスを受け入れてくれてるんだな」


世界を小さく改革している実感に心が震えた。


ある日、バイト三昧で明け暮れる日々もよくないと思って友達と遊びにいくことにした。

遊び疲れて近くのカフェでお茶をしていると上機嫌の友達が話し始める。


「でさーー、こういうことがあったんだよ」


「なるほど。あのさ、ちょっといいかな」


「ん? なに?」


「たぶん、その話し方だとうまく伝わらないと思うんだ。

 もっと先に結論を話すとか、聞いてくれるように話す順序を変えたほうがいい」


「お、おお……」


「それと、今日遊んでいるときに感じたことなんだけど

 〇〇するときは手首のスナップを意識することでもっと良くなるよ。

 これは知人の財前寺さんが話していたことなんだけどーー」


「いや、遊びでやってるからそんなには……」


「遊び? いやいや、何事も本気で挑戦できないのはマズイ。

 遊びだから、本気じゃないからっていい続けていると、

 本気の自分はもっとできると過信してしまうしそれにーー」


「わかったわかった! お前はどうしたいんだよ! ケチつけるためにきたのか!?」


「ケチじゃない。これは友人としてのアドバイスだよ。

 お前が今後の人生をより良く豊かにしてほしいと心から思っているんだ」


「うそつけ!」

「本当だ!!」


空気が悪くなってしまいその日はお開きとなった。

別の日に他の人と会っても同じような展開になってしまう。


「なんでだろうなぁ……」


しだいに飲み会などにも呼ばれなくなってしまった。

派手に大暴れしたわけでも、相手の悪口を言ったわけでもないのに。


このままでは司令塔として説得力にかけてしまう。

友達ゼロの人間が「人脈アドバイザー」などと息巻くのと同じだ。


足しげく通うバイト先へと顔を出す。


「ようこそ、今日も司令塔としてお願いしますね。

 あなたにはたくさんの依頼が来ていますよ」


「それが……今日はバイトじゃないんです」


「というと?」


「今日は客として来たんです。司令塔を依頼しに来ました」


「なにかあったんですか」


「実は最近、周りから人が離れ始めていまして。

 自分ではなにも原因がわからなくて悩んでいるんです。

 司令塔に見てもらって自分の日常の良くないところを直してもらいたいなと」


「もちろんです。ぜひ人気の司令塔さんをあてがわせてください。

 いつもお世話になっていますから」


「ありがとうございます!!」


初めて自分に司令塔をつけてもらった。

これで人生でよくなかった部分を集中して治すことができる。


さっそく司令塔から連絡が届いた。


『もしもし。はじめまして、あなたの担当になった司令塔です』


「ああ、これはどうも。よろしくおねがいします」


『さっそくですが気になった部分があったので連絡しました』


「はあ」


『あなたの日常を見ていて気づいたんですが、

 あなたは自分が正しいものとして人に指示しすぎです。

 

 相手の意図や考え、趣向や気持ちを一度でも聞きましたか?

 

 どうして自分の意見に沿わせることを前提でアドバイスするんですか。

 そういった自分勝手な姿勢が人に嫌われているものと考えますよ』


的確な司令塔からのアドバイスが届くと条件反射で答えてしまった。


「お、お前になにがわかるんだ! 俺は人気の司令塔なんだぞ!

 なにがアドバイスだ!! 何もわかってないくせに口出しするんじゃない!!!」


司令塔からは最後のアドバイスが届いた。



『そういうところですよ。』

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