第18話 ミュナ++--



『ミュナ、それより、今まで太刀打ちできてないのにどうするつもりなんだ?』


「むぅ。太刀打ち出来てなかったなんて言わないで」


「おい、なんだ。そんなこと言ってるやつがいんのか?はっお前の眷属は情けねーな」


「はい?なんのことかしら?」


 空もだいぶ暗くなってきた。勝負をつけるなら早いほうがいい。


『ミュナ、あんまり喧嘩してる場合じゃない!三時の方角!!』


「つ!」


 ダイナといがみ合って反応が遅れたミュナが背後に跳ぶ。頬に刃が掠め、赤い筋がうっすらと。


「お話はおしまいにしてよぉ。もぉー。いたぁい。はあ、足首がひねるところだったじゃなぁい」


 髪をくるくると指に巻きながら苛立ちを隠さないミュナの姉が、僕たちに鋭い視線を向けてくる。腕に巻きつく鎖が、蛇のようにうねっていた。


『そういえば、シンヤは?』


「ああ、シンヤお兄様なら、私達を助けて早々に高見の見物を決め込みやがったわよ」


「ちょっとお?」


 ミュナが鎌で鎖を弾く。その隙をついてダイナが姉に接近し、槍を突く。姉は鎖で槍の攻撃を受けた。ふんっとミュナの姉が鼻で笑う。


「さっきまで何もできてなかったのに急に変わると思わないでよぉ」


「やあああああっ」


 をスピードを付けて回転させ何度もミュナが姉に切りかかる。大きい刃での攻めにミュナの姉の眉間がしわ寄る。

 ミュナに降り注ぐ飛び道具は、ダイナによって防衛済みだ。彼女の姉に残された武器は手元の鎖でつながった小さな鎌のみ。


「ぐっ、い、いたぁい。今あなたの鎌が腹部を掠めたわっ。や、やめなさいって。ミュナ!」


「私達吸血鬼は、そんなのかすり傷、よ!!」


 ミュナが、鎌——僕を振り上げた。


「い、いやあああああああっ」


 一瞬。

 僕に、怯えた姉の表情を見てしまったミュナの感情が電流のようにチリリと流れ込んできて。そして、振り下ろしたをミュナは姉に向けなかった。


「……。それでも、王位継承権の争いからは、降りてもらうわ。お姉さま」


 気絶した姉の顔すれすれに刺したを抜いて、僕を人の形へと戻した彼女が、手を握ってくる。


「みゅ、ミュナさん?」


 場違いにも、ドギマギとしてしまった僕の汗が滲んだ手に反して、ミュナの手は氷のように冷たい。

 銀色の剣を、ミュナはもう片方の手に握りしめて。


「さようなら、お姉さまの、眷属」


 淡々とした声色で、鎖の付いた鎌をその手で破壊した。


 鎖が弾ける様を目の当たりにしながら僕は。

 自身で戦う力を入れたはずなのに何も出来ないと、また一つ、逃げ出したくなった。














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ブラッド・ロワイヤル 夏沢とも @30_2

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