へろ うぉるど
生田 内視郎
へろ うぉるど
「おやぁ、コリャなんだね、なぁバアさん…… 、
バアさぁぁーーーんっ!!!」
「はいはい、そんな大声出さなくても聞こえてますよ。全くウチの人は姿が見えなくなるとすぐ呼びつけるんだから、小さな子供じゃあるまいし」
「ええい、小言なら本人のいない所でやれ煩わしい。それよりこれ、ちょっと見てくれんか」
「へろ…うぉるど?」
「馬鹿、ハローワールドじゃよ。ハワイに新婚旅行行った時に一緒に英語勉強したじゃろが」
「そんな昔のこともう覚えてなんていませんよ。そんで、これがどうかしたんですか?」
「うん、最近テレビのシーエムで流れてる葛飾北斎展の場所調べようとパソコン点けたらな、急にこんな画面が出てきたんだがお前何か知らないか?」
「知りませんよぉ、パソコン使わない私に聞いたって分かるわけないじゃありませんか」
「だってお前、この前携帯あの薄いテレビに変えてたじゃないか」
「スマホとパソコンじゃ色々違うでしょう、私もよく知らないけど……。第一スマホだって、
私ロクに使いこなせないで電話しかしてないのに」
「なんでそんなロクに使えもしないのにスマホになんて変えたんだ!お金の無駄遣いだろ!」
「寿命だったんだからしょうがないでしょう、
はぁーやだやだ、男っていうのは歳を取ると何もしないで威張り散らしてばかりで」
「何だとっ!?」
ボソッ「早くお爺さんにも寿命来ないかしら」
「こらっ!聞こえてるぞ!小言なら本人のいない所でやれと言っただろう、ったく」
「兎に角、こういうのはヘタに弄らない方が良いと相場が決まってるんです。
孫達が帰ってきたらまた聞いてみたら良いじゃありませんか?」
「それだと展示会に間に合わないだろう!」
「知りませんよそんなこと、いっつも思いつきで行動するからそういう事になるんです。大体─」
「あゝもう分かった煩わしい!儂一人でなんとかするから、もうあっち行け!」
「何ですか呼びつけておいてその態度は、いいですよ私お昼はさっちゃんとことお食事会に行きますからね、貴方もお昼は適当に外で食べてきて下さい。ふん、だ」
「……クソー、悔しい。大体何なんだこれは。
ハローワールド……、ようこそ世界って意味よな、OKボタンを押せばいいってことなのか?」
世界…、セカイ…?確かにインターネットというものは世界中に存在していて、それが回線を通じて世界と繋がっているというのは分かる。
であればこれは、パソコンの向こうの誰かが儂に挨拶をしていると言うことなのか?
とするならこれは誰かから送られてきたメールみたいなものなのだろうか
誰かって誰だ?
そういえばこの前、夜中喉が渇いて水を飲みに一階に降りた時、孫が真っ暗な中で何やら一心不乱にパソコンに喰い付いていたな。
儂に気付いて直ぐにパソコン閉じて怒られたので、何をやっていたかは詳しく聞けんかったが。
あれは誰かと連絡でも取り合っていたのか?
ふむ、インターネットは世界中と繋がっているからな、国際交流でもしてたのかも知れん。
凄いな、流石わしの孫。
いや、だが待てよ。
今日はたまたま学校に行ったが、いつもは家に引き篭もりきりで勉強しとるとこなぞ見たことない。
嫁の雅子さんもタケシの壊滅的な学校の成績に頭を抱えていたではないか
では一体何をしていたんじゃ?
そういえばこの前珍しく居間で漫画を読んでいたから叱ったら、漫画ではなく読書だと言って小説を見せてくれたことがあったな、
あれは何と言ったかな
確か、俺は異世界転移したのであーたらこーたら、とか言っていた気がする。
異世界?随分昔に読んだ指輪物語とか、ナルニア国物語のような世界のことか
はっまさか!?これはタケシを異世界に誘う為の扉っ!?
そうか!タケシは夜な夜なパソコンを開いて異世界へと赴き、切った張ったの大冒険を繰り広げていたのかっ!
道理で日中あんなに眠そうな目をしている訳だ。
おのれタケシ、儂に黙って儂のパソコンで夜な夜な遊び回ってるとは許せんっ!
後で雅子さんにも言いつけておくとして、
孫がどんな遊びをしているのか、危険な遊びをしていないか祖父としては確りチェックしておかねばならんな、そーれ、クリック クリック」
ビーッビーッビーッビーッビーッビーッビーッ!
「な、なんじゃこれは!おい、パソコン!
しっかりせい!!うわっ!
うわわわわわわ、ばぁさーーーーーんっ!!!」
────
──かり、しっかりしてください勇者!
はっ、此処は?
「もう、こんな時に昼寝だなんて何考えてるんですかっ!」
「はっはっはっ、流石勇者殿。念願の魔王城の前だというのに肝が座ってらっしゃる」
そうじゃ、儂はあの日パソコンから出る謎の光に包まれ、ここ異世界、「ヘルオワルド」に何故か全盛期の若い肉体となって転移してきたんじゃった。
「いよいよ魔王城ですよ、此処にいる魔王を斃せば世界は平和になり、勇者は元の世界に帰れる筈です」
「ずっと待ち望んでた筈なのに、なんだか感傷的になっちまうなぁ」
儂は無言で、仲間達の肩を叩いてやる。
そうだ、感傷に浸るのは、此処にいる魔王を倒してからでも遅くはない。
この冒険を始めてから五年、そろそろ婆さんの寿命も限界に近い。
──待ってろよ婆さん、死に水は取ってやるという結婚を誓った時の約束、必ず守り通して見せるからなっ!
だが、後日孫のタケシもまたこの世界に魔王として転移し、自分と生死をかけた闘いを繰り広げることになろうとは、この時の勇者にはまだ知る由もなかった。────
「遂に追い詰めたぞまおおおお……、ってタケシ⁉︎お前こんな所で何やっとんじゃっ⁉︎」
「ゲェッ⁉︎その声、もしかして爺ちゃんっ⁉︎」
へろ うぉるど 生田 内視郎 @siranhito
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