第53話 最終話
俺は自分を殺そうと胸に手刀を刺そうとした。だが、いくら刺そうと思っても体が動いてくれない。
「トリス、邪魔をしないでくれ!」
「オリオンが死ねばアリエスが悲しむ!」
「そんなこと分かってるさ!あの世でアリエスに思いっきり叱られてくるさ!それでも俺はそっちの方がいい。」
「オリオンに話がある。」
「ゼウスローゼン様も来たんですね。もう俺たちには用なんてないでしょ?神に戻れたんだし、あの邪神たちならちゃんと倒しましたよ。」
「ああ、神界から全てを見ていた。オリオン色々とありがとう。そしてアリエスのこと残念だったな。」
「ねえ、ゼウスローゼン様?力を取り戻したゼウスローゼン様ならアリエスを救うことができるんじゃないですか?」
「私の力ではリバイブ以上の蘇生は不可能だ。済まない。」
「そうですか…」
「だが、お前が命を賭けてもアリエスを生かしたいというのならば協力はするぞ!」
バッ!
「そんな方法があるのですか!?」
「あるといえばあるし、ないといえばない。」
「どういうことですか?」
「完全に死んだ人間を甦らせる方法は神でも不可能ということだ。しかし、その者が死ぬ前に戻り、死を回避させればその死は無くなる。」
「過去に戻って、事実を改変するということか!そんなことできるのですか?」
「不可能ではない。…が、時の番人である神クロノスが邪魔をしてくるだろうな。」
「時の番人クロノス…俺たちの世界でも有名な神様の名前です。」
「そうか…神クロノスは私よりもはるかに上位の神だ。私では口添えすらできない立場だ。私にできるのは過去に渡る方法のイメージを伝えることだけだ。これだけでは普通は時間の移動など絶対に不可能なのだが、あの神界への転移の秘密を1回で言い当てたオリオンならば必ずできると私は信じている。」
「あの転移の秘密?あー!時間軸の移動を繰り返していたっけ!!なるほど…それを利用すれば時間軸を移動する転移も可能となるってことか!」
「一応言っておくが、失敗すれば永遠の時間の狭間でさ迷うことになるかもしれんぞ!!それでもやるか?」
「可能性が僅かでもあるのならやらない選択はありません!俺はそれを必ず掴んでみせます!!」
「そうか…では私にできるのはここまでだ。必ず戻ってくるのだぞ!!」
「オリオン、がんばってな!」
「ゼウスローゼン様、トリス、ありがとう!行ってくる!!」
俺は時間の転移のイメージを構築していった。アリエスが死んで2時間以上は経ってる筈だ。3時間前のこの場所に転移する!!
目の前の光景が反転し、目の前には大勢の人々が慌ただしく走り回っていた。どうやら怪我人を回復魔法で回復していってるようだ。
戦闘を行ってるってことは成功ってことかな?
俺は外に出て、様子を伺った。王都は無数の魔物の襲撃を受け、皆必死に戦い、ここを守ってるようだ。
間違いない!時間転移成功だ!!アリエスを探さないと…
俺は飛翔の魔法を使い、空高くまで上がった。辺りを見渡せば王都は既に100匹近くのレッドドラゴンたちに囲まれ、皆が戦っているところのようだ。
うーん、考えたらアリエスを救うのに目の前に姿を現す必要はないのではないか?俺の存在を隠したままあのレッドドラゴンたちを葬ってしまえば、それだけでアリエスは死ぬことはないんじゃないか?変に姿を現せば歴史を改変させた歪みが大きくなりそうだしな…
『それが分かってるのなら、このまま何もせずに元の時間に戻るがいい!』
「もしかしてクロノス様ですか?」
目の前には神聖な服を着て、大きな鎌を持ったおじいさんがいた。
『そうだ!時間を渡った者の気配を感じたので追ってきた。歴史を改変することは神でも許されぬことだ!!ましてただの人間に許される筈がない!』
「そこは少しだけ多目にみてくれませんか?あなたと同じ神が…といっても邪神ですが、本来授けていた加護を一方的に破棄したことで、本来死ぬことなんてあり得なかった俺の妻があんな雑魚のレッドドラゴンたちに殺されることになったんです。」
『レッドドラゴンたちを雑魚というか…ほう、お前と妻は地球からの転生者か。何だと!お前は神を2人も殺してるのか!?』
「いえ、正確には1人ですね。ファーレはベトログに騙されて自滅しただけですから。それに巻き込まれて妻はあのレッドドラゴンたちに殺されることになったらしいです。本来の力が残ってれば100匹くらい妻だけでも楽勝ですよ。疑うなら妻のステータスを見て下さい。」
『確かに嘘はないようだ!だが、それでも歴史の改変は許されないのだ!!そのタイミングでファーレが加護を破棄したのも、お前の妻の運命だったのだ!諦めろ!!』
「絶対に諦めません!俺は自分の命も未来も全てを賭けて過去に飛びました。もし俺を止めようというのなら、クロノス様にとって不都合なことになろうと大暴れしてでも目的を達成します。」
『それは私を脅してるのかね?』
「ええ、俺は神様よりも妻に死なれることの方がずっと怖い!!妻を生かす為なら、クロノス様を6回殺して消滅させることだって平気でできます。それが様々な世界で混乱を起こす原因になることが分かっていようとです!!それでも俺のすることを止めますか?」
『答えは変わらない!』
俺はその答えを聞くのと同時に動いた!天より大量の隕石を発生させ、レッドドラゴンたちにぶつけるように放ったのだ!!
『させん!』
クロノス様がそう呟くと、全ての時間の流れが止まった!クロノス様を除いて…
やはり時の番人だ!これくらいしてくるよな!!だが、それくらいここに来る途中に予想していたさっ!!!
俺は自分の時の流れを動かし始めた。
『バカな!何故この止まった時間を動けるのだ?』
「言ったでしょ?俺は妻を救う為には何だってするって!」
俺はクロノス様の時間停止の流れを逆行させ、再び時を動かした。俺の放っていた隕石たちはレッドドラゴンたちをことごとく殺してしまった。
「よしっ!」
『まさか私の力を見ただけで真似するとは…お前の才能は全ての世界にとって危険だ!!他の神々に手助けしてもらってでも排除せねばなるまい!』
「クロノス様がこれ以上何もしなければ、危険なんて何もないですよ!俺は妻と平穏に残りの人生を過ごしたいだけなんです!」
『信じられない!と言いたいが、過去のお前の生き方をみる限りあながち嘘と言うわけでもなさそうだ。今のお前の力は上位の神の域にも達している。存在そのものが危険と言わざるを得ない。
お前はステータスやスキルがなくとも神にしかできないような力まで簡単に行使できるようだ。力を封印してもそれすらも大して意味がなさそうだ!
…仕方がない、今回だけはお前のことを信じよう!だがもし今後、その力を行使して世界を狂わすようならば、私の力でお前の存在を前世にまで遡って消滅させてやる!それだけは忘れるな!!』
「ありがとうございます。クロノス様と戦わずに済んでよかったです!俺、これからいっぱい子供を作って幸せになります!!よかったらいつか遊びに来て下さい!!いつでも歓迎します♪」
『お前と話しているとこちらの調子が狂うな…』
俺はそれからすぐに元の3時間後の世界に戻った。そこには先ほどとは違い、笑顔で俺を迎えるアリエスの姿があった。俺はそれだけで涙が止まらなくなってしまった。
「えっ、オリオン?どうしちゃったのよ?何でそんなに泣いてるの?」
「な、何でもないさっ!アリエスの笑顔をまた見れて泣くくらい幸せを感じてただけだ!!」
「何それ?でもようやく一段落したわね?」
「そうだな。これからはゆっくり家族を増やしていこう!!それにはまずは家を建てないとだよな!沢山子供を欲しいし、ちょっと大きめの家がいいな!!」
「えっ?やっぱりオリオン変だよ?」
「変じゃないさっ!ずっと俺はそうしたかったんだ!!これまでしなくちゃならないことばかりでずっと我慢していただけ。これからはもう我慢なんてしてやるもんか!!俺はアリエスと幸せになってやる!!」
「それは私だってそうよ!うれしい。」
この後どうなったか…カシム以外の王家の者が死に絶えていた為、本人は嫌がっていたが、なし崩し的にカシムが王様にさせられた。そしてそれを支える形で転生者の殆どが王宮に勤めることとなった。
メネシスは商人として大成し、王国一の大商人として名を馳せた。
俺たちはといえば、王になったカシムから無理やり今回の魔族との問題を解決した報酬として渡された莫大なお金と、教会のロモス大司教からこれまでの非礼を詫びると言われて渡されたこれまた莫大なお金により、一生働かなくても遊んで暮らせるだけの財産を得てしまったことから、故郷であるラノバの街にそれなりの豪勢な屋敷を購入した。
ラノバの街に戻ってすぐ、アリエスの父であるブラウス師範から正式に実戦空手の道場を俺たち夫婦に譲ると言い渡され、俺たちは子供たちに実戦空手を教えながら、のんびりとその生涯を過ごした。
あの時ファーレの加護を失ったことで一番良かったことは、不老不死を失うことができたことだろう。
やはり人間とは、年なりに老け、寿命があるからこそ、その時々の幸せをより強く感じることができるのだと思う。
本当の幸せとはラノベでは少し退屈だと思えるくらいの平凡な日常にこそ溢れてる。ラノベは今でも大好きだが、俺の人生はもう退屈だとつい呟いてしまうくらいでいいと心の底から思う…
さあ、今日も子供たちの相手で忙しいぞ♪
ーーーENDーーー
ラノベホイホイ~蟻地獄のような罠を越え、神に復讐しろ! 3匹の子猫 @3kitten
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