第52話
ベトログが右手の爪を伸ばし、俺の心臓を貫こうとした瞬間、ベトログの体は強い硬直に襲われた。
「ぐっ?何だこれは?」
「ベトログよ、久しいな!」
「お前はゼウスローゼンか!!何故貴様がここにいる!?」
「私の封印はとうの昔に解かれていたのだ!お前と戦っていたオリオンは、私がポータルマリアの神の権限を取り戻し、神としての力を復活させる為の時間稼ぎを頼んでいたのだ!まさか…ここまでたった1人でお前たちを追い詰めるとは思いもしなかったぞ!!最後の止めは私たちでするとしよう。」
「バカな!?神同士で殺し合うことは固く禁じられているのは知らない筈がないであろう!そんなことをすればお前も消滅は避けられないぞ!!」
「私も消滅は怖い。だがお前たちに封印され、このコカトリスに救われて今に至るまでに、オリオンを中心とした転生者たち、そして魔族と手を取り合い共に戦うことを選択した人間と魔族たちの姿を見て、私はポータルマリアを作り出した神として誇らしく思えたのだ。
私はポータルマリアにはもう神は必要ないのではないかと考えておるくらいだ!人間、魔族、亜人、それぞれが仲良く生きていける未来を、私たち神が手を差し伸べなくとも自分達でその選択をできるのではないかと思ってるのだ。」
「ふざけるな!ならば自分だけ勝手に消滅しろよ!俺はこれからも好きに生きていく!!人間も魔族も亜人もみんな俺のオモチャでしかないんだ!!」
「ゼウスローゼン様…こんな奴の為にあなたが消滅する必要はない!俺たち転生者の恨み、大勢傷つき死んでいった人間と魔族の恨み、優しい心を持ち平和を願っていたのにあんな最後を迎えることになってしまったメノウさんの恨み、その全てを俺が蹴りを付ける!!」
「オリオン!意識を取り戻してよかった!大丈夫なのか?」
「トリス、助けてくれてありがとな!!まじで助かった!ちょっと無理がたたって全身バラバラになりそうな痛みがあるが、おかげで目を覚ますことができた!」
「オリオンには何度も助けられてるからな。これくらいは当たり前だ!オリオンは休んでおいてくれ!」
「そんな訳にはいかない!ゼウスローゼン様、実はファーレが加護を破棄したおかげで、GPで交換したスキルやステータスが成人前の状態に戻ってるんだ!これ、せめてステータスだけでも振れるようにできないですか?」
「あー、それはもう対応した。ただお前たち転生者のスキルは世界のバランスを著しく壊す恐れがあるので、ランダムに普通のスキル構成にさせてもらった。まあ、オリオンの場合はスキルが無くとも、神を越える力を発揮できるようだがな…」
「おお!ゼウスローゼン様ありがとうございます!!ステータスだけでも振れるようになればもう何も怖くないです!」
俺はステータスだけ再びマックスまで上げてしまい、ベトログに向き合った。
「ベトログ、最後に言い残す言葉はあるか?」
「そんなものないね!俺は逃げさせてもらう。」
ベトログはトリスの石化を破り、転移で消えてしまった。
「俺がさっき転移の移動先を読んだことを理解できてないのかね?」
俺はベトログの転移先に転移した。そこはこれまでの神聖な雰囲気とは大きく異なり、赤茶けた岩ばかりの世界であった。
「ここは…?」
「ちっ!ここまでも追ってきたのか!!何故俺の転移先が分かるんだ!?」
「転移の魔法の魔力の流れの法則性を読解したとしか言いようがないな!まあ、転移を何回しようと俺には追えるってことだ!!諦めてさっさと消滅することだ!」
「ふざけるな!俺は元々は邪神だ!!この地獄ではより強い力が発揮できる!」
「ここは地獄なのか?まあいい、どれくらい強くなったか見せてみろよ!俺が引導を渡してやる!!それにここなら世界を壊す心配なく戦える!」
ベトログが幾つもの黒い雷撃を飛ばしてきた。俺はそれに対して、ラノベ好きには堪らない科学の知識「レールガン」を魔法で再現した。電磁誘導、つまり電流と磁力の力により加速投射する技術である。
正に科学と魔法の融合である。俺の放った超加速された弾丸は、プラズマを纏いベトログの放った雷撃そのものすら吸収し、ベトログの体をぶち抜いた!!さらにその勢いのまた後方に広がっていた岩山をも吹き飛ばしてしまった。
その場にはベトログの足と首だけが残され、地面に転がっていた!
「バ、バカな…」
「これはラノベ好きに人気の科学の知識の応用だ!!お前は負けたんだよ!お前がオモチャと蔑むラノベ好きの人間の知識になっ!!お前の死はお前自身が招いた因果だ!!精々あの世で反省してるんだな!」
「ふざけるな~!!」
「ふざけるなはこっちの台詞だ!散々人々の人生を弄んだくせに、その因果で自分がやられることを最後まで認めようとしないのは、正直虫けら以下だぞ!!」
「俺が虫けら以下だと…」
「ということで、そろそろ俺たちの因縁も終わりだ!」
俺はベトログの足と頭を超圧縮し、空に放った。米粒以下の肉塊になったベトログはそこで大爆発し、地上へ向けて降り注ぎながら燃え付きていった。
「自分で作っておいてなんだが、汚い花火だ!念のため消毒だ!!」
俺はさらに地獄の業火を辺り一面にくまなく放ち、ベトログの燃えかすすら一粒すら残さぬように消滅させていった。
「終わったか…あとは地上へ戻ってアリエスたちと合流するだけだな!」
俺は地上の王都へ向けて転移した。地上でもやはり戦いがあったようでそこらから煙が上がり、血の香りが漂っているようだが、既に落ち着いているようだ。
気配を探り仲間たちを探す。
「カシム!」
「オ、オリオンさん!ご無事でしたか!!」
「ああ、ファーレとベトログは倒してきた!もうあの邪神たちに悩まされることはないぞ!!」
「本当ですか!!でもそれなのに…」
カシムが暗い顔で俯く。
「何かあったのか?」
「アリエスさんが亡くなられました…俺たちが不甲斐ないばかりにすいません!」
「えっ?アリエスが!?蘇生するから遺体のところへすぐに案内しろ!!」
「オリオンさん…。くっ、こちらです。」
他の多くの遺体が並ぶ中、アリエスはまるで眠ってるかのようにそこに寝かせられていた。他の遺体たちとは違い傷1つ見当たらない。
「カシム、アリエスは本当に死んでるのか?寝てるだけじゃないのか?」
「それはアリエスさんを何とか助けようと、皆さんが回復魔法を使い続けてくれたからです。残念ながら…間違いなくアリエスさんは亡くなられてます。」
「なら蘇生するさっ!…よし!これで蘇生ができたぞ!!すぐに目を覚ます筈だ!」
だがいつまでも待ってもアリエスは目を覚ますことはなかった。
「オリオンさん…アリエスさんが亡くなられたのは1時間以上前の事です。残念ながら蘇生は不可能かと!!」
「嘘だ!嘘だ!嘘だと言ってくれ!!やっと全ての問題が解決したんだぞ!ようやく幸せな日々を過ごせるんだぞ!?何でだ?何でアリエスは死ななければならなかったんだ!?教えてくれ!何故なんだーーー!」
「オリオンさん…」
集まってきた転生者の仲間たちも、俺の悲痛な姿を見て言葉もなく涙を流すことしかできなかった。
「あの時、俺たちは100匹を越えるレッドドラゴンと戦っていました。正直楽勝な流れでした。ところが突然全身の力が抜ける感覚に襲われ、ステータスを見たらスキルが消えてました。その時点でレッドドラゴンはまだ30匹ほど残っていました。
俺たちはスキルが無くなった途端に、殆ど戦力になりませんでした。その中で唯一アリエスさんだけはそんな状況でも魔法を使い、戦い続けてました。俺たちを逃がす為です。しかしステータスも下がり、生活魔法だけではレッドドラゴンの集団と戦うにはあまりにも戦力差がありすぎました。
俺たちが避難し、振り向いた時にはアリエスさんはレッドドラゴンたちに囲まれ、その爪で切り裂かれていました。あの時俺たちには何もできませんでした…大好きなアリエスさんが殺されるのをただ見てるしかできなかったのです!!
すいません!…本当にすいませんでした!俺たちが不甲斐ないばかりに…」
「そうか…アリエスはみんなを守る為に死んだんだな…そうか…そうか……みんな、すまない。しばらくアリエスと2人にしておいてくれないか?」
「わかりました。」
俺はわざわざ2人っきりにしてもらったのに、何の言葉も出てこなかった。ただただ、涙だけが流れ落ちるばかりで、アリエスに声をかけようとしても嗚咽が出てくるばかりで言葉にならなかった。
「アリエス、俺もこのまま一緒に死んでいいかな?アリエスのいない人生なんて生きていける自信がない。」
1時間ほど泣いた後、ようやく出てきた言葉はそんな言葉だった。今の俺には生きていることの方が苦痛だった。
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