第51話
ファーレは、上空にて甦った。ミニ太陽の爆発によって本日4度目の死を与えられてしまったのだ。それはあと2回死ねば本当に死んでしまうということに他ならない!この時初めてファーレは死を恐れた。
邪神とはいえ神として生まれたファーレには、死という概念は生まれたときからあってないものであり、あくまでも他人事であった。それが今、初めて目の前にちらついているのだ。
ただのオモチャだと思っていた1人の人間に、何の抵抗もできぬままあっという間に4度もの死を与えられてしまったのだ。否が応なく考えさせられる。
このままでは自分は確実に消滅させられてしまう!!と…
単純な強さでいえば、確実に自分たちの方が劣ることはここまでの戦いで理解した。ではどうする?逃げるのか?どこへ?奴はこの別次元・別時間軸に存在するこの神界まで自力で辿り着いた存在だ。逃げ切れるのか?
そもそも何であいつはあんな凄まじい強さを手に入れてるんだ?そうだ…私が加護でチートスキルを大量に与えたからだ…しまった!こんなことならもう少し弱いスキルしか与えなければ良かった!!
そもそも転生者など招き入れなければこんなことにはならなかったのだ…失敗した!私たちは自ら危険な存在を自分らの世界に招き入れていたのだ。自分等の力を過信し過ぎていた!転生者たちを舐めすぎていた…
「うっ!」
「こんな上空で何を呆けてたんだ?」
再び私に死がもたらされた瞬間だった。
あぁ…もう次に殺されれば私は完全に消滅させられてしまう。怖い!怖い!!死ぬのが怖い!!助けて!助けて!誰でもいいから助けてよ!!
私が5度目の復活を果たすと、そこにはベトログがいた。
「ファーレあいつヤバすぎるよ!このままじゃ2人とも消滅させられてしまう!!頼むファーレ、奴ら転生者に与えた加護を消滅させてくれ!」
「そんなことしたらどちらにしても私の存在は消滅しちゃうわよ!!私は消滅するのが怖いの!」
「じゃーどうする?このままじゃあと数秒でお前は消滅させられるだろう。俺だってもう3回も殺された。どうせ殺されるなら最後に賭けにでないか?ファーレお前の精神を俺が吸収する。その直前にお前は加護を取り消せ!上手くいけば奴らは弱体化し、俺たちは体は1つになるが生き残れるぞ!」
「分かった!じゃー加護を取り消すから、お願いね!」
私が加護を消した瞬間、神として地上の者に約束した契約を破った罰が私に襲いかかってくる。だがベトログは何も動こうとしない。
「ベトログ?どうして…」
「バーカ!俺の体にお前の精神なんか入れたら乗っ取られる恐れがあるだろ!俺だけでも生き残れればそれでいいに決まってる!!」
私は神として存在することが叶わなくなり粒子となって消え失せた。
「ちっ!しまった…やはりこうなったか。追い込んだらファーレが加護を取り消すかもしれないとは思ってたから、その前に終わらそうとファーレ狙いで殺しまくってたのにな!これは力が抜けた感じだな…俺はともかく、地上のみんなが心配だ。」
名前:オリオン
種族:人間
スキル:共通語理解、体力2倍、力2倍、俊敏2倍、生命力2倍、魔力2倍、精神力2倍、アイテムボックス、転移魔法
GP:46329765
称 号:異世界転生者、ファーレ神の加護を取り消されし者、ベトログ神の呪いを乗り越えし者、魔力切れジャンキー、神獣コカトリスを救いし者、神獣コカトリスの盟友、転生者たちを救いし者、ゼウスローゼン神の加護を受けし者、全てのダンジョンを制した者
体力:200(×2)
力:200(×2)
俊敏:200(×2)
魔力:200(×2)
精神力:200(×2)
なるほど…これまで使ったGPは一応戻ってるんだ!せめてステータスだけでも振れればコントロールが楽になるんだがな…
ちっ!GPを使って覚えられるスキルもステータスアップも一切なしか!仕方ない…このまま感覚だけで全てをコントロールするか!疲れそう…
「ハッハッハー!これで一気に形勢逆転だな!?俺たちの邪魔をしたことを後悔させながらゆっくりとなぶり殺してやる!」
「俺たちの?俺にはお前がファーレを騙して加護を消させたようにしか見えなかったけどな…一括りにされたらファーレが可哀想だ!そしてお前らの今のやり取りでお前らの復活の回数はおおよそ把握できた!!
ベトログ、お前はおそらくあと2回しか復活できないだろう?」
「それがどうした?それが分かったからといって、今のお前には俺を倒すことなど夢のまた夢だ!」
「そうでもないかもよ?」
俺はその呟きの直後、これまでと同様にショート転移でベトログの後ろに飛び、エクスカリバーでベトログを切り刻み、燃やし尽くした。
復活したベトログの顔は恐怖に染められていた。
「何故だ!スキルを失ったお前に何故神である俺を殺すことができるのだ!?あり得ん!あり得ない!!」
この世界のスキルとは、本来長い年月をかけて基本から順を追って学んでいき、1つ1つ様々なことをできるようになる過程をすっ飛ばして、いきなりそれを使いこなせるようにできるという裏技のようなものだ。スキルを覚えると体が自然とスキルのレベルに適した動きをとってくれるのだ。
ステータスも同じだ。ステータスの数値に合わせて体が自然とそれに適した動きを取るようになるのだ。つまりその無意識下で行われているスキルの補正を完全に理解し、感覚でそれを自分の管理下に置けば数値以上の動きも可能となる。勿論それには肉体に大きな付加をかけることには代わりないが…
「あと2回でお前もファーレと同じく消滅だ!ファーレがあの世でお前の死を待ちわびてる筈だぞ!!」
ベトログは両手の爪を伸ばし、俺に斬りかかってきた。
「間違いなくお前のステータスは未成年のものと変わらない状態になっている。こちらから攻撃したら避けられる筈がない!」
「それはどうかな?」
ベトログの素早い攻撃を俺は最小の動きで避け、その心臓に手刀を刺し、ベトログの魔力を吸い上げながらそれを利用し、ミニ太陽を体内に作り出して遠くにショート転移した。
俺が離れるのと同時にベトログの体は内部から大爆発し、そのまま燃え尽きた。復活したベトログは最早パニック状態に陥っていた。
「バカな!バカな!バカなーー!!」
「これでもう復活できないんだろう?どうする?お前らがバカにしている人間ごときに恐れをなして逃げ出すか?」
「ぐっ…」
ベトログはどうするべきか悩んでいた。ここで逃げても神としての誇りも尊厳すらも失ったままどう生きるというのか…そして、目の前にいる男は確かにステータス以上の動きや魔法を使いこなせる化け物だ!
しかしその顔色はあからさまにおかしい。そして平静を装っているが汗は吹き出し、無理を続けて限界を迎える直前なのは間違いないのだ!
ベトログの選んだのは、情けなくはあるが、生き残る為、勝つ為に守りを固め、俺の自滅を待つことだった。ベトログは首を斬られようと、心臓を吹き飛ばされようとそれくらいで死ぬことはない。体の大部分を原型を伴わないほど破損させなければすぐに回復できるのだ!
俺は止めを刺すためにショート転移でベトログの横に移動した。その瞬間ベトログはそれに反応し、ただ別の場所に転移で逃げ出した。
「神ともあろう者がただの人間から逃げるのか?」
「ふんっ!俺はお前に勝つ為にこうして守りに徹してるに過ぎない!分かってるぞ!お前がステータスやスキルを失ってかなり無理をしているのはなっ!!」
「くっ…」
気づかれてしまったか…確かにかなり無理を続けてきたから、もう立ってるだけでもかなりしんどい。あと数回避けられでもしたら、俺は意識を保っていられるかすら怪しい…
だがそれがどうした!俺はあの邪神を倒してアリエスのところへ帰らないといけないんだ!!
俺は再びショート転移でベトログの傍に転移した。ベトログは再び転移で逃げ出したが、俺はそれを感覚で追い、ベトログの転移先へ俺も連続転移した。
「何故転移先にお前が!?」
俺はそのままベトログの胸に手刀を刺しこみ、再びベトログの魔力を吸収し、それを使い水分を吸収した。ベトログはミイラになりながら信じられないとばかりに恐怖に震えることしかできなかった。
「これで終わりだ!燃え尽きろ!!」
ベトログ自身ももう自分の消滅は免れないと諦めた瞬間、俺は意識を失ってしまっていた…
俺が気絶し倒れたことにより、ベトログの体はすぐに元の状態に戻っていった。そしてようやく現在の状況を把握し、安堵と愉悦に浸っていた。
「ハッハッハー!勝った!!ギリギリだったが、それでも俺の勝ちだ!!」
ベトログは左の手で俺の頭を握りしめ、俺の体を持ち上げた。
「この俺をこんなに追い詰めたことは褒めてやる!褒美に苦しまずに一瞬で殺してやろう!!」
ベトログは俺の心臓へ目掛け爪を伸ばし始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます