生徒会3
3年生が卒業間近に迫り、新たな生徒会役員が選出された。来年度の新入生のために庶務の一席を空けておく。来年度の生徒会役員には今季の役員以外に、ザック、ブライアン、スカーレットとグレイスが新たに加わり、初の女性生徒会会長が抜擢された。
「生徒会会長には、リンダ・アトワールを推薦する」
アレックスが書状をリンダに渡し、恭しくそれを受け取る。
「ソル先輩を差し置いて、リンダさんですか」
ザックが目を丸くする。
「ザック君、君は成績優秀だからという理由で生徒会役員に抜擢されたけれど、男尊女卑的な考え方をするようなら、考えさせてもらうよ?」
笑顔を貼り付けたまま、アレックスが釘を刺し、滅相もない、と慌てて両手をあげた。
「人には得手不得手というのがあるんだよ〜、ザック君」
ソル先輩はいつものヘラヘラした笑顔ではあるものの、視線は厳しい。
「君らは影にいたのだから、それくらいわかってると思ってたけど?期待外れだったかな」
「そ、そんなつもりで言ったわけではありません!失言でした!」
「ソルには引き続き広報を担ってもらう。後援に着くのはブライアン君にお願いしよう。会計にはスカーレットさん、書記にはグレイスさん、庶務にはザック君にお願いすることになった。不満がある人は手をあげてくれ」
アレックスが見渡すが、誰も意義はないらしい。アンナルチアが視線を上げると、ルークと目が合った。何か言いたげな顔をしていたが、アンナルチアはふと微笑み視線を話す。
「それから副会長にはアニーにお願いしよう」
「私ですか?」
「ああ、1年生の君が2年生も纏めなければならないのは大変だろうけど、君の知名度は高い。能力も問題ないと学園長も認めてくださったので、頼めるかな?」
「……問題も抱えていますが、大丈夫でしょうか?」
「役員の補助が見込めると信じているが、リーダーというのは何かと孤高になりやすい。その重圧に負けそうだというのなら代役を立てるが、個人的には君ならできると思う」
問題というのは、当然のことながら今現在流れている醜聞のことだ。もちろん、生徒会役員は全員把握している。それが、どこから出ているのかも、わかっている。
アレックスはちらりと涼しい顔をしているザックを視界に収めた。
* * *
「全く小蝿のようにブンブンうるさいったらないわ!」
その日、珍しくリリシア以外のことでアマリアが腹を立てながら生徒会室にやってきた。部屋にいるのはアレックスとソルだ。
「私のお姫様は何をそんなにお冠なのかな?」
「アニーの周りに飛び回る小蝿よ」
「ああ…あの噂か〜。全くルークは何をやっているんだかねぇ〜」
カリカリとペンを走らせる目は卓上から上げず、話に参加するのはソル。
「またうちの妹が煩わしいことをしているのかと思えば、別の小蝿が湧いていたわ」
「馬に蹴られる運命にある奴のことだね?」
自分的にはうまく比喩したと思ってニヤリと笑ったソルだったが、それはアマリアには通じず
「はぁ?うま?」と返されてしまった。軽く頭を振って、アマリアはお茶を入れる。その手は怒り狂う言葉遣いとは逆で丁寧で上品だ。
「とにかく、わたくしたちが卒業するまでに何とか丸く収めないと、安心して卒業もできないわ」
「アマリア、君はアニーに入れ込み過ぎだよ。彼女が対処しなければいけないことなら、彼女に任せておくべきだ。それくらい対処できないのなら、それまでーー」
「今すぐ婚約破棄しても構いませんのよ!?」
「えっ!?」
「ええ!それがいいわ!婚約破棄なんて醜聞、あなた自身が対処しなければならないことですもの!実力でなんとかなるんですわよね?」
「ま、待って!なんで私たちのことに話が飛ぶんだい?」
「わたくしの妹よりも妹らしいアニーに向かって火竜に向かって氷山を投げるような発言をする男ですもの!わたくし、大変傷つきましたわ!そんな薄情で冷たい男と家庭なんて気づけないと思いますのよ?おわかりになって?」
「わ、わかったよ!わかったから落ち着いて!なんとかしよう!だから!ね?」
「最初からそう言ってくださればよかったんですんわ…」
「君の願いならばなんでも聞くよ、私のお姫様」
大慌てで溺愛するアマリアをぎゅうと抱きしめるアレックスは、まるで生徒会会長の威厳はない。チラリと視線をあげたソルは片頬を上げて鼻で笑った。
「僕の掴んだ情報では、その小蝿はルークの弱みを掴んで、アニーに近づくなと言いくるめ、ルークとリリシアが婚約関係にあるんじゃないかと噂を流した、ってことだねぇ」
「そうなのか?」
「残念ながら、ヘタレの我らがルーク君は、後ろめたいことがあるのかアニーに告白できずにいる、というところまでは掴んでいるんだけど。その隠していることについては僕の力でもわからない。公爵家と学園長が絡んでいて隠蔽されてるんで。卒業したらもう少し調べられるんだろうけど学園内では無理だね」
僕にもそこまで権限がないし。とソルは自身の持っている情報を提供した。
「そこまで調べたのか」
「アマリアは何か知ってるんだよね?リリシア嬢が絡んでるってことは」
アレックスがリリシアの顔を覗き込むと、気まずそうに視線をそらした。
「……お父様が侯爵家に婚約の申し出をしたのよ、ルークとリリシアの。でも当たり前だけど断られて帰ってきたわ。ルークは侯爵家の後を継げず、家を出て公爵家の庇護下に入るような話を聞いたわ」
「公爵家?ドイル家か?あそこは嫡男がいたはずだが」
「そういえば、先日マリエッタ夫人が学園に来ていたって言ってたっけ。あの人が相手だと情報は漏れないかなぁ…。でも侯爵の次男あたりは口が軽そうだ」
「そうなのか?」
「調べてみる?」
「いや…。それよりその小蝿って誰のことだ」
「ザック・ブリンガー子爵令息。1学年第二位の成績で入学し、現在影の生徒会としてアニーを護衛している男だよ」
「あいつか」
「そうよ。腹黒そうな顔して、うろうろわたくしのアニーの周りに群がっているのよ…。うざったいったら。自分が色男だとでも思っているんじゃないかしら。あの胡散臭い笑顔を見たら、はたいてしまいそうだわ」
「言葉遣い気をつけようよ、アマリア…」
ふむ、と考えながらアマリアの入れたお茶を優雅に啜ったアレックスはニヤリと笑った。
「それじゃ、今年の影を表に引っ張り出すとしようか」
「それじゃ、ますますアニーに近づいてしまうわ!」
「大丈夫だよ。身の程を弁えないのであれば、その前に叩き潰すだけだから」
ソルはキョトンとした顔をしてからすぐにため息をつき、どっちが腹黒なんだか…と頭を左右に振った。
結婚の条件 里見 知美 @Maocat
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