【書評】あをにまる「今昔奈良物語集」(KADOKAWA)

 本著は、カクヨムにて連載されていた作品に、書き下ろしを加えたものである。

 その内容に関する評価については、すでにレビューを書いているので、そちらを参照してほしい。


『いやあ、おもしろかった』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054892320251/reviews/16817330648397032457



 さて、書くのもあれな話かもしれないが、読んでいて一点、気になった箇所があった。

 江戸時代を舞台にした「三文の徳」という作品の中で、大工の甚五郎が次のセリフを吐く。

『いや、特にその、えーと、至って平和だったと思うぜ』(86ページ)

 細かい話だが、江戸時代に「平和」という言葉はない。平和は、おそらく幕末から明治初期に、peaceの訳として生まれた、比較的新しい言葉である。

 気にならない人にはどうでもいい話かもしれないが、私はどうもひっかかった。

 さりとて、では、この場合の「平和」の持つニュアンスを損ねない代替語があるかと言われれば、なかなかちょうどいいのがない。「至って何もなかったと思うぜ」か。平和をめぐる小難しい問題。

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