アオギリズム Ⅲ

【書評】村上春樹「羊をめぐる冒険」(講談社文庫)

『そんな風にして、そんな欠陥を抱えこんだまま、人間は生きていけるんだろうか？　もちろん生きていける。結局のところ、それが問題なんだね』

　いるかホテルのところまでは、だらだらと読んでいた。しかし、いるかホテルの秘密をめぐる箇所からは一気に最後まで読んだ。

　いるかホテルの箇所は、新人が編集者に見せたら、ご都合主義のためにボツを喰らいそうな設定だったが、個人的には、「ようやく物語が動き出してくれるか」と興奮した。とてもよい、理想的なご都合主義であった。

　ラストはよくわからない。村上さんが影響を受けた小説を読んでいれば、わかったのかもしれない。でも、十分、おもしろい締め方であった。

　世上、村上春樹的比喩と呼ばれるものに、多少、「やれやれ」と思わぬではもなかったが、感心するたとえも何個かあった。

　私には文章の滋味を噛みしめる能力はない。ただただ、ストーリーのおもしろさを追う読者である。