すすけた天井

夏伐

すすけた天井

 私は天井を見上げた。


 火事があった我が家は真っ黒にすすけてしまって、崩壊寸前だ。屋根には穴が開き、雨漏りもする。


 今では管理する者もなく、庭も荒れ放題。


 「心霊スポット」に地名を入れてグーグルで検索すれば、うちは上位にランキングされる有名心霊スポットだった。


 なんでも火事で死んでしまった家族のすすり泣きが聞こえるらしい。


「みふゆ、何してるの? 早くこっちに来てご飯食べなさい」


 母が私に言った。


 父も無言で母が用意した夕食に手を付ける。妹が炒め物からピーマンを避けて肉ばかりを選んで小皿に盛っていた。


 今日も同じ食事。そしていつも夕飯だ。


 家族団らんのこのスペースは、いつも火事が起こる前と同じ。天井だってとても綺麗だ。


 私はため息を吐いた。


「どうしたのよ、みふゆ。あんた最近ため息ばっかり吐いて、まなつの能天気さを少しは見習ったら?」


「そうしたいのは山々ですけどね!」


 私は母に怒った。


 父は私と同じように気づいていて何も言わない。


 母とまなつは二人そろって能天気だ。


 あの日、私たちが眠っている間に、家から出た炎が全てを焼いた。


 初めは私も気づかなかった。


 同じ食事。そして気づくといつも同じ夕飯時を繰り返していた。


 違和感に、私は天井を見る。黒くすすけた天井、そうやって見てみると、家には夜になると若者の集団がやってきていることを理解した。


 彼らは私に気づかない。


 父が必死に、家に入るな、と叫んでいるのを見ていた。それでも彼らはやめない、聞こえないのだから。


 父は私の視線に振り向いた。


「みふゆ……。母さんとまなつには、気づくまで黙っていよう」


「うん」


 それから私は綺麗な天井と真っ黒な天井の下を行き来する生活を始めた。

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