踏み外す彼女⑥
「さっそくだけれど、これ」
そう言って美波は俺に薄い本を差し出した。薄い本と言ってもR18的な物ではない。誰でもわかるけど一応ね。ちなみに俺はまだ17歳。誕生日は7月27日。可変戦闘機に乗ってる姫と同じ日だ。確かソプラノ姫だっけか?多分違うな。ノルマクリア失敗。
彼女の差し出したそれには“私の新しい飛び方”とゴシック体の太字で書かれていた。なんかどっかで聞いたことあるような、ないような。
確か去年埼玉の私立高校の文化祭でこんなタイトルの演劇をやっていた気がする。オリジナルストーリーで完成度がすごいって話題になってたな。MY tubeに動画が上がってたのを俺も見た。リブラ役のイケメン具合がムカついた記憶がある。あの鼻につく感じがなんか
どうやらこれがオーディションの課題らしい。
「とりあえず読んで、このシーンの流れを掴んで欲しい。そうじゃないと練習にならないから」
「わかった。でも練習つったって俺は演技とか全然できないぞ?」
俺は台本を受け取るなりそう言った。正直この手の演技なんて人生で一度もやった事がない。幼稚園とか小学校でお遊戯会とかなかったの?って思うかもしれないが、そもそも俺は保育園。そういった行事はちょいと難しい。小学校は生徒数が多すぎて運動会と月一の歌おう集会ぐらいしか大きなイベントが開かれなかった。よって俺は演技とか演劇みたいのとは縁遠いのだ。はい、Q.E.D.
「それでもいいわ。相手がいるのといないのでは気持ちの入り方が全然違うから。
真剣な眼差しの美波に少し圧倒された俺がいた。
主人公はクリスと言う女性。
台本は三人の再会シーンだ。警備兵に入れと言われ、大きな扉が開くところから始まる。
それを意識して美波がゆっくりと歩いて近づいてくる。俺はリブラ兼アルシア役。
『ひさしぶり、二人とも。元気だった?』
クリス改め、美波は笑顔でそう言う。なんだか違和感があったが、一度通しでと言われているのでこのままリブラのセリフ。
『あぁ、ひさしぶり。僕らは元気だったよ。それにしてもクリスの作った髪飾り、とても人気らしいじゃないか』
『うん、そうなの。二人のお陰。二人が私の才能を見つけてくれたから、私は自分の力で生きていけるの。本当にありがとう』
美波は笑顔を崩さない。でもやはり違和感があった。俺の想像していたあの演劇のクリスと何かが違っていた。
『こんな立ち話なんて落ち着かないでしょうし、お茶を用意しているから一緒にどうかしら?』
気高く美しいアルシアのセリフが挟まる。
そして美波は『うん』と頷いた。
ここで台本は終了。オーディションの内容はここまでだ。俺の演じるリブラとアルシアはさておき、やはりクリスに違和感があった。
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