踏み外す彼女⑤

 さっきまで居た英語科から階段を1階分降りて、渡り廊下を左。階は違うが教室のある校舎に戻ってきてすぐの教室。つまり俺の教室の真上の部屋に俺は、美波より少し遅れて着いた。

 少し遅れたのは、決して美波の後ろ姿を見てたかったわけではなく、彼女の歩くスピードが速くて追いつけなかったからだ。ということにしておこう。

 廊下は走っちゃダメだぞ⭐︎

「んで、なんで俺なんだ?」

「貴方、察しも悪いのね」

呆れた声で美波がそう言う。なんだよわかんねぇよ。

「貴方に頼んだのは都合が良いからよ」

「はいはい、俺は都合の良い男ですよー」

美波の目が更に冷たくなる。何?俺そんなにいけないこと言った?

「都合が良いって言ったのは、貴方なら問題にならないってことよ」

「いや、どういう」

「貴方らなどうにでも言い訳できる。そもそも変なうわさが立つことも無いわ」

俺が言いかけたのをかき消すように、無理やり美波は続けた。強引な女だ。やっぱ俺嫌われてる。

 でもわからないでもない。女子ってそういうの気にするよな。放課後男子と2人きりで…なんて目撃されたらよからぬ噂が出てくるだろう。それは俺でもわかる。俺とならそういうのを無しにできると考えたのか。え、なんで?

「そもそも貴方はバカにされていい人間じゃない」

小声で言ったせいでよく聞こえなかったが、なんか言った気がした。

「まぁ、いいよ」

俺はなかあきらめてそう返した。まったくこの女は、正直なやつだな。

 ちゃんと自分の意思を持って将来を見据えて、行動している。そういうのは嫌いじゃない。

 ただちょっと言い方がアレなだけで、悪い人ではない。バスケ部でだって、自分の意見を通すためにそれに見合った努力をしていた。きっと今回もそうだ。俺に練習相手を頼んできている。それだけ本気で、結果も付いてくるだろう。

 不思議と「彼女なら」と思わされてしまうのだ。それ故に高嶺たかねの花という言葉があっているのだろう。届かないほど遠くまでの圧倒的な努力。彼女の武器はそこにある。名付けるならってところか。

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