それでも車輪は転がり続ける②

 ぐるっと正門側から校舎を囲うように移動して、3年棟の裏まで来た。

 駐輪場ちゅうりんじょうは学年ごとに分かれていて、一年が校庭に面したピロティ。2年が北側の体育館と1、2年棟の間の駐車場横。そして3年はここ、南側の3年棟の裏だ。ちなみに万部の部室から1番遠いのがこの3年棟だ。

 俺は自転車を探し始めた。もう多くの生徒が帰宅したのか、まばらに置かれた自転車たち。その中のピンク色、と言うよりはマゼンタに近い色の自転車を目指す。ピンクって言うとライダーに怒られる。

 マゼンタ自転車にたどり着き鍵を差し込む。

 ガガッザク。

掘削音くっさくおんみたいになったが、鍵を差し込む音です。

「また入り悪くなってんな、ついでにエアダスターも買ってこよ」

ぶつぶつ言いながら、スタンドを上げて自転車にまたがる。


「何やってんの?他人の自転車パクってんの?」

不意ふいに誰かが声をかけてきた。イヤホンを外しながら近付いてくる彼。

「おう、冬磨とうま。ちょっと買い出しにな。自転車のパンク修理セットを買いにユニィまで」

「俺の自転車のパンクを直せなかったお前が?」

「やめろあれは黒歴史くろれきしだ。清佳のは直せたから無かったことにしてくれ」

「あの後自転車屋に持ってくの恥ずかしかったんだからな?」

「それは悪かったって。あのときあやまったろ」

俺の古傷をえぐって楽しんでいる。自分の嫌な思い出のはずなのに表情は笑っている彼。

 彼は家の事情で高1のときにバスケ部を去った小北冬磨おきたとうまだ。悪戯いたずらっぽい笑顔で仲間と楽しそうにたわむれてるのをよく見る。根は優しい奴で、5人兄弟の長男で兄弟愛が強く、面倒見がいい。見た目とは裏腹にめちゃくちゃいい奴。過去に遥香が好きになって、散々さんざんなことになったがその話はおいておこう。長くなる。

「まぁいいや、俺も一緒に行くよ」

「は?行っても買うもん買ってすぐ帰ってくるぞ?待たせてる人いるし」

 俺が拒否きょひすると、いいから行くぞといつの間にか出してきたをぎ始める。やれやれと思いながら俺はそれに続いた。

「なぁ、遥香の様子どうだ?」

校門を出てすぐ冬磨が口を開く。

「別に、いつもと変わりねーよ」

俺は平然と答えた。

「そうか」

 さっきも言ったが、この2人は1年の時に一悶着ひともんちゃくあった。遥香が冬磨を好きになって告白したまでは良かったが、当時そんな経験が全く無かった冬磨は冷たい態度をとって振ってしまった。それにショックを受けた遥香は3日ぐらい立ち直れず、学校にも部活にも来られなくなった。

 冬磨はずっとそれを気にして、俺の顔を見る度に遥香の様子をこっそり聞いてくるようになったのだ。

 ほらな、めちゃくちゃ良い奴だろ?ムカつくぐらい良い奴だ。だからいつも俺は嘘偽うそいつわりなく答えている。

「今は他に好きな人ができたらしくて、あの頃の恋する乙女に戻ったぞ」

「そっか」

どこか遠い目をする冬磨。自分を好きだと言っていた子が他の人を好きになったと聞いて少し落ち込んでるのだろうか。カワイイところもあるなと俺は微笑ほほえんだ。

「他に好きな人ができたなら俺は安心できるよ。俺が振った後のあいつは抜けがらみたいに何も無かったから。あーあ、やっちゃったなって後悔してたんだ」

「ふーん。ひとの古傷をえぐってくるお前でも罪悪感ざいあくかんってあるんだな」

「はー?お前。俺を何だと思ってる?」

「何だろうな、意地悪いじわるで優しい長男?」

「ダメだな、わかってない」

はぁとため息混じりで返す冬磨。俺をバカにするのは彼なりの照れ隠しだと俺は知っている。もーツンデレー。かーわーいーいー。

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