その放課後は今までと少し違って③

 この部室は体育館とさほどはなれていない。とびらけっぱなしにすれば体育館の音が聞こえるくらいの距離感きょりかんだ。今もダムダムとドリブルの音が聞こえる。後輩ちゃん達頑張ってるな。

 2階建てのプレハブ構造こうぞうで校舎とわた廊下ろうかで繋がっている。ちなみにここは使われなくなった部室棟ぶしつとうで年1の行事、体育祭や文化祭などで使う道具が置かれている部屋もある。万部はその中の一角。何故だかクーラーが付いているこの部屋を部室として使っている。一階なので冬は寒そう。ストーブがいるな。

 現在の部室棟は校庭に面した校舎沿いにある。あっちは比較的新めで空調完備。快適かいてきすごごせる。いいなぁ、俺達もあっちがいいなぁ。まぁ、先週までいたんだけどね。

 そんなことを考えながら適当てきとうに片付けているうちに掃除は終わり、俺達は椅子と机の模様替もようがえを行っていた。

「タクそっち持って」

「わかった。せーのっ」

俺と遥香で長机を動かす。実は俺1人でも動かせるけど誰かと一緒にやった方が楽しいし、遥香に一方的に指示しじされるのも気にくわないので2人で動かしている。

「机の位置はこのへんがいいよね。タクがおくで私たちが両脇りょうわき。」

そう言って遥香が長机の短い辺、長い辺、反対の長い辺の順で指を指さした。俺は奥ではじですか、わかりました。

「はい、椅子いす持ってきたよ。私の席どこ?」

いつの間にか体育館からパイプ椅子を持ってきた清佳が俺たちにう。背が低いためかパイプ椅子3つを持ちづらそうにしている。言ってくれれば俺が行ったのに。

 元々あった丸椅子は建て付けが悪かったので処分した。琴羽姉のお尻のぬくもりが名残なごしかったけどしょうがない。そもそもどの椅子に座ってたかわからないしな。うっかり別の先輩のお尻と間接タッチしたらたまったもんじゃない。琴羽姉以外の去年の部員はみんな男だったからな。

「キヨはそっち。私の向かい」

「うん」

 遥香が清佳に答えたのを見届みとどけて、俺は体育館からもらってきたパイプ椅子を受け取り今決まった自分の定位置に置いた。ん?ちょっとせまいな。そう思い入り口側に回って机を少し引く。

「悪い、ちょっと狭かった」

「良いよ狭くて」

清佳が真顔で言った。

「よくねぇよ。つぶれちゃうよ」

「良いじゃん細いんだし」

いたずらっぽく微笑ほほえんだほほに、笑窪ができる。それが視界に入ると俺の心もその笑窪みたいにえぐられた。

「そういう問題じゃないだろ」

見てるとどんどん胸が苦しくなりそうだったので、目を逸らして、GUの黒のシンプルなリュックを定位置の足元に置いた。

  清佳と遥香もそれにならってさっきまで入り口の扉にもたれかかってた、それぞれのリュックサックを机の上に置いた。清佳のはさつま芋の様な赤紫色で遥香のは目が痛い黄緑色だ。どっちのにも去年の修学旅行で買ったのかおそろいの謎キャラクターがぶら下がっている。何にも例えられない変な形に顔がいてある。何それキモチ悪い。でも俺の殺風景さっぷうけいなリュックに比べてだいぶにぎやかだ。

 すると俺の左手側に座っている清佳が思い出したように言った。

「そうだ。柴原先生が終わったら管理室かんりしつに行けって。渡す物があるからって」

 終わったら体育館じゃなかったのか?

 いや、きっとさっきパイプ椅子取りに行ったときにもうすぐ終わるむねを伝えたのか。

「よし、じゃぁ行くか」

 そう言って俺が立ち上がると、2人も立ち上がって、清佳、遥香、俺の順で部室を出た。

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