放課後は楽しむべきだ②

そのあと沙木は、椅子に座って話し始める

「その、ありがとうございます」

照れ気味にいう彼女。「いいよいいよ」とまた清佳が言う。この子ちゃんとお礼が言えるのか。いい子だ。今後も大丈夫そうだな。

「まぁ、うまくやれそうなんだろ。良かったじゃねーか」

俺は沙木の方を見てそう言った。すると彼女はさらにうつむいて、顔をほんのり赤くした。

「センパイのおかげですよ」

完全に語尾にハートが付いている。「よ」で顔を上げて満面の笑み。百点満点の笑顔。キラキラと輝いている。俺は苦笑しながら紙に目を落とす。

「あれあれ?タク、今照れた?」

遥香がおちょくってくる。くっ、バレたか。心なしか沙木の可愛さに磨きがかかっていた気がしたからな、ついな。

「てことなんで、これからもよろしくでーす。拓偉センパイ♡」

 ザッと立ち上がりながら彼女がそう言った。センパイのパイのところで少し前屈みになるのが得点高い。前屈みになっているので例の如く水色のヒラヒラしたものが見えそうで見えない。パイだけに。と言っている時点で何か見えてるという事になるが、今回は見逃してくれ。あとスクールバックを太腿の前で両手持ちってとこもいいな。

 そのままくるっと背中を向けて部室から出て行く。

 と思いきや部室を一歩出たところで何か思い出したように振り向いて

「あっ、それとぉ」

勿体もったいぶるような間をつくる。しなやかな人差し指を顎にあてる。もはやそのあざとさは自然である。

「私のことは、って呼んでくださいね♡」

そう言って足取り軽く一年生の駐輪場へ走って行った。

 俺は不本意ながらニヤけてしまった。いや常人ならニヤけるだろ今の。なにその完璧なタイミング。逆にすごいよね。才能だよね。本当に悪用しないで欲しいよね。 

 でもきっと大丈夫。彼女の目は初めて会った時とは違って、キラキラと輝いていたから。

「拓偉。今ニヤけてた。キモい」

「ホントそれ!ほんっとキモい。マジ無理!!」

「おいおい、待てお前ら。そんなに俺が嫌いか?」

「「うん」」

「なんで?ひどい」

また二人の声が綺麗に重なった。いつも思うけど打ち合わせしてるレベルだよねほんと。

 しゅんとしている俺に罪悪感を覚えたのか。清佳の方がとんとんと肩を叩いて慰めの言葉をかけてきた。

「まあ、空音ちゃん可愛いからな、わからなくもないけど」

けどなんだ。けどの後が大事なんだろうが。それと、お前に言われると精神的にくるんだよ。やめてくれぇ。

 「けど」の後を待っていたが清佳は何も発しなかったため俺は諦めて報告書の続きを書く事にした。

 

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