体育館履きに隠れて⑦

 *空


 バンッ!大きな音を立てて教室の後ろの扉が開いた。そこにはさっき私に優しい言葉をかけてくれた先輩が立っていた。私は安堵あんどに包まれた。彼が救いに来てくれた。こんなのずるいと思いながらも私は嬉しかった。

 先輩は皆んなに向かって言葉を放った。やっぱりすごいなぁ。優しい人だなぁ。かっこいいなぁ。私なんかがかっこいいだなんて思ってはいけないはずなのに、どうしようもなかった。どうしても、そう思ってしまった。だって、彼が初めてだったから。私に下心なしで優しい言葉をかけたのは彼が初めてだった。

 そうこうしているうちに先輩はいなくなってしまう。「ありがとう」と言えないまま、いなくなってしまった。また。

 今度お礼に行こう。きっとあの部屋に先輩はいるはずだ。

 だからせめて、今私にできる事をしよう。「あとは自分らでなんとかしろ」あの言葉を裏切らないように。


 *鶴


 先輩達が去ったあと、「あとは自分らでなんとかしろ」というあの言葉をヒントに行動を起こそうとした。

「みんな!」

俺は何かこの場をまとめる事を言おうとしたが、何にも出てこない。だが俺の目の前でうつむいていた女の子が何か発した。

「ごめん、鶴島。それと、他の男子も。私が好き勝手やったせいで」

「もういいよ」

地鳥裕也がつぶやいた。それは許すような声音。そのまま裕也は続ける

「みんなも散々言って気が晴れただろう」

 さっきまで知らん振りをしていた生徒も今は真剣な表情で、コクリと頷いている。

「だな、だからもうやめにしない?」

俺はここぞとばかりに乗っかることにした。

「俺が言うのもなんだけど、お互いの良いところをめ合おうよ。これから体育祭とか、文化祭とかあるわけだし。俺も頑張るからさ」

俺はえへへと無理やり笑顔をつくる。俺が言ったって説得力が無いのは察していたけど、ここで動かなかったら先輩達に申し訳ないと思った。

 すると、裕也がそれに応えてくれた。

「おう、頼んだぜ。学級長!」

俺は心の底から嬉しくて、全力の笑顔で、うんと頷いてみせた。

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