体育館履きに隠れて⑥

 *


 言うだけ言って一年C組の教室を後にした俺たち。

隣の教室の一年D組を通り過ぎたくらいだろうか。やけに一年C組が騒がしくなった。俺は気になって振り返り、きた道を戻る。清佳と遥香がキョトンと俺を見た。二人とも相変わらずかわいいな。

 そんな二人をおいて俺は一年C組の教室の後ろの扉までたどり着く。扉は閉まっているが中の様子がうかがえる。どうやら良くないことが起きているようだ。

 一年C組からは「シャーザーイッ!シャーザーイッ!」と祭りのように手拍子が聞こえてくる。お前ら小学生かよ。あの花の「言ーえ!言ーえ!」っていうの思い出しただろうが。見るにえない光景だ。

 元はといえば俺が介入したからこうなったわけだし、ほっといたらいじめに発展して、沙木が不登校になりかねない。しょうがない。なんとかするか。

 俺はふうと息を吐いて扉に手をかけた。

「拓偉ちょっ!」

清佳の心配する声が聞こえたが容赦ようしゃなく、思いっきり、教室内の音をかき消す勢いで、バンッ!と扉を開いた。クラス中の視線が集まる。

「お前らうるせぇよ。いくら昼休みだからって限度があるだろ!」

 俺の一言に教室は一瞬で静まり返った。

 俯く者。スマホを取り出していじりだす者。知らん顔をして窓の外を眺める者。色々いたが、誰一人としてその場を動こうとしなかった。

 たぶんみんなわかっているのだろう。さっきの一幕を見て、俺が絶対的な正義なのだと。逆らったら今度は自分が標的にされかねない。そう考えているのだろう。くだらない考えである。いつも自分が有利な立場でいるために、強者の側につく。そんな生き方は自由でも何でもない。むしろその逆だ。強者に支配されて、強者を有利にさせるための存在になり下がる。それだから自分より弱い者にしか攻撃できなくなる。

「寄ってたかって一人を攻撃して、楽しいか?お前らのやってることは沙木のやってた事よりも低レベルだぞ」

 いつだってそうだ。人間が本当に一つになれるのは誰かを攻撃する時だけ。戦争にしてもいじめにしてもそう。人間はわかりやすい悪を攻撃するのが好きなのだ。だから戦争もいじめもなくならない。

「お前らいつまで底辺でやってるつもりだよ。協力するとこ間違ってんだろ。団結するのは今じゃねぇだろ。馬鹿か」

何人かは俺の言いたい事を察してくれただろう。鶴島なんてこっち見て真剣な表情だ。

「あとは自分らでなんとかしろ。担任に迷惑かけんなよ」

そう言って俺は再び教室を後にする。遥香は呆れたといった感じに大きなため息を吐いた。清佳の方は、なんか勢いよく教室に向かって最敬礼をしてタターッと俺たちを追いかけてきた。

「もう、ヒヤヒヤさせないでよ」

追いついた清佳が言う。悪いなと思いながら角を曲がり階段を降りる。

「ま、タクはハゲだから」

「そうだねぇ」

遥香と清佳が二人だけで解決している。勝手に解決するな。ていうかハゲってなんだよハゲって。俺はボウズだっての。いや、そもそもハゲっておかしいだろ。それを言うなら、バカだろ。なんだよハゲって。

 バカでもねぇよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る