体育館履きに隠れて③

 須野すのの作業が終わって彼女が出ていくのを見送った後、俺はようやく本題に入る。

「なんか変な空気になっちゃったけど、放送ありがとう。お陰で犯人は見つかった」

「うむ、それは良かった」

がしま会長は快く頷いてくれる。話に乗ってくれてありがとう。さすが生徒会長だ。他の2人なんてため息を吐いて俺の話を無視してるからな。

「それで?また頼み事かい?」

感心していると、がしま会長は迷惑そうに言う。

「まぁな」

俺が肯定こうていすると、またかよとまゆを寄せられた。

「いや、ちょっとな。1-cの情報が欲しい」

「1-c?何でだい、もう解決したんだろう?」

「解決はしてない。犯人が見つかっただけだ」

 がしま会長は明らかに嫌そうに肩を落とすと、席に座り直して進めてと手のひらを出した。

「あのクラスの勢力図みたいのが知りたい。例えばカーストトップは誰だとか、1番慕われてる生徒とか。生徒会ならそう言うの少しはわからないか?」

 俺の問いにがしま会長は少し考える。

 葛南高校の生徒会は全校の噂が集まる巣窟そうくつだ。どんな些細ささいな噂でもすぐに伝わる仕組みができている。ちょっと怖いがこれは代々受け継がれているもので、「はぐれ生徒会」なるものがいるらしい。彼らが噂を生徒会に伝えているという噂だ。

 だからきっと1-cに関する情報も持っているだろう。

「交換条件だ」

とがしま会長が口を開く。

「生徒会の手伝い」

交換条件だと?

「何を手伝えばいい?」

「生徒会の仕事全般」

「は?それじゃ割に合わない」

ギブアンドテイクのバランスがおかしいだろ。お前らまで俺たちを使い潰す気か。

「そうかい?」

がしま会長は一度区切って仕切り直す。

「僕達は今回の件だけでなく、今後も情報を提供しようと考えている。そして君達万部は生徒会の手伝いをする。」

どうだいと首を傾げるがしま会長。それなら割に合ってる。

 それにとがしま会長は言葉を付け足す。

「生徒会を手伝うのはこちらから声をかけた時だけでいいよ。うちにははぐれの連中もいるしそもそも3人で回らないほどの仕事量じゃない」

「わかった条件を飲む。じゃぁ1-cの情報をくれ」

俺はその提案を受け入れて次をうながした。

「うんいいよ。

 まず、あのクラスのカーストトップは間違いなく沙木だ。表向きには目立ってないけど、暗黙あんもく領海りょうかいと言ったところだろう。

 そしてそんな彼女に唯一対抗できる馬が学級委員の鶴島。でも今回の件で彼も強く出られなくなってるだろうけどね。

 後は、地鳥ぢどり裕也ゆうやが沙木の抑圧よくあつから外れて飄々ひょうひょうとしてるね」

これで全部だとがしま会長は知ってる限りのことを教えてくれた。

「ありがとう。それだけわかれば十分だ」

俺は感謝を伝えて生徒会室をあとにした。去り際に雪の宿を一袋取ったら、やっぱり睨まれた。良いじゃんかよ!

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