第4クォーター

体育館履きに隠れて①

 その日の放課後。沙木さぎ空音そらねが部室に来ていた。

「犯人見つかって良かったね〜」

遥香はるかが笑って言う。

「ほんと良かったね。ね?拓偉」

と清佳が俺に紅茶を差し出した。

「いや、まだ解決してないよ」

そうまだ終わってい。まだ彼の動機がわかってない。それにあの終わり方は不自然だった。

「まだ終わってないだろ?沙木」

「え?」

鶴島つるしまがどうして君の体育館履きをったのか。知りたくない?」

俺は試すようにたずねてみた。

「はぁ、まぁ」

あんまり知りたそうじゃなさそうだ。沙木は曖昧あいまいに答えた。

 これから話すことを考えれば、あるいは。


 じゃぁ、考えてみよう。

「なぜ体育館履きを盗って隠したと思う?」

「それは嫌がらせでしょ?」

遥香が俺の問いに反応する。

 それはそうなんだが、

「好きな子にちょっかいだしちゃう、みたいな?」

清佳も彼女なりの考えを口にする。

 もしそうならこんなリスクを負うのか?ただ好きな子にかまってほしいだけならここまでひどい事をする意味がわからない。増してやあんな見つけにくい場所に隠すか?

「あ、そう言えばこの間のパンク。あれ、朝は大丈夫だったんですよぉ」

そこで沙木が思いもよらないことを言った。

「て事は誰かが故意こい的にやった?」

遥香が驚く。

 パンク、嫌がらせ、誰も一緒に探してくれない、故意的、かわいい、あざとい、あっさりとした終わり方、後味の悪い後悔。

 俺は一昨日の聞き込みから違和感があったのだ。

「調べとくからまたおいで」

俺がそういうと、沙木は少し苦い表情をした。

 しかし、すぐにはーいと気だるそうに言って、一年生の駐輪場の方へ歩いて行った。


 俺たちは犯人の鶴嶋の元へ足を運んでいた。

 場所はグラウンド。彼はサッカー部に所属している。スプリンター?とか呼ばれているらしい。サッカーはよくわからん。スプリントって聞くとミニ四駆のモーターが出てくるレベル。回転数が高すぎて扱いづらいんだよなあのモーター。もっとやばいウルトラダッシュとプラズマダッシュがあるがこの2つは公式大会での使用が禁止されている。

 グラウンドに着くとサッカー部が試合形式の練習をしていた。くだんの彼は、猛スピードでボールを追いかけている。バスケで言うフォワード並みの運動量だ。

 俺たちは近くにいた女子マネージャーに声をかけて鶴島を呼び出した。例の如く可愛い子にデレた俺は清佳と遥香にすねキックをお見舞いされた。弁慶の泣きどころ…サッカー部だからってローファーで蹴るな!普通に痛い。

「鶴島。聞きたいことがある」

 俺は蹴られた脛の痛みを我慢しながら話しかけた。もちろん沙木空音のことだ。

 一方彼は俺の顔を見ると怯えるように目を逸らした。

「大丈夫だ。別に取って食おうってんじゃない」

俺の言葉に鶴島は恐る恐る顔をあげる。清佳と遥香が笑いかけたお陰で少し気が楽になったのか、俺たちに近づいて来てくれた。

「鶴島。もう一回聞くぞ」

鶴島を見据えて俺が言うと彼はまた強張こわばばった。それでも俺は構わず続けた。

「なんであんなことしたんだ?」

「それは…」

 聞くととんでもないことがわかった。なんと彼女はとんでもない悪女だったのだ。まぁあざとさMAXだなぁとは思ったけど、鶴島は彼女にもてあそばれたらしい。例のあざとさで男を誘惑ゆうわくしてはどん底に突き落とす。そういやテニス部の女の子達がそれとなく言ってたな。やっと繋がった。違和感の正体を掴んだ。

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