そしてゆっくりと歩きだす⑨
「あった!」
思わず声に出して言った。体育館内には練習の声や音が
「先輩何やってるんですか?」
若葉のような声が俺の耳に届く。声の主はショートカットで灰色がかった髪色の少女。ダボっとした練習着にバスパンと女バスの定番を
しゃがんだ状態で
「おぉ、
そういいながら手に持ってるものを差し出して強調する。
「へぇ。誰の体育館履きですか?」
俺は素直に一年の沙木空音と答えた。
「よかったですね、見つかって」
「まぁな」
言いながら彼女はすっと立ち上がる。そして何か思い出したように
「あ、そうだ。たまには練習に顔出してくださいね。私、拓偉先輩のプレー見るの好きなんで」
と言ってクルッと回れ右をした。
「あぁ、わかったよ。そのうちな」
俺が返したのを聞いて彼女は小走りでコートに戻った。その背中はどこか寂しそうだった。
彼女はバスケ部の後輩で、
遥香と腐女子トークをしているところを目撃してしまってめちゃくちゃ責められた。なんて事もあったが、あれ絶対俺悪くないよな。
かわいい後輩ちゃんたちが練習を再開したのを見届けて部室に戻った。
奥の席に腰を下ろして持って帰ってきた袋の中身を確認する。まだ新めの体育館履き。緑色のラインは汚れが一つ無く、透き通っていた。
これからどうするかとぼーっとしていると、清佳と遥香が部室に戻ってきた。 「あーどこにもなーい」
清佳がもう疲れたとぶーたれながら扉をくぐる。遥香もそれに
「拓偉がいる。先戻ってたんだ?体育館履き見つかった?」
「ん、これ」
俺は手に持っている物を机の上に出す。
「体育館の裏の草むらに埋もれてたよ。緑色を緑色の中に隠すとは浅はかなやつだな」
俺はそれっぽいことを言ってみたが、よく考えたら“木を隠すなら森の中”と言う言葉があるように妥当なのかもしれない。
それを見て清佳と遥香の表情が緩んだ。ほっとしたような感じだ。「よかった」と清佳が微笑んで、「ナイスタク!」と遥香が親指を立てた。
とりあえず見つかったということで今日は解散。体育館履きは部で預かる形になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます