そしてゆっくりと歩きだす⑦

 最後の1階に降りたところでさわがしい聞きれた声が耳に入った。1、2年棟1階には教室が無く、保健室と文具の購買、それと休憩スペースがある。

 ちなみに昼休みにここをランチスペースとして使う生徒もいるが、基本的に食堂や中庭、教室で食べる生徒が多いので意外と穴場だったりする。一年の時放課後に清佳、遥香とテスト勉強したっけ。

 そんな思い出にひたりながら歩いていると、ちょうど例のスペースに騒がしさの元凶がいた。何やら3人はスマホを横向きに持って「敵そっちに行った」とか「やばい助けて」とか「レアアイテムゲット〜」とか楽しそうにやっている。あ、あれだな荒○行動か○ォートナ○トだな。

「よ、お前ら。なんでこんなとこでゲームやってんだよ」

俺は3人に声をかけた。するとその中の1人。大西おおにし秋斗あきとがこちらに目もくれず口を開く。

「ちょっと待って、今イイとこ」

そうして3分間俺はたち尽くした。

 はいと3人仲良くスマホを置いて俺の方を見る。

「どうしたタクイ」

秋斗が聞いてきた。

 彼は俺と同じバスケ部だった。ガタイがよく、身長も179センチと高かったのでポジションはセンター。憎めない笑顔で割と女子からの人気が高いが本人はそういうのをけむたがっている。

「いや、ちょっと探し物があってな」

「ほーん」

「♪〜探し物はなんですか。見つからない物ですか」

 ほーんと声を漏らしたのは同じくバスケ部だった南原なんばら夏輝なつき。身長は173センチと秋斗より低いが、絵に描いたようなイケメン。ポジションはポイントガード。口数が少なく、微笑んだだけでそこらの女子は目をうばわれてしまう。正直言ってチート級のかっこよさで嫉妬しっとする男子もいるが、基本的に男女問わず優しいくて良いやつだ。年上の彼女がいるという噂があるが彼がそれに対してノーコメントを決め込んでいて真相はやみの中。

 そしてもう1人。呑気のんきに歌い出したのも同じバスケ部だった東山とうやま春太しゅんた。みんなから「とおちゃん」と呼ばれている。東山の東をとってとおちゃんだが、入学当初、その高い身長からお父さんみたいと清佳に言われたのが最初で、それ以来「とおちゃんと呼んでくれ」と自分で言い出した。今ではもうお馴染みになっている。身長は189センチとバスケ部最高。葛高ダブルセンターの一角だった。この状況で歌い出したにはのを見ればわかると思うが、残念んな部分がある愛されキャラ。しょうがねぇなと言われることが多々ある。

 秋斗は続けて質問してきた。

「何探してんだよ。またあれか?心未ここみとお揃いのストラップとか」

「おいやめろ」

俺は恥ずかしくなって目を逸らす。

「あの時は笑えたよな。『やばい、まじでやばい』って必死になってさ」

秋斗が当時の俺を真似て挑発するので余計に恥ずかしくなった。

「ははは!覚えてるわ。拓偉あの時、やばいしか言ってなかったよな」

とおちゃんが腹を抱えて笑い出す。

「おい、2人とも辞めてやれって。もう別れたんだぞ。ぷっ」

「おい、夏輝。更に傷をえぐるな!」

まったく夏輝め一瞬助けたと見せかけて裏切ったな。俺は悲しい!誰かなぐさめてくれ。俺は小さくため息を吐いた。

「ま、元気出せよ。」

秋斗が俺の背中を叩いて言うと、とおちゃんと夏輝もそれに続いてうんうんと頷いている。いやお前らのせいだからな?

「あーもう。いいよ。訊いた俺が馬鹿だった。」

呆れたと吐き捨ててその場を離れると、そうだなと夏輝が笑っていた。

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