第21話 違和感

一瞬の出来事だった—


ドガァアアン!!!


「なっ!何だ今のは…!」


鐘の音が未だ鳴り止まぬ中、獣王ガルムスが壁にめり込んで大量の血を吐き散らした。


この事態に座していたシャルも呆然と立ち尽くした。


シュゥウウ…


ガルムスを突き刺したティナの拳は白煙をあげていた。


「「「ウォオオオ!!!」」」


会場中が先程までとは打って変わって今日一番の熱気に包まれた。


「先手必勝なのさー!!」


ティナは間髪入れず電光石火の拳をガルムスに突きつける。


「グゥ!ヌゥッ!グァ!!」


「ここ!ここ!ここなのさ!」


ガルムスの必死の防御をティナの拳が突き破っていく。


「こ・れ・で—終わりなのさー!」


ティナはガルムスのアゴに照準を合わせ、懐から一直線に跳ね上がった。


「アマリ、調子ニノルナ」


ガルムスはギリギリのところでそれを交わすと、そのままその腕を掴み投げ飛ばした。


吹っ飛ばされたティナは観客席を破壊する勢いで叩きつけられた。


「ティナ!!」


「心配するでない、ひかる。あれほどの身体能力を支える肉体じゃ。あれぐらいじゃ壊れんよ。それよりも気になるのはガルムスの方じゃ。」


「そ、そうだな。ガルムスのやつティナの連打でヘトヘトになってんもんな!これなら何かイケる気がするぜ!」


「うーん、それもね、なんだか変な気がするの。ライオンさんね、前よりも弱っちくなってる気がするの。」


「うむ、違和感を感じるのじゃ。ティナへの反撃があまりに少ない。とてもあの乱暴者の戦い方ではないのじゃ。もしかしたらあやつは何かとんでもない隠し球を持っているのやもしれん。」


ガルムスは足に踏ん張りが効かなくなったのか、片膝をつき、必死に呼吸を整えようとしている。


「痛ててなのさ…。」


ティナが起きあがろうとしたまさにそのとき、試合開始の鐘ががらんがらんと鳴り響いた。


「あれれ?試合まだ終わってないのにね、鐘がなってるよ?」


「な、何だ急に?なんかあったのか?」


鐘の音は5回鳴り響いた。


「5回…。異常事態発生の合図じゃ!」


「陛下!今のは!」


医務室にいたシエラも息を切らして戻ってきた。


—ニタリッ


獣王ガルムスは不敵な笑みを浮かべる。


力無く立ち上がったガルムスが二度手を叩くと、その立髪が消え、牙が消え、爪や体毛が消えていく。


「ふう…少し疲れました。でもも上手くやっていただけたようですね。」


「なっ!メリシアじゃと!?」


そうか…違和感の正体はこういうことじゃっあのか…!でもしかし、なぜ…ってまさか!?


「お、お前何なのさ!ガルムスはどこなのさ!」


「あら、血の気が多い娘ですね。そうですね…もう教えて差し上げても構わないでしょう。」


メリシアは両腕大きく広げ、げびた笑みを浮かべた。


「—たった今、帝都は陥落したわ。私達の勝利よ!」

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帝都のみんなは俺の嫁 ぽろりん @plorin

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