第20話 獣王

「皆様、大変申し訳ございませんでした。」


観覧席へ戻ったシエラは色々な思いがあるのだろう。

その謝罪には自責の念がたっぷりと含まれているような感じがした。


「もうよい。それよりも治療に行って参れ。」


「はい…。そうさせていただきます。」


シエラは小さく頭を下げると、廊下の方へと姿を消した。


「なあ、やっぱり励ますぐらいしてもいいんじゃねえか?俺見てられねえよ。」


「それはあやつには逆効果じゃ。励ませば“気を遣わせてしまった”とか言い始めるぞ?

今のあやつは1人になって頭を冷やしたほうが良い。」


「うん、メルもね、その方がいいと思うな。負けちゃったらときはメルもすっごい悲しいし、いっぱい泣きたいもん!多分団長もいっぱい泣きたいんじゃないかな?」


「メルは賢いのう?それに比べて、ひかるはもう少し女心というものを学ぶべきじゃな?」


うぐぅ…。

まさかメルにまでダメ出しされるとは。

今までロクに女の子と喋ってこなかった俺に女心を理解しろってのは中々酷な話だぜ。


「へいへい。せいぜい努力するよ。」


「それじゃ、気を取り直して最後の試合に集中じゃな。」


—そしてバトルステージの入り口が開かれた。


それとほぼ同時に獣王国側へのバッシングが観客席から放たれた。


先程の試合における獣王国側の行いは、他国の観客までも敵に回したようだ。


そんな中、ゲートからズシンズシンという轟音と共に獣王ガルムスが現れた。


観客の罵声はヒートアップし、完全にという扱いになっている。


「ウルサイ、ハエ共メ。」


どごおおおん!!


一瞬だった。

獣王国側の選手用観覧席に隕石が落ちたような爆発が起きたと思ったら、バトルステージにいるガルムスは、その手で瀕死の獣人の頭をがっしりと掴んでいた。


「うしぃ…ガルムス様…。なぜ…。」


グシャァァァ!!


バトルステージに血吹雪が舞い、牛頭が跡形もなく消滅した。


会場中に戦慄が走る。


先程までの怒号の一切がまるで最初からなかったかのように人々はこうべを垂れて沈黙に徹した。


「ひ、ひでえ。」


「見せしめじゃな。

相変わらず人心を力強くで掌握する癖があるようじゃのう。」


ガラガラガラ…


帝国側のゲートが開く。


「ほう、なかなか良い面構えじゃ。自信が漲っておるのう。」


ガルムスの入場も衝撃的だったが、ティナの今まで感じたこともない、静かに漲る闘志が会場中の緊張感をさらに高めた。


「あの感じなら、マイナス方面の変化じゃなさそうだな。」


「うむ、ひとまずは安心したのう。」


そしてバトルステージは形を変えて、草原ステージが展開されると、試合開始の鐘が鳴った—




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