第14話 三十年後の目覚め
25年前のS病院の食堂上の通路で聞いていた言葉が引っかかっていた、
「K病院内のスキー旅行のコテージで、女の子らが薬剤師に睡眠薬を盛られて、一人だけ男部屋に連れて来られてレイプされたらしいですよ、本人は気づいていないらしいです」
祥子には身に覚えがないが、通路で聞こえていた言葉を繋ぎあわせれば、自分はレイプされていたことになり、しかも撮影されていたことになる。そしてその映像と標本扱いされていた盗撮写真とが取引され、映像の真ん中に盗撮写真が張り付えられていたことになる。これほどの犯罪をやってのける人物は手慣れたものの犯行でしかない、そしてその犯人はK病院内に存在していたと言うことになる。祥子はK病院が大好きだった、仕事にやりがいを感じていて、長く勤めたいと思っていたのだ、だからこそ若いうちに一旦、他の病院を経験してみたいと思って、転職に踏み切ったのである。だから円満退職であり、職場の仲間たちからも快く見送ってもらったのだ。そんな仲間を疑いたくはなかった、しかし祥子の退職を機に企画して貰ったスキーツアーを終えた頃より、院内の様子が妙だったという記憶がある。そのスキーツアーは先輩に誘われて参加したものであり、参加者は女性が五人に対し、男性は三人だった、記憶のある限りでは普通に女子部屋で就寝していた。しかし製薬会社の営業マンが一人参加していて、その人に「顔が性器にしか見えない」と失礼な発言をされたことを思い出した。この言葉はS病院内で頻回に聞こえて来た言葉でもある。営業マンの名前は西澤という。もしかすると旅行中の祥子の動画や写真が西沢の手を介して、S病院に渡っていたのかもしれない。
嗚咽に喘ぎながら、三十年前のスキーツアーの記憶を辿る日々が続いていた。そんなある日のこと、祥子は睡眠薬を飲んでから入浴していた。浴槽でうたた寝をし始めた時だった。お湯の湯加減が人肌程度に冷めてきた頃、左耳から声が聞こえて来た。
「これからいい気持ちにさせてあげよう」そう言って薬剤師の中島に体を摩られた。
祥子は三十年前のスキーツアーの夜、眠っている時に聞いていた声が蘇ったのだ。
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