視力21.0の憂鬱⑤

                  ※ 


 数日後、2時間目の国語の授業で、100点の解答用紙をもらってレイコは考え込んだ。

 

 あの穴はなんだったんだろう?

 

 今から思えば、考えなけばよかったのに、レイコは考えてしまった。

 

 試すしかない・・・。

 

 あれは何だったんだろうとあれこれ可能性を巡らせるよりも、もう一度できるかどうかやってみるしかない! 珍しく、頭を使ってあーでもない、こーでもないとやっていたら疲れてしまい、4時間目にはそういう結論に至る。

 

 でも、学校ここで?いや、学校ここではダメだ。

 

 上の空でソワソワした気持ちで残りの授業を受ける。

 学校が終わるやいなや、一緒に帰ろうとやってくる友達を振り切って、走って家に帰る。そして、ランドセルを放り投げてベッドの上に寝転び、天井を見つめた。

 

 深呼吸をして、気持ちを落ち着けて・・・って、いや、あの時はちょっとワクワクしてたっけ。なるべく、カンニングしようとした時と同じ状態に持っていく。

 そして、少し、目を凝らして意識をして探す。

 あの時、初めに見えた穴を・・。

 すると、白にグレーの薄い模様の入ったクロスの天井の一部が少しボコボコしているのが見えて、そのボコっとした真ん中に小さな穴を見つける。

 この前と同じようにその穴を覗いてみると、無数の穴が瞬く間につながって大きくなる。吸い込まれるように、その無数の穴を辿っていく。

 

 今思えば・・・・本当に今思えばだけど、せめてそこでやめればまだよかったのに・・・レイコは続けてしまった。

 

 無数の穴の奥には、何やら木の骨組みみたいなものが見えて、空間が見えて、そして、何やらまた天井みたいなものが見えて・・・・そして!!!

 世界は一瞬で穏やかなパステルカラーの水色に包まれた。


 あっ、空!


 突然、宙に体がほっぽり出された気がして、レイコは恐怖で体をすくめた。

 瞬間移動をして、屋根の上に出てしまった。そんな能力なんて持っていないくせにそう真剣に思ったのだ。

 

 落ちる~~~~~~!!!!!


 そう、悲鳴にも近い声を喉の奥につまらせて、身を固くして目を固くつぶるけど、身構えた先の地面にたたきつけられる衝撃はこなかった。しばらくして、恐る恐るそっと目をあけてみる。

 さっきと同じようにベッドの上にいて、天井はそのままだった。

 

 えっ????もしかして私、今、透視した??


 もう一度・・もう一度!


 

 今度は、ワクワクではなく、恐る恐る目を凝らして天井を見上げる。

 それでもまた穴が目に入る。

 更にもう一度、目を凝らす。

 先ほどよりもっと早く、無数の穴をかいくぐって空にたどり着く。


 今度は、落ちる!!!とは思わなかった。

 一応手は、しっかりベッドの上のシーツをつかんでいたし目の側方には壁がある。ただ、天井の上の空が、見えているだけなのだ。

 

 

 透視だ・・・。


 

 そう確信した時には、今まで感じたことのない静寂が体を包む。その静寂に身を任せるようにしばらく、瞬きもせずにレイコはじっと座っていた。


 しかし、数分後、思い立ったようにいろいろな物に視線を向けた。

 そして、壁だったり、床だったり、ランドセルだったり机の中だったり・・。あらゆるものを見つめる。

 一つ穴さえ見つけれれば、その穴を伝って次の階層の穴へ繋がり、それを繰り返すと最後の穴の先に視界が広がる。

 

 何度もやっているうちに、速度は上がる。

 身体的なことは大抵のことは、慣れさえすればプロセスを意識せずにできるようになるのと同じことのようだ。ほら、歩くとか、食べるとかトイレにいくとか・・・赤ちゃんの時は上手にできなくても、今は無意識にやっている数々・・。

 それと同じ。

 数時間もしないうちに、穴を意識しなくても、一瞬でその向こう側を見えるようになった。


 

                  


 




 

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