第22話『死神』
『死神』
「おい、2番起きろ」
昨晩は居なかった看守の声で私は目を覚ました。特に夢を見たり眠れなかったりという事はなく、ごく普通に睡眠を取る事ができた。
看守にスケジュールを確認すると私はまず取り調べを受ける様だった。そしてその後検察に送致されるとの事。検察、起訴など日頃のニュースで拾った事のある単語がほとんどだったが色々説明された。正直全ての単語の意味は理解できなかったが、ある程度は理解する事はできた。案外ハードスケジュールだ。
留置場は特にする事が無いので起きてからしばらくだらだらしていた。すると昨日留置場まで案内をした刑事を先頭に複数の刑事がやって来て
「取り調べを始める。2番、出ろ」
と、私は手錠と腰縄をつけられると刑事と看守に連れられて取調室へと案内された。案内された取調室とは名ばかりで、机と椅子のみのただの部屋だった。壁も映画みたいにマジックミラーになっていて外から監視…という事もない。少し劣化の目立つただの灰色の壁だ。何だか拍子抜けしてしまう。
そしてしばらく待たされ、3人の刑事が入って来た。3人共知らない顔だった。てっきり留置場から案内をした刑事がそのまま取り調べをするものだと思っていたがそうでもないらしい。3人の内2人がテーブルを挟んだ反対側に座る。1人はつり目のいかにも性格の悪そうな奴で、もう片方は定年間近のベテラン風だった。そしてもう1人の頼りなさそうな青年は隅っこの方で小さめのテーブルに腰掛けノートパソコンを起動させる。私の供述を記録する書記的なポジションなのだろう。そして私の対面に座ったつり目の刑事が話を始める。
「早速ですが、これから取り調べを始めます。しかし何からどう話したらいいものか……うーん……あなたは覚えている範囲で何人の人を殺しましたか?」
つり目の刑事は言葉を選び、私に問いかけた。選んだ言葉がそれかと呆れたが、まぁ内容が内容なだけに仕方ない気もする。私が答えようとするとつり目の隣にいたベテラン風の刑事が待ったを掛けた。
「おい、黙秘権を…」
するとつり目の刑事は慌てて仕切り直す。
「失礼いたしました。あなたには黙秘権を行使する権利があります。簡単に説明すると答えたくない内容には答えなくていい……というものです。ただそれが後の裁判で不利になる事は言わずもがなですが。あと、弁護人はどなたか知り合いなどいらっしゃいますか?もし指名があるようなら早めにお伝え下さい……では続きを始めましょうか」
つり目の刑事はふーっと呼吸を正し
「繰り返しになりますが、あなたは覚えている範囲で何人殺害しましたか?」
早速私は黙秘した。何も言い逃れを考えていたのではない。単純に人数まで把握していなかった。今まで殺した虫と同様にいちいち殺した人間の数まで正確に把握できていなかったのだ。それほどまで私は麻痺していた。
しばらくしてしびれを切らしたつり目が
「早速黙秘権の行使ですか…?」とこめかみに血管を浮き上がらせ苛立ちを露にした。
そこでベテラン風の刑事も口を挟む。
「まぁまぁ谷村君、落ち着いて。神谷さん?質問を変えます。あなたは今までに1人でも人を殺害した事がありますか?」
何を言っているんだこいつは?お前ら刑事が店に突入した時点で私は既にジンを殺していた。それはこいつらも知っているはずだ。だから私は現行犯で逮捕され今取り調べを受けているんだぞ。
「は?」
馬鹿にされている様で私は少し苛立ちを覚えた。
「どうなんです?もちろん私達はあなたが今までに何をして来たかある程度は把握しています。ただこれにはあなた自身の供述もいるんです。もうどう足掻いたってあなたは極刑は免れません。証拠が揃うのも時間の問題です。ならばあなた自身で自白し、気持ち良くこの事件に幕を閉じませんか?こういうのは男気と言うか微妙な所ですが……あなたの正々堂々とした男気を見せて頂きたい」
ベテラン風の刑事はそう言うと私に深々と頭を下げた。
そうか…もう終わりなんだな。つい数年前まで毎日が退屈でしかたなかったが、もう終わりなんだ。何もかも……。
私は自白する事を決意した。この刑事の言う通り、最後は気持ち良く終わらせたい。こんな日が来るのも当然想定済みだった。働いた対価として給料を貰うのと同じで、罪を犯せば罰を受ける。こんなもの小学生でも分かるほどしごく当然の事ではないか。
「分かりました。では全ての始まりから話をさせてもらいます」
「お願いします」
ベテラン風の刑事は机の上で手を組んで笑顔で答えた。
「私は以前とある物流の企業に勤めていました。子供はいませんが当時結婚もしており、私ははたから見ると幸せ者だったと思います。だけど…だけど私は安定しきったその生活に耐えれなかった。毎日特に刺激という刺激もなく、時間だけが過ぎて行く。昔は将来起業家になるという目標もありましたが、勤続年数が増えるにつれそういう思いも少しづつですが減少しました。もし起業が失敗したらどうする?妻を養っていけるのか?それに今後、子供はどうするんだ…って感じに。そして私は生きる為…生活の為だけに働く様になって…刑事さんにはこのどうしようもない気持ちが分かりますか?」
「もちろん。神谷さんのそのやるせない気持ちも理解できますよ。それで?それでやけになって人を殺めたのですか?」
どうやらベテラン風の刑事は私の自白を待てないらしい。つり目の刑事は緊張しているのか少し汗をかいていた。
「いや、ちょっと違います。信じてもらえないかも知れませんが、私はある日サラジャという名の幻獣に出会いました。サラジャは私の守護霊的な存在らしく、その姿は私にしか見えません。もちろん声もも私にしか聞こえません。そのサラジャが私にヒントをくれた…自由に生きろと。そして私は…」
「ドンッ!ドンッ!ドンッ!」
突然ドアが少しきつ目にノックされた。つり目の刑事はより一層目をつり上げ、後ろに座っていた書記の青年に顎で「出ろ」促した。
青年が取調室のドアを開くと、ドアの向こう側には1人の年配の刑事が立っていた。年配の刑事は青年の体を押し退け、「ちょっと」とつり目の刑事を呼んだ。
つり目の刑事は舌打ちをし年配の刑事の耳打ちに応対する。つり目の刑事は「そうですか。伝えます」とだけ言うと、年配の刑事はそそくさと取調室を後にした。つり目は席には座らず
「神谷さん、あなたの弁護人と名乗る方が来ているそうです。なので今日は弁護人の方と今後の方針について話をして下さい。取り調べはそれが終わってからです」
「私の弁護人が……?」
私は弁護士のつてなんか一切無いので驚いた。
「そうです。指定の弁護人がいるのならあらかじめ教えて頂きたかったですよ。私達もスケジュールの段取りがあるので」
隣にいた年配の刑事は少し驚いた顔をしただけで何も言わなかった。だがさっきまでのニコニコ笑顔が消えていた。
「では弁護人の方がお待ちですのでこのまま面会室へ案内いたします」
私はつり目に誘導されるがまま、年配の刑事を置いて取調室を出る。私が部屋を出てドアが閉まった瞬間、中から「ドンッ!」と音がした。
つり目の刑事は「お気になさらず」とだけ言うと、腰縄を掴み、歩き出した。
1.2分歩くと面会室と表記されたドアが見えた。ドアには小さな覗き穴があり、「一応確認を…」と促され私は覗き穴に目を当てる。
ドアの向こうには見知らぬスーツの男が1人座っていた。スーツは弁護士らしくカッチリと着こなしているが、頭はスキンヘッド。どちらかというとその風貌は完全にヤクザだった。もちろん私は面識は無かったが、つり目に「大丈夫です」とだけ伝えた。
「ではお入り下さい」つり目はそう言うとドアを開いた。
私が入室すると弁護人は笑顔で「あ、お掛け下さい」と言った。
軽く会釈だけをし席に着くと、弁護人はドアが閉まったのを確認して挨拶を始めた。
「初めまして、神谷さんの弁護人をつとめる事になった富永です」
富永はシンボルマークであろうピカピカの頭を丁寧に下げお辞儀をした。そしてこちらに見えるよう名刺を机の上に置く。名刺には弁護士らしく堅くシンプルなデザインで富永法律事務所と書かれていた。
私がまじまじと名刺に視線を送っている事に気付いた富永は
「いやー、富永法律事務所と言っても従業員は私を含め3人しか居ないんですよ」と肩身をすぼめた。
「いやいや。3人だけでも人を雇えるって事は凄い事だと思いますよ」
私が褒めると富永は明らかに嬉しそうに「そうかなあ?」と照れ笑いを浮かべた。どうやら富永は感情が顔に出るタイプだな思った。
富永は表情を引き締めると私に向かって
「神谷さん、我々弁護士の仕事ってどうゆうものか分かりますか?」と尋ねた。
あまりにも簡単な問いかけだったので少々驚いたが「弁護士の仕事って…名前の通り弁護ですよね?」と言った。
富永は大きく頷き「そうです。我々の仕事は依頼人の弁護が主な仕事です。その依頼人が犯罪者ならばいかに刑を軽くさせるか?もしくは無罪を勝ち取る事です。しかしそれは時に残虐な仕事になる事もあります。だって明らかに死刑…いや死刑になって当然だと思わせる人間にも依頼されれば何としてでも死刑を免れなければならない。この矛盾に耐えれなくなって辞職する方も少なくありません」
「はぁ…」
富永は私の弁護をするのが不服なのか?だからあえてこんな話を?こっちはそもそも弁護なんて頼んでいない。
「富永さん、なぜ私の弁護人に?」
私が言うと富永は待ってましたと言わんばかりににやつき「まどかさんからの依頼です」と答えた。
「まどかが?なぜ依頼を?」
富永もさすがにそこまでは分からないらしく「いや、そこまでは…」と口ごもった。
「じゃあなぜ富永さんとまどかが繋がっているんですか?……もしかして客?」
私はまどかの仕事を思い出した。
「客?私が?」
どうやら富永はまどかが風俗嬢だと知らないようだ。
「いえ、なんでもありません。勘違いでした」
富永は自分がまどかの客だと勘違いされた事が少々気になっていたようだが、スマホを取り出しとあるホームページの画面をこちらに向けた。それは富永の事務所のホームページだった。そこには富永の手腕をアピールする文言が記載されていた。
「無罪獲得率……九十五%…?」
「そうです」と富永はどや顔で言った。「しかもこれは微罪だけではなく強盗や殺人、死体遺棄なども含めての数字です」
私は富永の事を誤解していた。こいつは私の弁護が不服なのではない。むしろ無罪を取りに来てる。
「まぁ、その分依頼料は他と桁が違いますけどね」富永はどこか誇らしげに語る。
「私は今後どうすれば?」
「黙秘権の話は聞きましたか?」
「はい」
「では私が指示するまで事件に関しての事は全て黙秘を貫いて下さい。それができれば私は神谷さんを無罪にできます。警察は黙秘する事をあまりよく思っていない傾向があるので裁判で不利になるとか裁判官の心証がとか言ってくるかもしれません。だけど絶対に黙秘を続けて下さい。もししびれを切らした警察が威圧的な事をして来た場合は私に報告を下さい。対処しますので」
「黙秘ですか…分かりました」
「昨日逮捕されたんですよね?なら今日か明日に神谷さんは検察に送致されます。そこでも取り調べが行われますが同様に黙秘をして下さい。私と話す時以外は事件については話さなくて結構です」
「分かりました」
私が黙秘権を行使すると約束をすると富永は「では本日はこれまでにしましょう。とりあえず顔合わせと黙秘の話を先にしたかっただけなので」と席を立った。
富永はドアを開け、外にいる刑事に「もう結構です」と声を掛けるとつり目の刑事が戻って来た。
「じゃあそろそろ検察へ向かうので準備します」
つり目はそれだけを言うと面会室に連れて来た時と同様に私の腰縄を掴み移動を始めた。面会室に来た時とは違う廊下を歩き外へ出ると、青色でバス型の町中で見た事のある護送車が停めてあった。
「これに乗って検察へ向かいます」
つり目は簡単に説明をすると護送車の前にいた制服の警官に声を掛けて私を引き渡した。
引き渡された制服の警官は気だるそうに「奥から詰めて座るように」と私を車内へ押しやった。車内には既に2人が乗っており、到底警察には見えなかった。どうやらこれからいくつかの警察署へ回ってから検察へ向かうようだ。2人とも私とは目を合わせようとせず窓から外を眺めており、私も奥から順に3列目に腰掛けた。
車が動き出すと私は窓際に肘を乗せ外を眺めた。バスやトラック特有の気色の悪い揺れに揺られながらも何も考えずにただ外を眺めていた。富永は必ず私を無罪にすると言っていたが、私は数えきれないほど人を殺めている。普通に考えただけでも死刑は絶対免れない。良くても無期懲役とかじゃないのか?少なくても20年は塀の中だろうと勝手に想像した。
30分ぐらい走っただろうか?見慣れない街を私は窓から眺めていた。丁度通勤ラッシュが終わったぐらいなのか人の流れが落ち着いている。通行人は護送車に目もくれず、日々の生活を送っている。たまに作業着姿のチンピラがまじまじと護送車の中を覗き込もうとしているのが見えたぐらいで全くといって良いほど人々は護送車に興味が無さそうだ。逮捕される時大量にマスコミがいたが私はニュースに出たのだろうか?凶悪殺人犯とでも見出しを付けられて今日の朝刊にも出ているのか?逮捕されてからテレビやネットとは完全に遮断されていたので分からずじまいだった。車が信号に差し掛かり、私の目に横断歩道のすぐ後ろに構える牛丼チェーンが入った。店舗は違うがあのチェーン店にはよくアランと行ったななんて思いながら見ていると、気のせいだろうか?見覚えのある立ち姿の男が牛丼屋の前に立ちこちらの護送車を見ている。
「なか…の……?」
私は1人つぶやいた。普通に考えると人違いだろうが、そう思えないほどに容姿が完全に中野だった。なぜだ?そしてすぐ後ろの牛丼屋からもう1人が出てきて中野に話し掛けている。
「嘘だろ………?なんで……?」
そのもう1人とは死んだはずのアランだった。頭が真っ白になる。なぜだ?なぜだ?なぜだ?意味が分からない。たしかにアランは死んだはずだ。私の目の前で…
いや、待てよ。たしかにアランは私の目の前で殺された様に見えた。だがその後、私自身もジンにやられてしまってそのまま病院送りとなった。てっきりアラン死んだと思い込んでいたがアランは死んでなかったのか?私は目を覚ました病室での中野との会話をゆっくりと丁寧に思い出す。
たしかにあの時中野はアランが殺されたと言っていた。私もそう思い込んでいたから何も疑わなかった。しかしもしそれが中野の嘘だったら?
逆上した私を使ってジンを殺させた。なぜわざわざ私を使ったのか?中野はクライアントからジンを殺すなと止められていたからだ。
しかしどうだ?アランが死んだと嘘をつき、でもジンは追うなと警告する。私が言う事を聞かないで動くと中野は分かっていたはずだ。そこで退職金まで渡してたとすると……
その後中野の計画通り私がジンを殺してもクライアントには言い訳ができる。警告して退職金まで渡したのにあいつは勝手にって具合に。
そして上手く立ち回りジンと手を組み、はたから見てジンを狙っているという事実を消した。それを証明できるのは黒川だ。そしてこの事実にいずれ感づくだろうと踏まれた私は死刑判決が濃厚な状態となっている。普通に考えればもうシャバには出られない状態だ。結果的に得をしたのは中野だけ。まんまとやられた。
私と出会い、ヒットマンとして育て上げたのは全てこの計画の為だったのか?いずれ何かしらの理由でジンを自分の手で始末できなくなった時の為に…そんなバカなと言いたくなるような事だが中野ならやりかねない。
私は怒りで震える心を唇を噛み押し殺した。なぜ気付けたなかったのだろう。絶対にどこかで気付ける瞬間があったはずなのに。
「あっ……」
退院した直後にまどかが私に何か伝えようとしてたじゃないか。その話がアランの事だと分かった時、ジンを追うなと引退勧告をされた事だと勝手に想像し私は話を遮ったが、もしかして違ったのかもしれない。
「アランは生きてるよ」私が話を遮らなければ聞けた言葉かもしれない。まどかは全てを知っていたのか?それで逮捕された私を何とか助け出したいと富永を送り込んだ…次第に妄想が妄想でなくなる。
信号が青に変わり車が動き出す。牛丼屋の前に立っている中野は私を見たままだった。そして動き出した私を見ながら笑みを浮かべる。
そしてはっきりとした口の動きで
「ざまぁみろ」と言い、私に向かって舌を出した。
やはりな。私はやはり中野にはめられた。腹が立つとか悔しいといった感情は生まれず、ただ殺意だけがふつふつと溢れ出る。
とにかくまずは自由の身にならなければ。このままでは中野の思惑通り、私は一生塀の中だ。裁判が何ヵ月、何年掛かろうがそれだけは避けなければいけない。私は富永の言う通り黙秘を貫く。そして絶対に外に出てやる。
中野よ覚えておけよ。お前は何の変哲もない男をヒットマンに育て上げ、道具にしただけと思っているかもしれないが、その普通の男は今この瞬間から死神となった。死神はお前の存在が消えるまで消えない。絶対に自らの手で息の根を止めてやる。
そしてしばらくして検察へと到着し、私達にはそれぞれ1人警官が付き館内へと誘導される。検察の取り調べまで時間があるそうで待合室の様な檻の中へと入るよう命じられた。既に8人が中で取り調べの順番を待っており、私が入ると席が無くなった。
端から順番に名前を呼ばれ、私が呼ばれたのは入室から3時間ほど経過してからだった。警官に連れられ警察署より少しだけ立派な取調室へと案内される。中には少し肥満ぎみの中年の男と髪が傷んだ色気のない眼鏡の女性がいた。
「どうぞ、お掛けください」
中年の男が置いてあった椅子へ手を向ける。私が座ると少し後ろに警官も座る。
眼鏡の女性はパソコンのキーボードに指を置き、「いつでもどうぞ」という具合に中年の男に視線を送る。
中年の男はその視線を確認し、ゆっくりと話を始めた。
「それでは始めましょうか。まずご自身の名前をお願いします」
「神谷 旬です」
中年の男は手もとの資料に目を通しながら頷く。
「えー、ではなぜ逮捕されたのか?ご自身で説明してください」
「私自身もなぜ逮捕されたか分かりません」
「分からない?うーん、神谷さん…あなたが本当に何もしていないのなら警察は逮捕しませんよ。警察もそこまで暇じゃないんでね」
中年の男は笑顔で話したが、目は苛立ちを表していた。
「何も知りませんし分かりません。なのでここでお話する事は何もないです」
「それは困りましたね…私のもとには殺人の容疑であなたは逮捕されたと報告がありますが。これは間違いという事ですか?」
「さぁ?分かりません」
「ふむ……」
これではラチがあかないと思ったのだろう。中年の男は私の後ろで待機していた警官に
「本日はもう結構です。少し時間を置きましょうか」と言った。
警官は「はい」と返事をし、私を立たせると部屋を出るよう指示をした。私が部屋を出ようとすると検察の中年の男が声を掛けてきた。
「神谷さん。弁護士に何を吹き込まれたのか知りませんが、あなたはもう逃れる事はできませんよ。必ず有罪になります。だから少しでも懲役が短くなる様にできるだけ協力的になった方が良いと思いますが…」
部屋にいた全員が私の言葉を待った。
そして私は「豚が人の言葉を話すんじゃねぇよ」と吐き捨て部屋を後にした。
「検察官に向かって何て事を……!」と部屋を出てすぐに隣にいた警官に言われた。
「は?」と警官を見ると、警官は少しだけにやついていた。それを見た私もつられてにやつく。
「褒められた事ではないがよく言った」
警官が冗談めかして肩を小突く。
「でしょ?良い気味だ」私は笑いながら廊下を歩く。
歩きながら警官が聞いた。
「さっきは検察官に話をはぐらしていたが実際はどうなんだ?」
「どうだと思う?」
「そりゃあ何も無ければこんな所にいないさ」
「まぁそうだね」
「で?どうなんだ?」
警官は歩くのに集中しているが、今にも足を止めて話を聞き入りたそうにしている。
「80人ぐらい殺したなー」
それを聞いた警官は足を止めた。そしてゆっくり私の顔を見る。その目には怯えが見て取れた。
「それ、本当か?」
「あぁ本当だよ。だってヒットマンだし。それに近々もう1人追加される予定だ」
私はそう言うと足を止めて唖然としている警官をほって1人歩き出した。
私の頭の中では既に中野を殺す為の計画が作り始められていた。
『罪人』 土方 煉 @hukutyo7
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