第21話 伝説の勇者……? いいえ、悪役令息です。
「おとなしくしていれば命は取らないわ」
それ「今は」ってやつでしょ。
そう言いたいけどつい先ほどレイズ様に怒られたばかりなので黙っておいた。その代わり、にっこりと笑うご婦人と目が合ったので笑い返しておく。
で、全くこの期に及んでこの人は何やってるんだか。
「……」
私に無言の指示を出した張本人は相変わらずの仏頂面を決め込んでいた。こういう時お高く留まったって何の救済にもなりゃしないのに。ここは媚びを売る一択だろ。
「二人には休ませてあげられなくて悪いけど、このまま街まで移動してもらうわ」
「移動? どうやって」
「移動魔法よ。こういう時の為に買ってあるの。だから移動中に逃げ出そうなんてのも無駄ね」
「仲間はここにいるので全員じゃないのか?」
「当然街の方で待機している仲間もいるわ。つまり移動先でどさくさに紛れて逃げるのも難しいってこと」
「……」
「まあこの状況すらどうにも出来ないあなた達には、どっちみち助かる方法は無いわね」
「そうか」
そうか、じゃないだろうに。移動中も駄目、移動先も駄目、じゃあもはや逃げるチャンスすら残ってないって話でしょ――今以外は。
「……メイド」
「はい」
「もういいぞ」
結局他力本願ね。
「はいはい。人に見られると失敗しそうで不安なんですけどね、高くつきますよ」
「? 一体何を――」
必殺『異空間の収納魔法』っ!
「なっ!」
ご説明しよう。この『異空間の収納魔法』とは、物体ならば何でも異空間に収納出来るその名前の通りの魔法なのだ。あ、でも人が収納出来るかは試したことがないよ。何が起こるか分からないからね!
「あなた達、拘束は……どうして!?」
収納したからです。縛ってた縄も、括り付けてた椅子も全部。はい拍手。
「いっ、いいわ。もう一度拘束すれば済むこと」
「って思うじゃないですか」
「?」
「ナイフが無いぞ」
「こっちもだ! くそ」
こちらも収納させていただきました。
「武器なんていいわ! 力づくで相手を押さえなさい!! 所詮相手は二人よ」
やっぱりそう来たか。
さすがにこれは私にも対応出来ない……ので。
「レイズ様、さあ出番ですよ」
「お前が俺に指図するな」
はい、お決まりのようなお言葉をいただきました。
そしてその手には、またまたお決まりのような……
「剣!? こいつ、いつの間に」
そう、剣です。ソードです。いやぁまるで伝説の勇者みたいですねぇ。
「うるさいぞ。ひれ伏せ」
もーどこの中二病なのよ、そのセリフ。聞いてるこっちが恥ずかしくなりますよ。
でも今回は目を瞑りましょう。
「やっちゃえ、レイズ様」
なんたってこう見えて、一応その腕前はなかなかのものなので。
相手は丸腰? 知りませんよ。
だってこの人、悪役令息ですから。
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