第22話 正規ルートを外れた追放系女子


「はいはい一件落着」


 そんなこんなでお手軽な山門芝居は終了。悪い魔女もその仲間たちもあっという間にお縄につきましたとさ。

 あまりにも手際が良すぎて次の話ではもう相手を制圧してる描写だからね、すごいね。

 後はあれかな、相手の情に訴えるやり取りとか必要かな?


「お母さんが今までこんな事してたなんて知ったら、娘さんが悲しみますよ」

「あなた達には関係ないわ」

「……失礼しました」


 人生そんなに思い通りにはいかないのである。まあ今回のところは、情に訴えて他人の人生語りが始まるってくだりはカットしよう。

 レイズ様にいたっては欠伸しているし。この緊張感無さよ。実は剣の腕前がどうのこうのっていう話だって、一話かけてやらなくていいのか? いい? おっけーそれじゃカットカット。さっさとこんな場所立ち去ろ……


「その剣、よく見たらルメール家のものじゃない」


 と思ったら思わぬ変化球。まさかそっちに目が行くとは。

 おっしゃる通りレイズ様のご実家、ルメール家の物ですとも。しっかりと紋章も刻まれておりますしね。


「よくご存じで」

「ご存じも何もあの悪女の家だもの。忘れないわ!」


 悪女とはこれまたインパクトのあるお言葉で。


「悪女といいますと?」

「ローザよ、ローザ! 私がこんな生活してるのもあの女のせいなんだから」


 姉じゃなくてアリーゼ様じゃなくて義母ローザ様の方だったか。確かに年齢的には近そうだけど。


「知ってました?」


 とりあえず身内にバトンタッチしてみる。


「知るか。俺に振るな」


 ですよね、言うと思った。

 しかしローザ様か。息子はとんでもないクソガキ様だけど、ローザ様ってそんな人だった気がしないんだけどなぁ。


「一応聞きますけど、ローザ様って若くて美しいあのローザ様ですよね?」

「馬鹿ね。そうやってみんな騙されるのよ」


 馬鹿って。奥さんも会った時と随分印象が違いますけどね。


「私はね、これでもしがない貴族の娘だったわ……」


 おや、これはやはり人生語りが始まりそうな予感。とりあえず聞いておくか。


「結婚だって決まっていたの」

「ふんふん」

「でも、そんな中現れたのがあいつ、ローザよ!」


 あーこれは。この後ぶち壊される感じか。


「あいつはいきなり現れたかと思うと私と婚約者の間に入ってきて、私達の関係を滅茶苦茶にしたわ!」

「なるほどー」


 やっぱり。

 いわゆる寝取られたってやつなんだろう。


「ん? でもそれって夫になる人の方が責められるものじゃないですか?」


 だってたぶんそれ浮気だから。


「知らないわよ。気付いたら私が家を追い出される身になったんですもの!」


 ええー。何それどういう事? 悪いの婚約者でしょ? 


「みんな信じるのはあの女の話ばかり」


 なんだそれ怖いな。


「大体、私が他の人と付き合っていたっていう情報だってどこで手に入れたのかしら」

「他の人と付き合って……」


 それはあんたが悪いよ。


「散々私達を荒らした挙句、急に姿を見せなくなったと思ったら、ある日風の噂でルメール家に嫁いでいるって聞いた時は腸が煮えくり返ったわ」

「そりゃあご愁傷さまです」

「ほんと、一体どんな手を使ったのかしら」

「普通のご再婚だと思い……たい、ですねぇ」


 某フェリクス様の人間性が母親譲りだとは思いたくない。


「折角あいつを忘れてここで第二の人生を始めたのに、結局夫にも逃げられるし最悪よ」


 今流行りの追放系女子ですもんね。我々の先達者。

 でも次に第二の人生を始める時は、盗賊じゃなくてスローライフ系をおススメしておきますね。


「おまけに今度はローザの息子まで私を邪魔しに来るなんて」


 そりゃ絶望的な気分にもなるよね。

 まあ私達が訪れたのは偶然で、レイズ様もローザ様の息子じゃないわけだけど。ああ、訂正しとくか一応。うちの令息様、怒ると怖いし。


「あ、いえ。レイズ様は違……」

「いい、やめろ」

「え?」


 真っ先にブチ切れそうな人がどうした。急に慈悲の心でも芽生えたか。

 うん、手? 手を持ちあげて、おいおいまさか殴る気じゃ……?


「そ、それはマズいです。女性に手をあげるのはさすがに!」


 この物語が終わってしまう! レイズ様!!!


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