らす・べが~す②
暗闇で虫が光を求めるように、私たちにもパチンコ屋に自然と足を運んでしまう本能が備わっている。声をかき消すような大音量と感覚を鈍らせるほどの光の点滅。そして、肉食動物が獲物を狙うかのように何千発と流れる鉄の玉を休むことなく目で追ってしまう。聴覚、視覚、思考力、財力を奪う大人のテーマパーク、パチンコ屋「らす・べが~す」。私たちもその死の魅力に惹きつけられ、やって来た。
「未希さんは打ちたい台とかあるます?」
「エ〇ァかな。いろいろ打ったけど、1番当たりやすい気がする」
「それギャンブラーの誤謬だと思いますけど。でも空いてるか見てみますか。2人並んで座れたらいいですね」
ちょうど1パチのエ◯ァが二つ先が並んで空いてたので座ることにした。
「紫色の機体が台の上部についてるんですね!」
「この機体ね、吠えるよ!吠えたらほぼ当たる!!」
「本当ですか⁉︎楽しみっす」
初号機にテンションが上がりつつ、ハンドルを回してゲームをスタートする。
無口な少女、元気な少女、冷静な破壊の女性が何度も登場してはいなくなる。そろそろ集中力が切れて片手でスマホをいじろうかとした時、隣から司令官の女性の「発進準備!!!」とともに機体が勢いよく飛び出て、敵とのバトルが始まった。
「これ勝てば確変じゃん!」
「勝て勝て勝て!!!」
数字は6?6といったところだ。
もちろん直ぐに決着がつくわけがなく、機体は敵の攻撃でピンチに陥っている。ここで窮地を脱して、敵を倒せばメーターが6で止まるといったお決まりのパターンである。
「かてかてかてかて…」
こちらもお決まりで、山本君も同じことしか言えなくなっている。
しかし、数字は山本君の思いとは裏腹に5で止まってしまった。戻って打ち直すかと思い、ハンドルを回そうかと思った途端、隣から、いや正確には隣の紫の機体から獣のような雄叫びが聞こえてきた。
「ヴオオオオオオオオオオ!!!!」
「キタキタキターーーーー!!!!」山本君の目に声に、顔に一気に力が蘇る。
力を取り戻した機体は、敵の拘束から抜け出し右手に握った小刀で敵の急所を貫いた。と同時に数字はもう一度回転し、6で止まった。
「よおおおっし!、当たったあああ!!!」
山本君喜びすぎじゃないか⁉︎まだ一回当たっただけだぞ。
右打ちしてください。
当たった山本君の台が当たりの消化に進むために指示を出している。
ちなみにこの時にハンドルを動かさないと次に進まないため、あえて動かさずトイレに行く人もいる。
「よかったね、このまま続くといいね!」
「本当です!連チャン何回も引きます!」
山本君の方を見ている間に私の方も299回(天井いっぱいのこと)図柄(回る数字のこと)を回して、確変に入った。
この確変モードをなんとか突破して私も当たりの演出まで進むことができた。
「山本君、私も行ったわ!」
「おお、おめです!自分もまだ続いてるので2人で右打ちできますね!」
喜びを分かち合いながら2人ともハンドルを目いっぱい右に回す。パチンコ玉は勢いよく発射され、同時にBGMにこの台のアニメの主題歌でもある、カラオケで最も歌われているアニソンが歌われる。そしてアタッカー(ここに入ると玉が3~5くらいに増えて戻ってきます)の中に吸い込まれていき、玉が払い出しされ溜まっていく。
右打ち×BGM×払い出し=脳汁
の方程式である。パチンコ好きな方なら共感してもらえると思うが、この瞬間が人生の中で最も興奮するタイミングの一つだと思う。
私もこの後当たりが続き、4000円プラスで山本君が5000円プラスといった結果になり、幸せな気持ちで焼き肉に行けることになった。
「未希さん、また打ち行きましょう!」
「いいよ!臭いラーメン食べて、走ってお金おろしに行った甲斐あったでしょう⁈」
「まだ言ってるんですか⁈あーあ、この人、脳汁出過ぎておかしくなってるわ」
文責 高野未希
パチンコ屋でバイトしていたら変な客しか来店しません! すがの羊 @torahitugi
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