白熊のお姉さんの話
この街には"白熊のお姉さん"と呼ばれる人がいた。
名前は知られていないが、
ハロウィンやお祭りの夜などに度々現れる、
白いコスチュームに身を包んで、
面白いパフォーマンスをしてくれる。
そのコスチュームが白熊なので、
"白熊のお姉さん"と呼ばれている。
彼女の普段を知る人はいなく、
普段彼女に会ったことがある人もいない。
そんな彼女に唯一会えるのはクラブだ。
あれは寒い週末の夜だった。
そんな彼女に会わせたいと思い、
二人で夜更けのクラブへやってきた。
初めての場所、大きな音で響き渡る音楽。
その音の大きさに驚いてしまい、
彼はラウンジからフロアへ行くことができなかった。
そこで、お姉さんを見つけて連れてくることにした。
彼を隅っこのソファーに座らせて、
お姉さんを探しにフロアへと向かった。
彼女はフロアの隅の方で踊っていた。
軽く挨拶をして、事情を話すと、
彼女は快くラウンジへとやってきた。
見ると彼は少し寒かったのか、
下を向いて小さくなっていた。
「ねぇ、この子に名前はあるのかしら?」
彼女が聞いてきたので、
「まだないんだけど、
ハリーって名前にしようかなって思ってる。」
と答えた。
「いいじゃない!ハリー君。」
彼女のその声に驚いたのか、
彼は二人を見上げた。
「驚かせてごめんね。
名前、ハリーはどうだい?」
そう言うと、
彼は少し首を傾げた後、小さく頷いた。
これが、ハスキーハリーの始まりである。
そのやりとりを見ていた彼女。
「あたしもご挨拶しなきゃね。」
そう言うと、優しい顔をして、
ゆっくりとハリーの前に座った。
「初めまして、ハリー君。
お話は色々聞いたよ。辛かったね。
でも、もう大丈夫だからね。
あたしもハリー君の力になってあげるからね。」
そう言うと、彼女はハリーの頭を優しく撫でてあげた。
すると、ハリーは気を許してくれたのか、
さっきまで小さくなっていた体を伸ばして、
大人しくちょこんと座っていた。
すると今度彼女は、ハリーの両手を優しく
両手で包みながらこう言った。
「あなたの手は、とても良い手なの。
でも、心無い人のせいでこんなに傷だらけになってしまったんだね。あたしには感じるよ。
だから、今度、あなたに新しい手をあげる。
あたしにできる事、あなたにしてあげるね。」
言い終わった後、彼女はゆっくりと、
ハリーの両手を元に戻した。
そして、ゆっくり立ち上がると、
「来週、あたしここに来るから、
ハリー君、もう一度連れてきてあげて。
待ってるから。」
そう言って手を振ると、
彼女はフロアへと消えていった。
次の週末。
約束通りやってくると、
彼女は白くてふわふわとした
白熊の手袋をハリーにプレゼントしてくれた。
不思議な事に、その時にはハリーは彼女に懐いていた。
そして家に帰ると、
早速新しい手で色々なことをする練習を始めた。
時には彼女とダンスの練習をすることもあった。
そんな彼にできることはきっと、
自分にある色んなことを教えてあげることだと思い、
DJや、カホンの叩き方などを教えた。
時は流れて半年。
その頃にはDJもカホンも基本的なことはできるようになっていた。
それから一年後。
彼女からの連絡があり、
二人で彼女のもとを訪ねた。
すると、彼女は何やら小さな紙袋を持って待っていた。
ハリーが彼女のもとへ行くと、彼女はハリーを優しく抱きしめた。
そして、持っていた紙袋を渡しながらこう言った。
「ハリー君。
あたしね、ちょっと遠いところへ行かなきゃいけないの。
だからね、最後にプレゼントをあげる。
ハリー君はもう立派になったと思う。
だから、ささやかなあたしからのお祝い。
会えなくなっちゃうのは少し寂しいけど、
ハリー君が頑張るなら、あたしも頑張る。
だからどうか、あたしのこと、忘れないでね…。」
言い終わった後、彼女はもう一度ハリーを抱きしめ、
こう言った。
「今まで本当にありがとう。またね。」
彼女はそう言うと、夜の闇の中に消えていった。
紙袋の中には、新しい白熊の手が入っていた。
それ以来、彼女の姿を再び見ることはなかった。
ハスキーハリーの話 Mikoto@飼い主 @xxxmikotoxxx
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