12話
「魔法使って、平和に世界征服するぞ!!!」
そう、思ってた時期もありました···
目の前を見て、ふっと笑う。
魔法で、世界征服出来るのだろうか···?
ここは、ちょっとした物置部屋になっている人がほとんど居ない部屋。
ちょっと魔術を使ってみようと、プレゼントで貰った魔導書に載っていた浄化の魔術を使おうとしただけだったんだけどなぁ···
“空”が綺麗だなぁ···
「「「お嬢様ぁ?!?!」」」
「で、何故こんなことになっているのかな?」
「···すみませんでした!!」
きっちり45度頭を下げた。
いや、ほんとに好奇心で少しだけだし···って思ってたんだ。
そんな軽い気持ちで、失敗しても大したことは無いだろうけど、一応と思って人のいない部屋でこっそり魔法を使ったんだ。そしたら、部屋が半壊してしまって···
好奇心でやってしまったことを素直に伝えると、目頭を揉まれた。
「いや、私も何も考えずに、注意せずに魔法書を渡してしまったからね···
でも、下手したら、屋敷ごと破壊してたかもしれないんだ」
「······!」
これ、は···
もう、魔法書を読んだり試したりが出来なくなる流れだろう。
自分の責任だ、致し方ない。
でも···
「···ハハ、大丈夫、魔法書は取り上げないよ
ただ、今回みたいなことがないように、少し早いけど魔法の先生を君につける事にするよ」
「···!!!魔法の、先生?!」
「そう、魔法の先生だ。
···本当なら、もう少し後で知り合いにたのもうと思っていたんだけど···
今回みたいなことが、もうないように、ね?」
「ありがとう父さん、頑張るよ!!」
くしゃりと頭を撫でられ、魔法書を読めることに有頂天になっていた。
でも、そう簡単に今回の事が収まった訳ではなく···
「じゃ、先生が来るまで、課題を増やそうか!」
「···え?」
「大丈夫!父さんも鍛錬は一緒にするから!!」
「え、え??…嫌だァァー!!!!!」
ほかは頑張るけど、鍛錬だけは、お断り!!!!
でも、結局武術等の鍛錬がいつもの2倍に、礼儀作法の課題は1.5倍に、魔法の先生が来るまでは増やされた。
この、脳筋一家め···!!!
―――――――――――――――――――――――
「さて、今日は創世記についてからですが
…お嬢様、魔術について学びたいのは分かりますが、せめて、体勢だけは整えましょうね」
「…歴史は歴史でも、魔法か魔術に関することがいい…」
机につけていた頭を上げ、目の前の男性に苦々しい思いをぶつける。
彼は、執事長のセバス。
お、…私個人の先生がつくまで、基礎的な事を教えてくれている。ロマンスグレーの、この屋敷で三本指に入るくらい強い執事らしい。
というか、この屋敷にいる人で強くない人はいない。
「自業自得なのは分かってるけど、お、…私は、少しでも魔法に関わるのがいい…」
「おやおや…」
分かった上でのモヤッとした気持ちを、少し吐き出したかったと言うのは伝わっているらしい。
しょうがない子だ、そう言いたげに優しく苦笑された。
「しかし、言葉遣いも大分成長なさいましたね」
…そう、さすがに“俺”はいけないと言う事で、“私”にしようという事になったのだ。
まだ、“俺”を言いそうになる時があるが、最初の頃に比べたら、随分マシになったものだ。間違える回数が多すぎて、間違える毎に鍛錬の時間が増やされるようになってから徐々に減っていき、今に至る。
「では、授業に入りますよ」
その声で、意識が現実に戻る。
あれは、地獄だった…
本当に、3m近く宙を舞ったり、地面に転がされたりと、いい思い出がない。
意識をセバスに向け、聞く姿勢をとったのを確認して、セバスは話し始めた。
「まず、この世界で共通の創造神であり、ここ、ベルンシュタイン王国の主神であるジーロンドルト様が大地を創成したところから始まります」
創造神は大地という世界の基盤を創ったあと、光、闇、火、水、土、風の神を呼び出し、世界を創った。
その後、人族、エルフや獣人等の亜人族、犬や猫、鳥等の動物を生み出し、それぞれの神が気に入ったものに加護を与え、それぞれの神が加護を与えた1人目達がそれぞれの国を作ったのだ。その7人が作った国が、今は、7大国としてそれぞれ残り、加護を与えた神をその国の主神として祀っているそうだ。
また、商業の神、医療の神など、繁栄するにつれて生まれた神を主神とする小国も生まれていった。
「ここ迄で、質問はありますか?」
「···あれ?この地図に載っているのは、闇の神の加護を得た国を除いた6大国ですよね?」
渡された教科書に載っている地図には、2つの大陸に半分ずつ大国が分かれており、大陸の間は、川が流れているような形で海が横たわっている。
その沿岸部は、まるで、元々1つだったものを切り分けたような形だ。
「よくお気づきになられましたね。この地図は、約六百年前に書かれた地図で、今のものとは少し違うのですよ」
それに気づいて欲しかったから古いものにしたんですよ、とウィンクを飛ばしてきた。
ロマンスグレーで厳しそうに見えるのに、かなりお茶目だ。頑張れば、褒めて甘やかしてくれるし、おじいちゃんみたいで好きなんだよなぁ···
「何故、ですか?」
意識を切りかえて、質問する。
何回繰り返したとしても、スラムではここまで詳しくは学べない。大まかすぎる歴史を知っているだけだ。
「今から六千年程昔、詳しい規模などは分かっていませんが、大きなモンスターテンペストが起こったそうです。その時、広範囲で強力な古代魔術が使われたそうで、その衝撃で大陸の形が変わり、かなりの魔術や資料が失われました。一部だけ残った魔術もありますがほとんどが使えないままです。お嬢様が使った浄化の魔術も、その1つですね」
魔術の話が出たことに目を輝かせるも、苦笑しながら話を大陸の方に戻された。
それでも、気分が上がったので大人しく話を聞く。
文句は言ったが、学べることは楽しいし、世界の破滅回避にも繋がる。一石二鳥だ。
「闇の神の加護を得た国は、さっき言った、古代魔術によって大陸から大きく離れた所へ飛ばされた為、国交が絶たれ、資料も残っていないのでこの地図では、載せなかったそうです」
そして、と渡された地図には、二つの大陸の北の方、かなり大きく隔てられた所に一部だけ大陸が書かれていた。
「こちらが、1番新しい地図です。船の開発が進んだことによって国交が回復し、闇の神を主神とする国オニュクス帝国の方でも土地の開拓が進んでいなかったそうで、今現在も地図の更新が続いているのです」
「さて、次はオニュクス帝国について話しましょうか。主に、この国ではダークエルフや吸血鬼等、闇属性に特化した一般的に魔族と呼ばれている亜人族が国民の大半を占めています。
···先程言ったように国交が絶たれていた為、情報が入らず、『魔族は魔物の仲間で、操って他の国を襲っていた。だから、我々の先祖が今のように帝国を遠くへ遠ざけたのだ』等と吹聴する者が現れ、今では彼らを見下したり、恐れたりする者が多いのです」
生き物は本能的に闇を恐れますからね、そう苦い物を飲んだ様な顔で笑いかけられる。
···彼も、身に覚えがあるのだろう。魔族と呼ばれる祖母を持つと言っていたから。
だが、その後必ず彼は言う。旦那様方はそんなことを気にせず、訳ありの多い私達使用人を家族のように扱ってくださる、素晴らしい方だ、と。
「しかし、先代国王が現帝王の妹姫を王妃として迎え入れて以来、貴族の表立った魔族差別は少なくなりました」
そう語る彼は、何処か晴れやかな顔をしていた。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「さて、今日の授業はここ迄です。なにか質問は?」
ふと教科書に目を落とす。
そこには、あの、自称“神様”と名乗った彼の、元の顔が分かる程度に美化された肖像画だった。
今まで大元の顔がわかる程度に残っているのも凄いのだが···
「···ありません」
···アンタ、本当に神様だったんだな···
おちゃらけていたから、一信九疑位だったよ···
思わず、授業中に思っていた事が喉まで出かけて言葉を飲み込んだ。
その瞬間···
バッゴーンッ!!!
「「ユウ!終わったなら、訓練場に行くぞ!!!」」
モブの世界平和征服~モブは平和な明日を望む~ 蒼猫綺 @aonekoaya
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