閑話
「週末に、ユウに会いたい···?」
ユウが家族になって4ヶ月を過ぎた頃、ミルラット商会のマスター、マルコが商売ついでに我が家に寄った時に告げられた言葉に首を傾げた。
「はい、孫達がどうしても会いたいと···」
「別に構わないが···何故、今日じゃなくて、週末なんだい?」
マルコと共に座る小さな双子に目線を合わせて問う。
「あのね、にぃちゃ、しゅうまつにねー」
「いっこ、大人になるのー!
いつもね、にぃちゃのなかよしさんとおめでとって、いつもよりおいしいの作ってたの」
「「だからね、おめでとしたいのー!」」
「···なんだって···?
セバス!カーナを呼んでくれ、緊急家族会議だ!!」
マルコと小さな双子を含め、開かれた会議は白熱した。
「ユウが好きな物って、なんだ···?」
家族になったとはいえ、まだまだ日は浅い。
彼女が何が欲しいのか、何が好きなのかも、よく分かっていないのだ。
「どうしたものか···」
「ルナ、ルカ。ユウが何か欲しいとか、何が好きかわかるかい?」
好々爺とした表情で優しく話しかけるマルコに、普段の冷徹とした表情は、欠片もない。
あの子と出会わなければ、彼がこの様な表情を浮かべる事は、二度となかっただろう。
私も、あの時、彼女が助けてくれなければここにはいなかった。子供に助けてもらうというのは、おかしな話だろうが。
しかし、本当に何も知らない。
家族という存在に、頼る事に、慣れていないのだろうか?
彼女は、甘える素振りも、頼る素振りもなく、どこか壁を感じていた。
「んとね、にーちゃ、さいきん、まじゅつをしらべたりするのがすきって」
「あとね、あとね!あまいものおやつをいっしょにだたべるとき、いつもよりもニコニコなの!」
やはり、家族として暮らしてきた彼らの方が、新しく親になった私達よりもユウに詳しい。
彼女が私を助けてくれたあの日、目覚めて話しているうちに、何だかとても、優しく守ってあげたくなったのだ。
初めは、彼女の力を、国のためにも埋もれさせてはいけないという気持ちだった。
しかし、自分よりも小さな家族を優先する彼女を、甘やかして、擁護してあげたかった。
家族として、守りたくなった。
だが――
「···はぁ···」
湧き上がった感情を、妻に伝えたところ、妻は嬉しそうに受け入れてくれた。
その気持ちは、やはり迷惑だったのだろうか?
ただただ、都合が良かったから受け入れてくれただけだったのだろう。
そんなモヤモヤした気持ちを、知られないように吐き出した。
セバスや、私の乳母を勤めてくれたメイド長は、ゆっくり待つように言うが···
未だに残るモヤモヤとした感情を無理矢理押し込めて、話に戻る。
今は、ユウの誕生日を祝うために考えをめぐらせなくては。
「2人とも、教えてくれてありがとう」
双子に微笑んで、プレゼントや、当日の予定を詰め合わせていく。
そういえば――
まだ、父と呼ばれたことも、なかったなぁ···
「おはよう、ユウ」
「おはようございます···」
誕生日当日
なんとかユウにばれることなく、準備を進め、今日を迎えられた。
「······」
食べる姿を見て、洗礼されてきた動きに彼女の努力を感じる。
一方的に押し付けられたと言ってもいい貴族のルールを、弱音も吐かずに努力してくれるのだと、しみじみと思う。
(この子の今日までの努力に対する感謝も込めて、今日は盛大に祝ってあげなくては···!)
決意を新たに声をかける。
「ユウ、今日はなにか予定はあるかい?」
「今日は、講義もないので特には···」
「そうか。あぁ、そうだ、昼食の前に少し時間を空けておいてくれないか?あと、昼食後も」
「分かりました」
そっと、パーティの時間の予約をとる。
不思議そうではあったが、何も気づかれていない。
パーティへのラストスパートをかけていく。
コンコンコン
「はい」
「ギルバートさん、何か用事が···?」
入って来たのは、ユウだ。
父と呼んでくれない事に、若干の寂しさを感じつつも、笑顔で話す。
「あぁ、ちょうどいいくらいの時間だ。移動しようか、ついてきてくれ」
準備のために、ユウが近づかないようにしてもらっていた広間へと向かう。
「さぁ、入ってくれ」
「?はい···」
カチャリ
パンパパンッ!
「「「「お誕生日おめでとう(なの〜)!」」」」
「えっ···」
「これ、ぼくとルナからなの!」
「こっこれは···!魔法薬を作るのに必要な薬草!!
それも、北の国境付近しかこの国に無いのに···」
「ほしいっていってたから、じーじにつれてってもらって、つんだのー!」
双子が薬草の束を手渡すと、感激したようだ。
笑みをごほしながら、ありがとうと双子の頭を撫でている。
「私達使用人からは、実験セットを」
「うわぁ···」
嬉しそうに目を輝かせながら、きちんとお礼を言っている。
いつの間にか、使用人達と仲が良くなっていたようだ。
屋敷の全員が協力して、それなりに値段のはるものを送っていた。
「ユウちゃん」
「これは、私たち二人から」
「···これは、中級魔術の魔導書···?」
「···どうかな?屋敷にあるのは初歩的なものが多いから、屋敷には無いものを選んだんだけど···」
「嬉しい、その···ありがとう···父さん、母さん···」
耳まで真っ赤にしながら俯きがちに父と呼ばれ、胸が高鳴った。
···これが、父性···?
「ユウちゃん···!!!」
同じく、母と呼ばれて感激しているカーナを慌てて止める。
さすがに、今日の主役を気絶させる訳には行かない。
「その、屋敷のみんなも、ありがとう。
祝ってもらえて、凄く嬉しい。これからも、よろしくお願いします」
はにかんだ笑みを、温かく見守る。
ささやかなパーティが終わった後、メイド長とセバスから、こっそりと耳打ちされた。
「お嬢様は、親という存在に慣れてなくて、気恥ずかしかっただけだそうですよ?」
この日から、少しずつユウと、私達の距離は縮まっていった。
―――――――――――――――――――――――
改めまして、青猫綺と申します。
あとがきって、初めて書くんですが、こんな感じでいいのでしょうか···?
ここで簡単に言うと“一章”が終わりです。
これまでは1話1話が短かったのですが、これから少し1話の長さが長くなるので、更新のペースは少し遅くなるかもしれません。
ここから本格的に、モブ少女のユウがどんどん自由に世界を平和にするために、世界征服したり、秘密を明らかにしたり、明らかにならなかったりしながら周りを振り回します。
のんびり読んでいただけると嬉しいです。
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