まぼろしの海
門前払 勝無
第1話
にやけた顔にパンチを喰らわした。
ごみ置き場に倒れ込んだ奴を更に殴り続けた。弱っていく奴に唾を吐いた。
前に会ったことのある奴に「どこかで会いましたっけ?」と言われたから「会ってねぇよ」と言って宴会から抜け出した。
くだらない事を言いながら大したことのない行動をしている奴を追い返した。
俺の事を知ったふうに言いふらしてる奴を見つけた。
「俺は、自分の事をよくわかっていないのに、何故お前は俺を知っている?」そいつは困った顔をしていた。
腐ったドブ川で産まれ、ゲロ臭い土地で育ち、詐欺師に囲まれて生きてきた。俺は扉を強固な物にしていく…。自分の背中に違和感を感じている。薄汚れた翼があるのを知っているが、動かす事ができない。羽ばたく術を知らないのである。
考えるパズルを組み立てていると疲れて、自分だけの部屋に逃げ込む…。
夜は暗いから金を燃やして歩く…。
たまに夜空を見上げて過ごしている。癒してくれるのはいつも夜空の星、寝かしつけてくれるのはお月様…。
マイクを向けるから答える。粘り着く鉄と肉で出来たモンスターに火を吹くのだ。
スポンジみたいな台詞に騙されて、鶏小屋に行っては耳鳴りに嫌気がする。喋るダッチワイフの空気を抜く…。
青い看板に直進は海とある。
俺は海に向かう。
星が一列に海への道しるべ、その先にお月様が笑っている。潮風の香り…地平線。
足首まで埋まる砂浜、波の音が囁く。
その場に座り込み海を触る。海で翼の汚れを落とした。水面の輝きが空へと導いてくれた。俺は翼を羽ばたかせて夜空へ向かった。真っ直ぐ翔んだ。翼を大きく羽ばたかせて上に上に向かった。下には小さな街が微かな明かりを光らしている。
お月様の頬にキス、星達が拍手していた。
「来たよ」
お月様は笑っている。
一晩中、お月様の周りを飛び回った。風が冷たくても、鼻水出ても気にしない。
気がつくとお月様は居なくなっていて、俺は沙漠で寝ていた。
海も無く翼も無い…。
乾燥した何もない景色が目の前に広がっている…ただ、それだけである。
俺は表情を忘れた。お月様をどんな顔で見ていたのかも忘れた。
沙漠をただ…歩き出した。
おわり
まぼろしの海 門前払 勝無 @kaburemono
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