第145話 受け継ぐ気高き意志
それからエレベーターは最上階こと地上へと到着した。
僕達は急いで研究施設を脱出する。
駐車していたNBC装甲車まで辿り着き、全員が車両の前で佇む。
竜史郎さんが戻って来るのを待つことにした。
しばらくして、
――ドォォォォォォン!
突如、爆発音が鳴り響く。
激しい轟音と共に地響きにより大地を揺らした。
研究施設が崩壊され、そこから炎とドス黒い煙が荒々しく巻き上がっていく。
今の衝撃は、地下の研究施設『
一体、何が起こったのかわからない。
僕達は目の前の惨事に唖然として見入っていた。
「……なんだ!? どうして!? まさか竜史郎さんが!?」
「いや、弥之君、流石にそれはない! 確かに彼は
「だとしたら何!? また白鬼の仕業なわけぇ!?」
唯織先輩の推測に、彩花が声を荒げて聞く。
「少し違うと思うわ……きっとセイヤよ。彼は弥之くんが脱出したと踏んで研究所を爆破したのよ。証拠隠滅、あるいは用なしと思ったのか……」
「そんな、香那恵さん……だとしたら竜史郎さんは?」
「竜史郎さんはどうなっちゃったの!?」
有栖と美玖は問いに、香那恵さんは静かに首を横に振った。
「……元々、死に場所を探していたような生き方をしていた人だから……こうなることは覚悟していたと思うわ。だけどね……弥之くんを守ることだけは必死だった……必死だったのよぉ……兄さん! う、ううう……」
香那恵さんは両手で口元を押さえ、嗚咽を漏らした。
ぽろぽろと涙が溢れ、項垂れてしまい両膝を地面につく。
普段から大人の女性として毅然としているとはいえ、たった一人の兄。
この惨状を目の当たりにして冷静でいられる筈はない。
そして香那恵さんが流した涙は、竜史郎さんが決して戻って来ないことを意味していた。
「嘘だ……そんなこと!」
僕はふらついた足取りで、燃え上がる研究施設へと近づく。
「ミユキくん!」
背後から有栖が僕の腕を掴んできた。
「離してくれよ! 竜史郎さんを……竜史郎さんを助けに行くんだ!」
「駄目だよ! もう……駄目ぇ……お願い、ミユキくん」
有栖は僕の背中に抱きつき、力強く胸元に両腕を回した。
初めて彼女からの抱擁だったけど、僕は嬉しさよりも悔しさの方が何十倍も溢れている。
「うぐ……ごめんなさい、有栖……ごめんなさい、竜史郎さん……」
結局何もできない自分の無力さに、僕は両膝から崩れ落ち蹲る。
何が人類側の『救世主』だ……大切な仲間を……竜史郎さんを守れなかった。
有栖は僕を抱きしめたまま、身体を振るわせている。
「ミユキくんは悪くないもん……誰も悪くない……う、ううう」
背中越しで彼女も泣いている。
有栖の言う通り、誰が悪いわけじゃない。
わかっている……わかっているんだ。
けど、
「竜史郎さん! うぁ、あぁぁぁぁ――――…………」
僕は喉が張り裂けるほど泣き叫んだ。
これだけ泣いたのは生まれて初めてかもしれない。
いつも何かに悲観し、誰も信じられず諦めていた日々。
この荒廃した終末世界で、唯一僕に手を差し伸べて導いてくれた恩人である、竜史郎さん。
僕にとって本当の兄のような存在であり師と仰いだ……竜史郎さん。
全て終わったら、みんな一緒にアメリカへ連れてってくれるって言ったじゃないか……。
まさか、こんな形で……信じたくない。
「リュウさん……嘘でしょ……嘘だと言えよ! うわぁぁぁぁ」
「ごめんなさい……私が……私が、あんな男を信じたばかりに……竜史郎さん。うぐぅぅぅ」
「えっぐ……竜史郎さん……うえっ、ええぇぇぇ」
彩花も唯織先輩も美玖も、誰もが悲さと悔恨の念を交えて涙を流した。
僕達チームにとって最も頼れる司令塔、そんな彼を失って……僕達は、これからどうしたらいいんだ?
教えてください……竜史郎さん。
その時――ふと
胸の内ポケットから、黒い手帳が地面に落ちる。
それは竜史郎さんから託された『手記』だ。
――既に俺の全てを託したつもりだぜ、弥之。
ふと竜史郎さんの声が聞こえたような気がした。
最後に彼は、初めてちゃんと僕の名を呼んでくれたんだ。
僕を「少年」ではなく「男」として認めてくれた。
ならば僕は――
何度か深呼吸を行い、地面に落ちた『手記』を拾い上げた。
片手に持っている
そうだ……そうですよね。
――竜史郎さん。
僕は頷くと、
胸元にある、有栖の腕をゆっくりと解き、彼女の手を握りながら一緒に立ち上がった。
「僕は……いえ、
「……ミ、ミユキくん?」
有栖は誓いを立てる僕、いや
俺は頷き、他の女子達にも視線を向けた。
「みんな! 装甲車に乗って、ここを出よう! 煙と炎がこちらに来る前に立ち去るんだ! 生きていれば必ずなんとかなる! 竜史郎さんの想いを無駄にしてはいけない! 俺達は生き抜くんだ!」
「うん、そうだね! ミユキくん!」
「……へへ、急にキャラ変したっつーの、センパイ。でも超イケてるよぉ!」
「そうだな、弥之君の言う通りだ。私は挫けない! 皆といれば、どこまでも戦える!」
「ありがとう、弥之くん……私も兄さんの意志を継いで頑張るわ!」
「お兄ぃ、お姉ちゃん達……いつまでも一緒だよ!」
俺の鼓舞に、有栖、彩花、唯織先輩、香那恵さん、美玖が頷き賛同してくれる。
そうだ、俺にはチームのみんながいる。
彼女達と一緒なら何も怖くない!
――俺は終末世界の救世主になってやる!
そして、醒弥!
必ずお前の野望を阻止してみせるからな!
こうして俺達は装甲車に乗り込み、速やかに『西園寺研究所』の敷地内から脱出した。
**********
あれから数時間後。
研究施設の炎は消失する。
ドゴォッ!
崩壊した建物の瓦礫から、何かが這い上がってきた。
埃塗れのドレスを纏う、真っ白で可憐な美少女である。
白鬼ミクだ。
「……嫌ですわ。すっかりお洋服が汚れてしまいましたの」
衣類以外は目立った損傷は見られない。
華奢な手で、ささっとドレスの汚れを払っている。
〔――すまないね、ミク。すっかりオレの我儘に付き合わせてしまって〕
ふと醒弥からの思念が、頭の中へと流れる。
途端、彼女の表情がぱぁっと明るくなった。
「いいえ。親愛なる醒弥お兄様の頼みですもの、わたくしが拒むことはございません。お兄様の言いつけ通り、きちんと『
〔ありがとう……それで竜史郎は?〕
「ここに居ますわ」
ミクは言いながら、スカートから無数の赤紫色の触手が溢れるように出現する。
瓦礫に埋もれる何かを引きずり出した。
――久遠 竜史郎である。
全身に酷い火傷や損傷が目立っており、意識がなく呼吸をしているのかわからない。
生死不明の状態だ。
「お兄様、この者をどういたしますの? ド
〔……いいや。最初から、そいつはイレギュラーな
醒弥の言葉に、ミクは初めて顔を顰めた。
不快というよりも、不安視するような懸念した表情に近い。
「ご褒美ですか……よろしいですの? この者、現状でも相当な手練れでしたわ。下手したら、醒弥お兄様の脅威となり得るかも……」
〔……それでも、そいつはオレにとって大切な親友に変わりない。大丈夫だ、弥之さえ成長してくれればなんとでもなる――オレが『
「愛しの弥之お兄様ぁ……そうですわね。わかりましたわ醒弥お兄様、いえ新世界の
ミクは恍惚に頬を染めながら、竜史郎ごと姿を消した。
**********
とある研究施設らしき一室にて。
白鬼ミクとの思念を切った、夜崎 醒弥。
薄い暗闇の中で、彼は太いホースに繋がれた大きな楕円形のカプセルに、自分の手を触れていた。
まるで慈しむように優しい手つきで、カプセルを愛撫している。
それは母、『夜崎 絵里』が眠る冷凍保存装置であった。
「……母さん。どうか父さんと共に、オレ達兄妹の行く末を見守ってください。新たな世界で、また家族みんなで暮らせる日を――」
第一部 完結
──────────────────
【お知らせ】
拙作をここまでお読み頂きありがとうございます。
第一部の完結したことを期に当面の間だけ休載させて頂きます。
ふとした時に再開を考えていますので、しばらくの充電という解釈でお待ち頂けると幸いです。
(上記の理由から「連載中ダグ」のまま残しております。既にラストまで構想のある作品なのでご安心下さい)
この機会に是非、フォロー、★★★、♡などご支援いただけますと大変嬉しく思います。
また応援して頂いた方々には、重ねてお礼申し上げます。
ありがとうございました。
第二部のテーマは「絆」と「決着」です。
成長した弥之とヒロイン達が定められた運命と因果にどう決着をつけるのか、そして恋の行方など、どうかご期待ください。
それでは第二部でお会いいたしましょう!
※明日、『番外編:設定資料2』を更新いたします。
【お知らせ】
こちらも更新中です! どうかよろしくお願いします!
ハイファンタジーです(^^)
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