第143話 間引きゲーム




 勝彌の頭部は音速を超えたライフル弾の衝撃により砕かれ迸る。

 散開させた箇所から鮮血が飛沫を上げ、歪な巨漢は膝から崩れ前のめりで倒れた。

 そのまま奴は起き上がることなく動かない。


 どうやら『特殊変種体Var』こと、西園寺 勝彌を斃すことに成功したようだ。


「やった!」


 つい歓喜の声を上げてしまう。


 唯織先輩の前で喜んでいいのか。

 事実上、父『月充つきみつ』の仇とはいえ、僕が彼女の父親を殺したことに変わりない。


「お見事ですわ、弥之お兄様」


 離れた場所で傍観している白鬼ミクは、自分が作った『青鬼』が斃されたことよりも、僕の活躍に称賛しながら保護者のような眼差しで柔らかい微笑を浮かべている。


「ふぅ、ようやく終わったか……香那恵、不本意な形となってしまったが、一応は俺達の復讐を果たしたと割り切るべきだと思うべか?」


「そうね、兄さん。ようやく終わったと思っていいんじゃないかしら。ところで大丈夫、唯織ちゃん?」


 香那恵さんは、唯織先輩の心情に配慮している。

 よくよく考えれば、復讐者である久遠兄妹に気遣われる復讐対象者の実娘という奇妙な絵面となっていた。


 だけど唯織先輩は、先程と違い取り乱していない。

 深呼吸を繰り返しながら、赤く染まった瞳が黒瞳に戻り、戦闘モードが解除されていく。


「……はい。あのような父ではありましたが、私にとってはたった一人の肉親なので、わだかまりはないとは言えません……ですが、弥之君が力強く抱き締めてくれて、ずっと私お傍に居てくれると約束してくれたので、もう大丈夫です」


 頬を染め、ちらっと僕を見つめながら先輩は優しく微笑んでいる。

 照れているのか身体をもじもじと揺らせ、ついでに豊満なお胸様も揺らしていた。


「「「「はぁ? 何それ?」」」」


 その様子に他の女子達は、違う意味での戦闘モードを再起動させている。

 何故か唯織先輩でなく、僕の方をガン見しながら。


「え? え? な、何? 確かに、そう言ったけど……あくまで仲間としての意味だからね! みんなも同じだからね!」


 うおっ、やべぇ! 何か知らないけど、みんな殺気立っているぅ!

 あの赤い瞳の攻撃色が怖い! ガチでやばいんですけど!

 なんでぇ、どうしてぇ!?


「定番化した少年のハーレムはどうでもいい――それより白鬼ホワイト、これで試練とやらは果たしたぞ。俺達をセイヤのところに案内してもらおうか?」


 竜史郎さんは白鬼ミクに向けて自動小銃M16の銃口を向ける。

 でも定番化したハーレムって相変わらず酷い言いがかりだ。


 対して白鬼ミクは相変わらず動じる気配は見られない。

 その細い首を横に振るって見せた。


「それはできませんわ。何故なら、まだ試練は続いているからです」


「試練だと?」


 竜史郎さんに問われ、白鬼ミクは血色がなく形の良い唇を吊り上げる。


「――これから間引き・ ・ ・を行います。当初の予定より戦死乙女ヴァルキュリアが増えてしまっているので、ここで何名かは退場してもらいますわ。こちらの『赤鬼レッド』はまだ二名なので、そちらの三名は不要でしょうか?」


 つまり、戦死乙女ヴァルキュリアと称される有栖達の中で、三人をこの場で始末すると断言しているのだ。


「つーことはさぁ。次はウチらとアンタが戦うってわけぇ?」


 唐突のキル予告に、彩花はシャベルを担いで前へと出ていく。

 僕は狙撃M24ライフルを構え、彩花に危害が及ばないよう白鬼ミクに向けて牽制し威嚇する。

 造られし実の妹とはいえ、大切な仲間が傷つくのであれば、僕は迷わず引き金トリガーを絞る覚悟だ。


 しかし白鬼ミクは戦う気配を見せず、上品に「くすっ」と鼻で笑う。


「……まさか。それではわたくしが全員瞬殺してしまい、ゲームにすらなりませんわ」


「「「「「はぁ?」」」」」


 オーバーキル宣言に、女子達全員が瞬時に戦闘モードに突入する。それぞれの武器を構えた。


「ウフフ、流石は弥之お兄様に選ばれし戦死乙女ヴァルキュリア達。実に殺気に満ちた良いプレッシャーですわ。しかし、もう詰んでますの――」


 そう、白鬼ミクが言った瞬間。


 プシュ


 彼女の背後、僕達からすれば前方にあたる奥側の白い内壁が自動に上がった。

 解放された壁は暗闇となっている。

 そこにびっしりと紅く発光する無数の点が並び左右に揺らされていた。


 お、おぐぉおおぉ……。


 獰猛な野獣の如く唸り声を上げながら、白い部屋に入ってくる者達。

 ――『青鬼』である。

 そう、無数の点の正体は、人喰鬼オーガ達の瞳孔から発せられる光であった。


 にしても相当な数だ。

 およそ1000体以上はいるのではないだろうか。


 普段通りの千鳥足で、ぞろぞろと近づいて来る『青鬼』達。

 全員がぴたっと、白鬼ミクの背後で立ち止まり、それ以上は前へ進もうとしない。


 まるでお預けを受けた飼い犬のように見えた。

 知性を無くした『青鬼』からは絶対にありえない忠実ぶりだ。


「さあ、果たしてどなたが生き残るか楽しみですわ。わたくしとしては、まず『刀使い』と『偽物のわたくし』の二名に脱落して頂きたいのですが……こればっかりは運次第ですの」


 やはり香那恵さんと妹の美玖には敵対心を抱いている、白鬼ミク。


 けど、本当にこんな大勢の『青鬼』を彼女一人で操っているのか?

 これが人喰鬼オーガの女帝、『白鬼』の能力……。

 

 その圧倒的な数を前にして、勢いづいていた彩花達もおののいてしまったのか、徐々に後退していく。

 気づけば全員が一ヶ所に固まる形で縮こまってしまった。


 こんな数、まともに戦えるわけがない。

 残弾だって限られているし、数の暴力で押し切られ間違いなく全滅してしまう。


 本来なら逃げるのがベストだけど……。

 けど、こんな地下深くの所じゃ、どこにも逃げ場なんてない。


 おまけに封鎖された空間じゃ……絶対絶命のピンチじゃないか。


「――だと思ったぞ」


 不意に竜史郎さんは笑みを浮かべ呟く。

 いつの間にか手にしている、掌に収まるスティック状のボタンを親指で押した。


 刹那



 ドォォォォォォン!



 突如、轟音と共に後方の扉が爆破された。

 粉砕まではいかないも、人が単身で通れるくらいには破損し、空間が開けられている。


「竜史郎さん、今のは!?」


「俺の切り札である、特殊プラスチックC4爆弾だ! 入る際に出入口に仕掛けておいたんだ! こうなることを見据えた上でな! みんな、あそこから逃げるぞ!」


 あいかわらずやべぇよ、竜史郎さん。

 いつのまに仕掛けたんだ? そういや、入室するまえに「靴紐が~」とか言ってしゃがみ込んでいたよな。

 つーか、銃器以外にもとんでもない代物を日本に持ち込んでいるじゃないか。


 僕達は頷き、出口に向けて駆け出した。


「くっ、イレギュラーが! 流石は醒弥お兄様が唯一認めた殿方……なんと抜け目ないのでしょう! 何をしているのです貴方達、とっととお行きなさい! 決して逃がしてはいけませんわ!」


 白鬼ミクの苛立つ声が響いた。



 うがァおぉおおおおおおおおぉぉぉぉぉ――!!!



 同時に雄叫びを上げ、一斉に押し寄せてくる『青鬼』達。


 速攻で僕達は部屋から抜け出し、例の長い通路を突き進んだ。


 まだ『青鬼』達が来る気配はない。

 きっと爆破により、自動扉が完全に壊れ開閉ができないのだろう。

 おまけにこじ開けた穴は、一人がようやく通れる程度の大きさである。

 不器用な千鳥足である『青鬼』達が通り抜けるのには、相当なロスタイムが生じるに違いない。


 今のうちに進むだけ進まないと……とはいえ。


「竜史郎さん、逃げたのはいいですけど、僕達はどこへ向かえば……」


「ここまで来たエレベーターに向かうしかあるまい! ちと遠いが、地上に昇れる唯一の手段だ!」


「でも、あの醒弥って人に機械を止められ動かなくされている可能性も……」


 有栖から懸念する意見が聞かれている。

 確かにあの陰湿な男ならやりかねないか。


「……いや、セイヤはゲームと称していた。白鬼ホワイトも同様のこと言っている。つまり必ず何かしらの攻略法を作っている筈なんだ。少年の『Øファイ-ワクチン』のようにな……」


「何故、そう言えるんです? 僕はあんな連中なんて信用しませんよ!」


「俺とて別に信用しているわけじゃないさ。少年の前で言っていいかわからないが、今はブッ殺したい糞野郎でも嘗ては『友』と呼び合った仲だ……奴の性格やプライドの高さは、よく知っているつもりだ。しばらく見ない間に相当イカレてしまったが、食えない雰囲気は以前の奴のままだった……まぁ、半分は賭けだがな」


 要するに一か八かの逃走経路ってわけか。

 

 血縁上は僕の兄だという、夜崎 醒弥。

 たとえ実兄だろうと、奴のことなんて微塵も信じられないけど、竜史郎の言葉なら信じられる。


 僕達は必ず脱出してやるぞ!






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