第142話 特殊変種体との戦い




「グボォォォォォォオ!!!」


 白鬼ミクの号令に、『特殊変種体Var』に改造された『西園寺 勝彌』が咆哮を上げて、こちらへと突進してくる。

 その様子から知性などなく、ひたすら闘争本能に支配された猛獣であると察した。


「チィッ、戦うしかないようだ! 皆、形はああだが、奴が人喰鬼オーガであることに変わりない! 弱点は頭部だ! そこを集中して狙うぞ!」


 竜史郎さんが冷静かつ的確な判断で、僕達に向けて指示が送られる。


「「「「「はい!」」」」」


 僕達が手持ちの武器を構え返事する中、ただ一人、唯織先輩の様子が可笑しい。


「嫌だぁ……お父様、嫌ぁ……」


「……唯織先輩」


 彼女の心はすっかり折れてしまっていることに気づいた。

 無理もない。自業自得とはいえ、自分の父親がバケモノに変えられたのだから。

 いつも毅然とした気持ちと精神が強い女子とはいえ、この現実は流石にキツすぎる。


「唯織は無理か……少年、彼女の傍にいてやれ」


「え? は、はい!」


 何故か竜史郎さんから待機するよう指示を受けてしまう。


「よし、他は奴を迎え撃つぞ!」


 チームの司令塔である竜史郎さんの声に、有栖達は頷き迅速な行動に移していく。


「グボォォォッ!」


 ドドドドド――ッ!!!


 勝彌が射程距離にまで近づいた途端、竜史郎さんと有栖と美玖の三人が発砲する。

 それぞれが放つ弾道は正確に頭部を捉えたかと思えた。


 が、


 突如、両肩の肉腫が増殖する形で盛り上がり、勝彌の顔から頭部全体が埋もれていく。

 弾丸は肉腫部分に突き刺さり、頭部にまで達したのか不明である。


 いや、そのまま突撃し、両腕を大振りして強靭そうな爪で攻撃を仕掛けてきた。

 おそらく弾丸は肉腫で止まり貫通しなかったようだ。


 竜史郎さん達は俊敏に攻撃を躱し、それぞれ散る形で回避する。


「肉の壁か!? あの歪な肉体は伊達じゃないようだ!」


「その通りですわ、竜史郎イレギュラーさん。弱点対策くらい施していますわよ。ほら、早くお逃げなさい、ウフフフ」


 白鬼ミクは微笑みを浮かべたまま、戦いに巻き込まれないようドレスのスカートを翻しながら後退している。


 銃撃が止むタイミングで、肉腫の壁から勝彌の顔は現れて、竜史郎さん達を追撃している。

 両腕を振りかざす、連続の大振り攻撃。

 その派手な予備動作モーションのおかげもあり、素早い強化組の女子達は余裕で躱している。

 強化されてない筈の竜史郎さんも冷静に的確に避けて反撃すらしていた。


 あんなバケモノ相手に物怖じしないなんて……やっぱみんな凄いや。


 勝彌は銃撃から逃れるため、再び頭部を肉腫の壁へと埋もれ隠している。

 まるで硬い甲羅に顔を隠す亀のような奴だ。


 などと僕も傍観している場合じゃない。

 次第にこちらに近づいている感じがする。


「唯織先輩、僕達も逃げないと!?」


「嫌……お父様……」


 駄目だ、すっかり意気消沈している。

 両膝から崩れてしまい、しゃがみ込み動こうとしない。

 いくら周囲から怨みを買い、実際にあくどいことをしてきた男だとしても、唯織先輩にとってはたった一人の父親なんだ。


 僕も母さんがあんな姿にされ、悲しくていたたまれない気持ちでいっぱいだ。

 思いの外、平静でいられるのは、醒弥にそれ以上の真実を叩きつけられたから……あるいは、実の兄と称する醒弥に対する怒りに他ならない。


 そして、僕には信頼できる仲間がいるから――


「少年、そっちに勝彌が向かったぞ、逃げろ!」


 竜史郎さんの声に、僕は前方を見据える。


「グボキュルルルゥ!」


 いつの間にか、勝彌が両腕を翳してこちらに突撃してきた。


 早く逃げない――駄目だ。

 唯織先輩を見捨てて僕だけ逃げるわけにはいかない!


「ミユキくん!」


 有栖の声が響いた。

 今から逃げても間に合わない。


 僕は反射的に、唯織先輩を抱き締める。


 ここまでか……そう思った時。


 勝彌の動きは止まり、顔を出現させる。

 僕の姿を目視すると踵を返し、再び竜史郎さん達に向けて疾走した。


「なんだ? どうして僕達を見逃す?」


「わたくしから、弥之お兄様には決して手を上げないよう指示しております。どうかご安心を」


 遠く離れた位置から白鬼ミクが教えてくる。


 ……それも醒弥のゲームだってのか?

 クソォ! あいつ、どこまでもふざけやがってぇ!


「う、ううう……お、お父様……お父様ぁ」


「……唯織先輩」


 僕の胸の中で、未だ彼女は涙を流し泣き崩れている。


 幸か不幸か。

 僕がこうして抱擁していることで、彼女も攻撃対象から外れているらしい。


 ぎゅっ


 さらに強く、唯織先輩を抱き締める。

 そのまま彼女の艶髪を優しく撫でた。

 

 唯織先輩は涙で濡れた顔を上げて、僕を見据えている。

 僕はできるだけ柔らかく微笑んだ。


「……み、弥之君?」


「唯織先輩には僕がついています。それに竜史郎さん達もいます……だから僕とみんなを信じてください」


「……本当に弥之君は、こんな私の傍にずっといてくれるのか?」


「はい、約束します」


 僕の言葉に、胸元に置いてあった唯織先輩の手に力が入る。

 彼女はゆっくりと僕から離れ、すっと立ち上がった。


「――わかった。私も戦おう!」


「唯織……先輩?」


「あれはもう父ではない。あの廻流も兄などではない。それに、弥之君や美玖君もお母さんがあんな状態にされたにもかかわらず、挫けずに戦っているんだ。私だけ落ち込んではいられん!」


 次第に力が漲り闘志を燃やす、唯織先輩。

 僕はしゃがんだまま、彼女の凛とした美しい顔を見入っていた。


「弥之君、共に戦おう! どうか私を導いてくれ!」


「はい!」


 唯織先輩から差し出された手を握り、僕は立ち上がった。


 戦況を確認する。


 竜史郎さん達は苦戦を強いられていた。


 勝彌の動きは単調かつ突進だけなので、あのメンバーなら躱すことも造作もないが、何分にも銃が効かない相手である。

 いくら銃弾を浴び、肉片が飛び散り破損しても、異様な速さで回復してしまう。


 近接戦闘を得意とする彩花と香那恵さんが、シャベルや刀で肉体に斬撃を与えても、同様な回復力を見せて決定打を与えられないでいる。


 このままいたずらに体力と弾薬を消耗してしまえば流石にやばいかもしれない。


 僕はどう援護するか迷っている中、唯織先輩は前に立ち、その様子を黙って見ていた。


「――なるほど。弱点を見つけたぞ」


「え!? 本当ですか!?」


「ああ。奴はみんなの居場所を確認する際、いちいち顔を露出しなければならない。肉に埋もれた状態では視覚、あるいは聴覚や嗅覚までも塞がれてしまうのだろう。機械ではなく、あくまで生物というやつだ」


「……なるほど」


 流石は学園きっての才女。

 ぱっと見ただけで弱点を把握するなんて……凄ぇ。


「なら話は早い。私達が囮になる。奴の顔が露出した時に、弥之君が狙撃すれば終わるだろう」


「はい! 幸い僕は標的外らしいので、その立場を利用してやります!」


「うむ、キミを信頼している……心から」


「え?」


「なんでもない、では――」


 唯織先輩は頬を染めて何か呟いたかと思うと、瞬時に雰囲気を変える。

 瞳の瞳孔が赤く染まり、戦闘モードに突入した。


「――お父様ぁ! これが娘として最後の親孝行ですぞぉ、ハハハーッ!!!」


 トリガーハッピーを発症させながら、二丁の短機関銃ウージーをぶっ放して突撃する、唯織先輩。


 これぞ武士の情けというべきか。

 今回ばかりは誰も止められないと思った。


 僕は狙撃M24ライフルを構え、光学照準器スコープを覗きチャンスを待つ。


「ちょい、離せっての!」


 勝彌は身体から触手のような肉腫を幾つも出現させ、動き回る彩花の足に絡ませる。

 しかし、香那恵さんの強化された神速レベルの抜刀術で触手群を両断し難を逃れ脱出した。


「みんなァ、出来るだけ離れて囲むように攻撃しろ! いずれチャンスが来るぞォォォ、ハァハハハーッ!」


 唯織先輩は発狂しながら的確な指示を送る。


「何か意図があるってのか? いいだろう! 皆、唯織の指示に従い、囲みながらの銃撃戦だ!」


 竜史郎さんの指示で全員が素早く散開し、勝彌を囲む形で配置についた。


 有栖はタイプが異なる二丁拳銃である、銀色の回転式拳銃コルトパイソン漆黒の自動拳銃ベレッタM92を巧みに素早く再装填リロードしながら射撃している。


 美玖は短機関銃を撃ちながら、弾切れしそうな仲間(主に唯織先輩)のところに行っては、ウサギのリュックから銃弾を渡すという本来の後方支援役に徹していた。


 彩花も回転式拳銃ニューナンブM60で応戦し、中々良い射撃センスを見せている。


 そして普段、銃を撃つことがない香那恵さんも小型自動拳銃コンパクトガンで銃撃戦を行っていた。

 竜史郎さん情報では彼女の銃の腕は絶望的だと聞いたことがある。

噂通りだった。

 香那恵さんが撃つ銃弾の殆どが、床とか天井とか意味不明なところに弾丸が当たっている。

 強化されても、そこは同じらしい。


 そして、僕は冷静クールにチャンスを待つ。


 標的を見失った勝彌が肉腫の壁から、顔を出した瞬間。



 ――ダァァァン!



 僕は引き金トリガーを絞り狙撃した。






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