第139話 夜崎家の謎と秘密
いきなり廻流から、実の父親の生存を聞かされた、美玖。
当然ながら酷く動揺している様子が伺える。
「わたしのお父さん? お兄ぃ、どういうこと?」
「ぼ、僕だってわからないよ……ただ父さんが違うのは覚えている。僕が4歳の頃、母さんが赤ちゃんの美玖を家に連れて来たんだ」
理由を聞いたって母の絵里は何も答えてくれなかった。
ただ今日から僕の妹であり、名前は「美玖」と告げたのみである。
無論、まだ12歳の美玖にだって絵里は告げてないだろう。
『そっ、美玖ちゃん。キミの本当の母親は
「「
絵里の昔からの知人であり、母が夜遊びしている間、よく幼い僕達の面倒を見てくれた女性だ。
確かに言われてみれば、美玖のこと特別可愛がっていた気がする。顔立ちもどこか美玖と似ていた。
それに絵里が姿を晦ませた後、独りでいる美玖を連れて一緒に避難しようとしていたよな。運悪く避難民達に紛れて離れ離れになってしまったようだけど。
待てよ。
「そうだ! 母さんは……絵里はどうしたんだ!? アンタ、僕が入院した直後に笠間病院で母と会っているんだろ!?」
『ああ、あの女のことか。復讐のため、オレを「西園寺
「なんだって!?」
母さんが復讐!? そのために廻流……いや、セイヤを売った!?
しかも西園寺 勝彌に対してだと!?
『弥之、お前が知らないのも無理はない。嘗てお前の父親である、「夜崎
「診療所? つまり医者だったってことか? 嘘だな、僕の父さんは工場を経営していたと聞くぞ!」
『そんなの、あの女の嘘っぱちだよ。オレ達の父親は損得勘定のない良心的で腕のいい町医者だった……嘗てオレ達が暮らしていた診療所も、あの笠間病院がある場所だ』
「え!?」
廻流の言葉に、僕を中心として誰もが驚く。
特に笠間病院と因縁深い、有栖と唯織先輩と香那恵さんは口元を押さえて絶句していた。
けど、僕が一番驚いたのはそこじゃなかった。
「オレ達が暮らしていたって……どういう意味なんだ?」
僕の問いに、廻流はフッと笑みを零す。
嘲笑うわけじゃなく、慈しむようなどこか懐かしい眼差しで。
『――もうわかっているだろ、弥之。オレは、お前の兄である「夜崎
廻流……いや、醒弥は名乗りを上げた。
「……せ、醒弥? ぼ、僕に兄がいたのか?」
『驚くのも無理はない。俺が家を出た時、お前はまだ1歳か2歳くらいだったからな』
「家を出た……どうして?」
『かれこれ17年前だ。西園寺 勝彌は自ら立ち上げた医療法人「西園会」を運営するため、薄汚い手段で俺達家族を不正な手段で無理矢理追い出し、父、
つまり潤輝の父親が、僕達家族を追い出したってのか。
父さんを自殺にまで追い込むなんて……なんだよ、それ……酷すぎるじゃないか。
『残された母親はお前を生んだ後、女手一つで幼いオレ達を育てようとしたが金銭的にも限界があった。当時、10歳のオレはワケありの児童として養護施設に入り、そこでの暮らしを余儀なくされる。しかし、三年後のある日転機が訪れた……唯織、なんだと思う?』
突然、醒弥に話を振られ、唯織先輩は酷く戸惑いを見せる。
彼女も実の父親が相当な悪事を働いていたのは既に理解しているけど、最も親愛し尊敬していた義理兄の思わぬ生い立ちに、最早思考が麻痺しているようだ。
でも唯織先輩は気持ちの強い才女だ。
ありったけの思索を巡らせ声を振り絞ろうとしている。
「……ほ、本物の廻流の死でしょうか?」
『流石は唯織、大正解だ。そっ、廻流が死にその穴埋めとして、勝彌はワケありで身寄りのない年相応の優秀な男子を探していた。その条件にあったのが、オレというわけだ』
「それで俺達が暮らしていた孤児院に移り、謎多き幻の男子となったわけか? 『西園寺 勝彌』の息子として、本来の姓を捨てるための準備期間として……か?」
『そういうことになるな、竜史郎』
「しかし、偶然にしては出来すぎたシンデレラストーリーじゃないか? 誰か裏で糸を引いていたのか?」
『ああ、そこにいる美玖ちゃんの父親である「
「な、なんだって? 美玖の父親が母さんを……」
『そうさ。絵里はその話を鵜呑みにし、西園寺家に破格の高額でオレを売った。親から酷い虐待を受けて、二度と家には戻れない哀れな子供だと偽った上でな……弥之、お前達が不自由なく暮らしていたのもそのおかげってわけさ』
それで絵里は常に金だけはあったのか……。
僕は幼い頃から何も気づかずそれらを受け入れ、何不自由なく陰キャぼっちの引き籠りになっていたんだ。
『当時のオレは絵里に言われたよ……「常に伴治さんに指示をもらいながら、西園寺 勝彌の決定的な不正を暴いてほしい」と。目的は「西園会」と日本最大の巨悪である西園寺 勝彌の失脚。つまりオレは西園寺財閥を内部から崩壊させるためのスパイだったわけだ」
「まさか、廻流お兄様が……」
『すまないな……唯織。しかし、勝彌も息子として迎えたオレが実は自分が潰して破滅に追い込んだ家族の息子だと知らなかったようだ。イコール、奴はそれだけあくどいことを沢山していたってことだが、
「それだけじゃない?」
僕が聞き返す。
醒弥は頷き、饒舌に舌を滑らせる。
『ああ、一つは全て笠間理事長の一存で行っていたこと。どうやらあの男は、父である
如何にも笠間潤輝の父親らしい、糞みたいな動機と理由じゃないか!
クソォッ! 親子揃って、有栖や唯織先輩だけでなく、僕の父さんと家族にまで……許せない!
僕が怒りを抑え奥歯を噛みしめる様子を、醒弥は微笑ましく見つめている。
何、笑ってんだよ、こいつ?
言っておくが、僕はお前のこと「兄」だなんて認めてないからな!
そんな僕の心境を無視し、醒弥は話を続けた。
『もう一つの理由は、後々で知ってしまったオレ達「夜崎家」への詫びも含まれていたらしい。オレを売った大金以外に定期的に絵里へ振り込んでいた金も、そういう意味があったと話していた』
「その口振り……近くに西園寺 勝彌はいるのか?」
『竜史郎、答える順番が違うぞ。まずは弟の弥之の問いに答えなければならない――絵里は今、オレの傍にいる』
「え!? 本当か!?」
『ああ、本当だ。貴重な研究素材でありサンプルだからな……」
「サンプル? どういう意味なんだ?」
『……生憎、会わせることはできないが、愚かな女の末路を見せてやる』
醒弥の隣で、別な立体映像が浮かび上がり映し出された。
幾つもの太いホースに繋がれた鋼鉄製の楕円形の物体。
大人一人が十分に入れる大きさのカプセルであり、卵型のオブジェにも見える。
「……な、なんだよ、それ?」
『簡単に言うと、冷凍保存装置――この中に、絵里はいる』
醒弥は指を鳴らすと、卵型のカプセルは上下に開かれる。
中から、もわっとした白い蒸気が煙のように溢れ吹き出されていく。
徐々に蒸気が薄れていくと同時に、そこに白装束を纏った誰かが眠るように横たわっている姿があった。
見覚えのある女性。
僕と美玖は愕然とし、自分の目を疑う。
――母である、夜崎 絵里の姿だった。
「「か、母さん!?」」
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