エピローグ

 ほどなくして、三星間連携協定を成立させて精力的に改革を主導するかぐや十五世のおかげで、三星は穏やかに明るくなった。地球やニューワールドは月の技術援助の影響で再生環境工学が発展し始めた。それに伴い新世界人の目は次第に地球に向くようになって、地球回帰派はマジョリティになった。一方の月は労働者の門徒を広く開いた影響で、若い人材が一気に流れ込んできた。労働力問題は徐々に回復し始めていた。

 これらは全てある思想の影響だと言っていい。加那が唱えた平和思想。それは地球に、ニューワールドに、月に分かりやすく標語として普及した。『人は皆わたしである。』他人という概念は存在しない。あなたという人と私という人が心の中で多様な混合比率で混ざり合ってそれぞれの自己を形成しているだけで、源流を辿れば皆混沌とした多重人格なのである。つまり微量であれど、皆私を内包するのだから、皆わたしなのである。だから世界中にいるわたしのために助け合って生きていきましょう。その思想は『世界人類一心同体論(ワンフレッシュセオリー)』として広く認められるようになった。私は私のためならば非情なことでも実行することができる。なぜなら私たちは極度に利己的であるから。でも、それなら逆に全人類がわたしであると考えればいい。人はわたしのためならばどこまでも優しくなれる。たとえ身体が違えどもわたしたちの心は一つであるので、わたしたちはわたしなのだ。全人類のあなた、もといわたしの幸せのために、わたしたちは一つ、一心同体であると考えよう。先導する加那、もといかぐや十五世はしばしば言う。

「あったかい。わたしたちは一つ。皆で一つなんだ。だから月は美しい」

 かぐや十五世は家族と共に小月(ライトムーン)を眺める。寄り添う三人の温かい幸せは永遠のごとく。媼と翁はそれを全身で噛みしめるように笑う。それは遠い過去に、遠い地球でかぐや一世が臨んだ結末だった。

了。

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竹取物語かな @kiriekou

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