2021/06/02:住まい。――――――――――――――――――――#自説
生きていくうえで必要な物を端的に表すなら「衣食住」である。このうち「住」について考える。
最も考えるべきは、仕事や学校といった日常の拠点としての機能だ。移動時間が毎日2時間あったとして、それは1日の8%ほど。しかし仕事を9時間、睡眠を8時間するなら、1日の71%はこれらに取られる。残りの29%の内の8%を移動時間に使って良いものだろうか。
移動時間の価値は、移動そのものに価値を見出せるかにある。
判りやすいのはドライブが好きな人だ。運転することを楽しめるなら、一時間運転するのも苦ではない。また、運転することで1日の調子が整う人もいるらしい。移動手段に価値を見出せると自由時間の3割を趣味に打ち込める訳だから、お得な特性だ。
電車で移動するならその間に本を読める。超過密な満員電車は考慮しない。読書でなくても、例えばゲームをしてもいい。とにかく無為に過ごさなけばいい。すると毎日2時間が趣味や勉強に割ける訳だから、有意義な時間だ。
つまり移動時間がもったいない、無駄にしている人とは、運転が好きでも無いのに運転している人と、電車の中でもできる趣味、行動が無い人である。そういう人は移動時間が短くなるように住まいを考えるべきだ。
通勤時間に限らず、趣味や買い物に要する移動時間も減らしたい。けれど仕事場はあんまり移動しない。なので、それぞれに掛かりそうな時間を考えて、総計を小さくするしかない。
時間面で「住」を考えたので、次は生活面で「住」を考えよう。
最も大事にしたいのは睡眠だ。たとえ家ですることが家事だけだったとしても、睡眠を何時間も取るのだから優先するべきだ。睡眠に必要な部屋の条件は音と室温だから、ぱっと見で判りづらいとしてもこの二つにはこだわりたい。あとは安心できることだ。虫が這い出てくると思って寝ると睡眠の質が悪くなる。
こんな考え方をしていると、部屋の広さは余り重要ではないことになる。一人で生活する分にはこれで良いけれど、二人以上だとパーソナルスペースという考え方を求められるので、広さを考慮しないといけない。二人の関係性にもよるけれど、できることなら自分の思い通りにできる部屋が欲しい。
あとは、その住まいに何年住み続けるのかを想定しておくといいかもしれない。5年だけ我慢して住むのか、特に何もなければ住み続けるのか。
もちろん金銭面で考える必要はある。けれど前述したような要件を整理してから物件を探すべきだ。月1万円で精神が豊かになるなら安い買いもの。いくらの金銭をつぎ込むか、最適な住まいの価値を再認識してから決定した方が最終的には豊かなのかもしれない。
――――――
昼休み、私の机には誰も寄り付かなかったのに、橘岬が前の席に座る。
「今日はなに?」
顔を上げずに返答する。応答は気付いている。
「貴女の小説を見付けたわ。」
「そう。」
「つれないわね。」
「……今日はなに?」
「感想を言いにきたの。」
想定された応答であった。彼女は机に肘をついて、宿題を片付ける私を眺めている。ちらりと盗み見た彼女は微笑んでいた。面白いものではないだろうに。
「貴女はこの時間、いつもは宿題をしていないのに、今日は違うのね。」
「わるい?」
「いいえ、休み時間の使い方は自由よ。」
「そう思うなら放っておいて。」
「言ったじゃないの、今日は感想を言いにきたの。」
彼女は姿勢を正した。膝に手をつき真面目な表情をする。
「正直、そんなに面白くなかったわ。」
想定された応答であった。それでもチクリと刺さる。
「現代ドラマに分類している割には誰が話しているか明確でないし、内容も毎日バラバラだから、物語にもなっていないわ。」
「……そうだね。」
「あら、知っていたのね。」
「それは、自分のことだから。」
「……ま、現代ドラマではなくて、エッセイとかだと思えば読めなくはないわ。」
針のむしろ。
「ねえ、ちゃんとストーリーのある作品を書こうとは思わないのかしら?」
「書くよ。」
「それはよかった。理屈だけつらつらと書いて、そのまま筆を置くみっともない人ではないのね。」
けなされたと感じたわけではないけれど、少し反抗したくなった。
「書かないよりは書いたほうが良い。」
「物語を書くこともそうよ。考えるよりしてみた方が理解できるものよ。」
「……。」
その通りだ。「書く」という行動はしているけれど、「小説を書く」ことを怠っていた。文章を簡単に書けるようになったなら、次に進むべきだろう。
「そうだね。物語も書きたいとおもう。」
なぜこんな宣言を橘岬に話さなければならないのか。
「……橘さんは、小説を書いたことがあるの?」
「あるわよ。新聞部に寄稿してるの。」
「……あれか。」
確かペンネームがあったけど、……まさか「ミサキ」?
「橘さんは自信家なの?」
「自信は無いわよ?」
「本名で寄稿してるのに?」
「だって隠す必要がないもの。」
これで自信が無いというのだから理解できない。彼女の私生活を私は知らないけれど、どういった環境で育てばこうなれるのか。
「貴女も500文字くらいの短編を書いたら寄稿できるわ。人が足りてないの。」
「……そう。考えとく。」
「ちなみに私は新聞部じゃないわ。ただの帰宅部よ。」
そう言い残して彼女は席を立って教室を出て行った。話をしたくないからと始めた私の宿題は、遅々として進まなかった。
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