2021/06/01:私は演技が得意。――――――――――――――――#創作論

 私は演技が得意ではない。でも小説を書くなら演技をしないといけない。ドラマの俳優とはちがって身体のすべてを演じる必要はないけれど、感情だったり思考回路だったり、自分という人格のほかに、登場人物を演技しなければならない。

 今日はそういった、物語に欠かせない要素について考える。


――二人の少女の会話――

A「私、出来ることと出来ないことがあると思うのよ。私に勉強なんて無理、教科書読んでるだけとかありえないし、役に立ったこと無いし。」

B「昨日観光客に道を聞かれてあわあわしていた光景は見ものだった。」

「貴女見てたの!?、助けてくれたっていいじゃない!」

「あれほど慌てている人に出会う確率は低い。逃す訳にはいかなかった。」

「あんたね……。」

「私が助けなければならないほどに困っている様子ではなかったから、私は観察に専念した。これ、その時の写真。」

「消しなさい!」

「嘘。本当は撮ってない。」

「本当でしょうね?」

「私は嘘をつかない。」

「……どの口が言ってるのよ。」


 こんな会話を書くうえで、私はこういった喋り方はしないし、こういった話をしない。つまりは演技をしている。

 とはいえ、喋り方を想像するのは案外簡単であったりする。感情に素直な少女Aと、感情が行動に出ない少女B。私はどちらかと言えば後者だけど、後者の彼女のように素直に話す事はできない。また、前者の彼女のように直情的に話すことはできないけど、発言の責任を軽く見て話すと似たような感じになるのだろう。

 こうやって、私を構成する要素の一部に彼女たちは存在している。つまり演技とは自身の一部を誇張することと表せる。


――二人の少年の会話――

A「お前、数学とか苦手なくせに英語つよいのずるいよなぁ。」

B「そうか?」

「それにテニスも上手いしさ、俺とは違うな。」

「確かに剛志は勉強が得意とは言えない。でもどの教科もそこそこ点数が取れている。卑下するほどではない。」

「そうはいっても、世の中評価されるのは一番の人間さ。」

「……そうなのか?」

「そうさ。スポーツ見てれば判るだろ?、優勝すれば金メダルをもらえるけれど、全ての競技で4位だとTVにも映らない。何か秀でていないと駄目な人間扱いさ。」

「4位でも凄いと思うが。」

「それはスポーツをやってる人間だからだよ。大抵の人間は勝者を衝動的に応援し、喜ぶ。他に誰がいるかなんて考えない。敗者の努力に価値を感じないのさ。」

「なるほど、考えもしなかった。剛志はそういうことを考えて喋っていたのか。とても面白い。」

「面白い?

 ……面白いなんて、初めてだ。

 ……いや、話したのが初めてなのか?、こんなこと喋らないしな。」

「俺は面白いと思う。剛志の話、考察とでもいうか、自分が考えていることを表現するのは難しい。俺だって、自分がいかなる人物で、いかなる目的で行動しているのか明確ではない。」

「そう?」

「そうだとも。」

「……俺は、俺のことを判ってるつもりだったけど、そうじゃないみたいだ。お前のことも判ってるつもりだったけど、理解してない事もあるんだな。」

「そうなのか?」

「そうだとも。」


 この会話の場合、私は幾つかの設定を元に会話を考えた。少年Aは論理性を持ち、口が達者である。ただ自分を大した事の無い人間だと感じ、諦めている。対して少年Bは幾らかの論理性を持っているがAほどではない。しかし自身に強固な軸を持ち、偏見もない。こういった設定を念頭において会話を書くことが、登場人物の性格を表現する為には必要だ。


 ではどうやって登場人物の性格を考えるか。

 第一に、ストーリーに必要な人材を書きだすことから始める。すると勇敢であるとか、楽観的であるとか、直情的であるとか、物語に必要な人材が判ってくる。

 第二に、登場人物の人数を考える。別の場所に同じ人を割り当てる訳にはいかないし、相反する性格を同じ人に割り当てる訳にはいかない。そうして必要となる最少人数を割り出す。登場人物は少なければ少ないほど書きやすい。


 ところで、これを読んでみて欲しい。

「君のことが大大大大大好きな100人の彼女(原作:中村力斗/作画:野澤ゆき子)」

 タイトル通り主人公の彼女が何人も出てくる物語である。さっき言った理論と反するようで反していない物語である。


 なぜ推奨するのかというと、この人数の登場人物全てを生かしたストーリーに感動したからである。登場人物を生かすとは、その登場人物が物語に必要であるということだとすれば、これほどの作品を見たことが無い。


 ハーレムものというジャンルはあるけれど、出会いを主軸に書く物語は駄作だ。ポケモンのように考えればいい。連れ歩くのは6匹だけど、図鑑を揃えるために初めて出会うポケモンは全て捕まえたい。伝説のポケモンはなおさら。捕まえたら二度と使われないポケモンと、ハーレムに加わったら二度と活躍しない彼女の、いったい何が違うのか。


 なぜこのようなことになるのか。端的にいえば、せっかく登場させた人物がそれ以降のストーリーに必須ではなかったからだ。ストーリーを作るための登場人物は、そのストーリーが終了した時点で不要となる。


 閑話休題。

 登場人物の考え方は凡そ述べたので、あとはこれを実際に登場させるだけだ。さきほど、自身の一部を誇張することで演技ができると述べた。よって、決定した性格を念頭に、自分の体験を想起して、ときには自分の思考回路を誘導して、登場人物の発言を書く。

 一人称視点の場合、主人公の性格を色濃く表現できるので主人公の思考回路の変遷をストーリーに組み込むと面白い。ただ会話の比率がどうしても主人公に偏るので、他の登場人物の思考が主人公に同調しないよう注意したい。


「初めから演技が得意な人なんていないわ。みんな努力してできるようになったの。

 もちろん途中でやめていった人もいるわ。そういう人たちの中には、私より演技が上手い人もいたけど、いまなら私の方が上手いと自信を持っているわ。」


「あなたはできないって決めつけてるけど、本当にできないの?、やってもいないのに?」


「どうせできない、どうせうまくない、どうせ舞台にも立てない。

 あなたがどれほど賢いか、わたしは知らないけど、あなたも演技のことを何も知らない。」


「何を知らないと思う?、判らないわよね。だってあなたはしたことが無いんだもの。」


「主人公になりたいなら!、主人公になる努力をしてから口を開きなさい!」


「こんな言葉も、行動して経験して、初めて身に染みるのよ。」


――――――


 熱い人、明るい人を書くのが苦手だ。なんせ私の個性と遠い。


「ねえ、いつもスマホで滅茶苦茶書き込んでるけど、なにしてるの?」


 話しかけてきた彼女の意図が判らない。私は彼女と話したことはないはずだ。私の机に座った人は数知れないけれど、話しかけた人は記憶にない。


「橘さん、私になにか用事?」


 判らないことは尋ねるしかない。机に腰かけた彼女を見上げる。


「いや、用事じゃないわ。なんか気になっただけ。」

「……そう。」


 小説を書いていることを話すべきか話さざるべきか。人間関係を構築する気が無いのでどちらでも一緒。なのに話すことを躊躇する。

 それでも、一度伏せた顔をもう一度上げる。


「誰にも教えないなら話してあげる。誰も知らないから、わたしと橘さんだけの秘密。」

「……それは面白そうね。いいわ、誰にも言わない。」

「小説を書いてるの。内容はつたないし、物語って感じじゃないけど、ただただ書いてるの。」


 素直に伝えた。ここで迷うと二度と趣味を打ち明けられないと焦燥した。根拠はない。彼女の目を直視できない。


「小説、……だからあれだけ打ってたのね。なるほどなるほど。」

「いわないでね。」

「もちろんよ。……それで、内容は?」

「教えない。」

「どうして?、誰かが読んでこそじゃない?」

「インターネットに放流してるから、誰かは読んでる。」

「WEB小説ね。どう検索したら出てくるかしら?」

「教えない。」

「けちね。」

「……カクヨム、現代ドラマ、毎日投稿。そのどれか。」

「ありがとう!、さっそく読んでみるわ!」


 そういって彼女はスマホを操作しながらに自席へと戻っていった。


「……なんなの。」


 先程まで彼女が腰かけていた自分の机を眺め、触って、とりとめのない感情を片付けようとする。話してしまった後悔、今後への不安、そして少しの期待を私は感じていた。


 これが「橘岬」との邂逅である。そして私の行動の記録である。

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