戦いが 下手な男の 行き帰り
急騰こっぱみじん
試作1 洞窟へ
丈の高い草が生い茂る平原、一般にアンジュー村と呼ばれる村落北部の平原を三人の男女が縦列をなして進んでいた。
今、彼らはある人物の頼みを受けて、この平原を超えた山、そのふもとにある洞窟へと向かっていた。
天候こそ好天で、村を出た直後は足取り軽くだったが、整備された村道はすぐに途絶え、あまり人の通わない地域で人間の身長ほどもある
丈の高い草や、勾配に富んだ地面が彼らの行く手を阻んでいた。
先頭を歩く黒髪の青年が草や葦をかきわけ、後背のために道を作っていくが、その顔には言い知れぬ不安が漂っている。
彼は腰に粗末な短剣を下げてこそいたが、鞘からして使い込まれた形跡がなく、体つきも戦士と呼ぶには程遠い一回の町民とでも呼ぶのがせいぜいで
顔つきと相まって一同の先陣を切るにはあまりにも頼りなげな印象の持ち主であった。
そんな彼に、最後尾を歩く逞しい体つきの男性剣士が呼びかける。
「リュート、やはり先頭を進むのは私のほうが適任じゃないだろうか?
お前が盗賊で、遠くまでが目が利くのは理解しているつもりだ。
それに盗賊はある程度目的地の見当がつけば、持ち前の第六感というやつが目的地に足が向いていくのも分かっている。
この世界じゃあお前たちみたいなのは、ほかの魔道士たちが使えない力を使役することも出来るのだって当然知ってる。
ただ、それも道が開ければの話だ。
前線に立つのは俺のような戦士と相場が決まってるし、単純に力仕事だって俺のほうが向いていると思うんだ。
もうふもとにはそう遠くないが……日の向きを考えるとぐずぐずしてられん」
リュートはかき分ける手を止め一瞬考えたのに、後ろに立つ少女の顔を見つ問いかけた。
「確かにフォリアの言う通りだ……ソーナ、すまないんだが一度フォリアと交代してほしい。
すぐに俺が後尾に回って君の背につく。」
ソーナ、そう呼ばれた少女は問いかけに対し顔色一つ変えず浅く頷くと、なんとかこれまでリュートの切り開いてきた狭隘な道を
フォリアと入れ替わるために苦労することとなった。
彼女のいでたちが動くのに適さない修道女のものだったことが苦労に拍車をかけてしまったが、なんとかフォリアと互い違いに入れ替わり彼女の次にリュートが続いた。
先頭に立ったフォリアが意気込んで得物の斧をふるいだすと、これまでとは打って変わってすんなりと障害物が消えていく。
「さすがに戦士ってところだ、この調子ならなんとか昼過ぎに洞窟につけそうだな。よろしく頼むぜ」
「おう、任せておきな!」
斧の一振りごとに草は薙ぎ払われていき、それに反してフォリアの意気を消沈していく。
(……俺が無理をするよりも、何事も得意な奴に任せるのが正しいってことか……
なんとなくわかっちゃいたけど)
そんなてソーナは「ありがとう」とつぶやくとこれまでのヒーローを気遣って
彼女は使役できる力を用い、この世界で言う回復魔法の力で二人の肉体に「癒し」を込めた、
「さあ、進みましょう…… ファルクスが私たちを待っているはずです。 彼が無事であることを祈りましょう」
格段に足取り軽く三人はふもとへと進んでいき、ソーナの回復も幸いして旅程のペースは勢いを増して進んでいった。
そして日がやや西へ傾いた頃、おおよそリュートの思惑と目星通りに三人はふもとの目的地である洞窟へとたどり着いた。
今、この洞窟にはさらにもう一人の仲間であるファルクスが単身中にいるはずなのだ。
だが、この洞窟はただのあなぐらではなく、下級とはいえ力ある悪魔の一種、ゴブリンの巣窟になっているのである。
「リュートよお、アイツはなんでこうも勝手に突っ込んでいくんだろうなあ……私には信じられんよ」
「あいつはな、足が速いうえになんでか血気にはやると、誰よりも先に動いていくやつだ。
それが持ち前っていうか、天性なんだろうさ!」
「お二人とも、声を潜めて……
いくらゴブリンが日の光を嫌うとはいえ、あまり騒ぐのは賢明じゃ……」
たしなめられたリュートは一転し声をひそめた
「そうだな…… そもそもファルクスがまだ生きてるとも限らないんだが……
これからはもう一度俺が先頭にさせてくれ……
やっぱり戦いは避けていきたい…… あの洞窟にゴブリンがどれだけいるかもわからないんだから……」
「おう、今度は私がしんがりになる。頼んだぜ、リーダー兼盗賊!」
戦いが 下手な男の 行き帰り 急騰こっぱみじん @080209
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