「月蝕楽園」北園陽

@Talkstand_bungeibu

第1話「月の影」

見渡す限り広がる灰色をした不毛な大地と頭上を覆う星空。そして、わたしの目の前に横たわる探査機の残骸。それはもう何世紀も前にこの地面に衝突し、故障したまま放置されていた。

探査機の本体は元がどのような形をしていたか想像することすら困難な姿になっていた。旧時代の遺物は朽ち果てようとしている。


その残骸を見つめていると突然、耳障りな警告音がセラミック製のブレスレットから聞こえた。

「ナンバー416088、制限区域外デノ滞在ハ10分以内ト定メラレテイマス。180秒以内ニ制限区域内ニ戻リナサイ。繰リ返シマス…」

そのブレスレットはわたしたちを管理、監視をするための生まれた時から死ぬまで外すことの許されない、言わば首輪のようなものだった。わたしには「アオイ」と認識番号416088という名前が与えられていた。

―エデン

それがわたしたち人類の暮らす月面都市の名だった。

ブレスレットの着用はエデンで暮らし続けるために必要な唯一のルールだった。

わたしたちが地球を捨て宇宙へ移住を始めてから凡そ七世紀以上が経とうとしている。地球は急激な海面上昇と砂漠化が進み人類が住める場所ではなくなっているとエデンの教育機関で教えられた。

ただ、わたしたちは本物の地球を見たことがない。エデンは月の裏側に建設された都市で地球は見えない。地球を見ようとするならばエデン市民の安全のために設けられた制限区域を出なければいけない。制限区域外での10分以上の滞在はエデンのルールに違反することを意味していた。写真で見せられる地球はどれも赤茶けていてかつての姿は見る影もない。

しかし、それは本当なのだろうか?エデンが何かを隠そうとしているような気がしてならない。


相変わらず警告音は鳴り続けている。ここで引き返せば違反にはならない。違反者がどうなるかは分からない。

それでも、わたしは真実を確かめたい。

「青い地球」があると信じてわたしは月の大地を駆け出していた。

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