第20話 小石を投げれば

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外では獣士達が巨獣アモンの進撃を止めていた。だが足止めというよりただの時間稼ぎでしかない、歩幅は半分に削れてはいるが着実に城へと近づいている現状は全員に焦りを与えた。セリザワもスーツからミサイルポッドを展開するが人間の兵器をもってしてもその歩みを妨げる事ができなかった。

「ダメだ! どんどん近づいている!?」

「そんな事を考えるだけ無駄よ!! 今できることをしなさい!!」

「このままの状況が続けば俺たちも無理だ。頼むぞ……レオン。」

マスター・リザードは城にいるレオン達に静かな願いを強く念じた。


同刻__城内__

ザクザクザクザク!

骨の棘が肉に刺さっていく音が城内で響く。全員が目を見開いたが、誰一人声を発さなかった。血が床にビタビタと落ちる音すらも聞こえる。

「………………ァ。」

最初に声を発したのはアンドラスだった。

小さい声で漏らしたその声は何かを言おうとする声だった。だがそれが上手く発声ができていないがそれも当然だ。なぜなら、骨の棘を大量に撃ち込まれたのは他でもなく、なのだから。

「アァ!! アアアア……!!」

「嗚呼。可哀想な奴だ。まさか本当に人の魂を悪魔に渡してしまうとは。」

アンドラスがうめく中、片方のキメラが出た穴から老人のような声が聞こえる。2人は唖然として声も出せずにいた。本当に何が起きたのかわからなかったのだ。

「レティ……ミラ……! どうしたというのだ!?」

アンドラスが胸部を抑えながら後退して離れた時、シロウとウィリアはキメラ達が出ていた穴から人影が現れた。シロウの方に見えるのはキャソックにロングコートを羽織った眼鏡の男、ウィリアの方に見えるのは小太りで着物袴の眼鏡をかけた男。シロウ達には聞き慣れない声だが、アンドラスだけは違った。

「この裏切り者共ーーーー!! コイツら一体何をした?!」

発狂したアンドラスの叫びが空気を震わせた。現れたのはセリザワ隊の義隆とオズウェルドだ。2人はアンドラスの無様な姿を見てただただ軽蔑した。

「お前が踏み躙ってきた想いを蘇らせただけだ。」

死肉レティと死肉ミアの背中にはボロボロの手紙がそれぞれ剣と矢で刺し止められていた。アンドラスはその紙を見た時怒りに身を任せ、サーベルで死肉レティとミラを斬りつけた。

「貴様ら……どこでこれを!?」

「舞台はどんなに大きな事が起きても、人物の運命は変わらない。」

「だが現実では些細な出来事が、人の運命を大きく変えるものだ。死に去った小さな希望は、神によって受け継がれるのだ。」

「ふざけるなァ!!」

アンドラスが飛ぼうと翼を広げた瞬間、死肉レティとミラが翼を掴んで動きを封じた。

「こんな……こんな結末があってたまるか!! 私がどれだけの時間を……どれだけの苦労をこのために費やしたと思っている!?」

「立て!! 合成人間キメラノイド!! お前達がこの戦いを終わらせろ。その高貴な魂で、気高き獣士の誇りで、父親怨敵の首を討ち取るのだ!!」

稲林の怒号に近い激励で瞳に光を取り戻し、武器を手に取り立ち上がり、それぞれ[気]を最大限に高める事ができた。シロウの体と根槍剣からは空色と薄紫のオーラが、ウィリアの体と長剣からは紅と白のオーラが溢れていた。覇気が2人から風邪を生みだしアンドラスを圧倒する。狙いはアンドラスただ一人、2本の剣先は今か今かと狙いを定めている。狩る準備は整っていた。

「「いけーーーーー!!!!」」

「止めろーーーーーー!!!!!!」

「「ハアアアアアァァァァァーーーーー!!!!!!!!」」

シロウとウィリアは雄叫びをあげ、全力疾走でアンドラスを斬りつけた。重く、深く、大きな一撃。奴の体の半分まで刃を通し、斬った導線は2人のオーラが光の道を作って残していた。その光から突然鉱石のようなものが生え出し、アンドラスの体にも無理やり体をつなげるように生え出した。

「こんな所で……私は!!」

「もう終わりだ。」

アンドラスの最期の言葉を聞く必要はない。そう言うかのようにシロウは言葉を遮った。

「「『フェンリル/ラビット・ウル=ワルツ』!!」」

2人の剣先がアンドラスの心臓を捕らえたその瞬間。アンドラスは鉱石と共に粉々に砕けた。

「(これが……運命なのか……。)」

アンドラスは死肉ミアとレティと共に砕けた。宙に浮いた3人の破片は塵のように跡形もなく消えた。2人の刃に付いた血も、塵になって消えたのだ。

シロウとウィリアは呆然と立ち尽くした。稲林とオズウェルドは勝利の瞬間を俯瞰していた。城内は沈黙が支配した。叫び声も、歓喜の声もない。ただただ城に空いた穴から入る風の音がその場に流れる唯一の音だった。

 さようなら。

これが2人の頭の中に浮かんだたった一つのだった。意味もなく血振りをした。綺麗な刃から出たのは剣の空を切る音だけ。2人の表情に光が灯ることはなかった。その時、オズウェルドはアンドラスがいた場所に十字架の剣を2本投げつけた。

「Amen.」

オズウェルドはその一言だけを口にすると、稲林と共にレオン達が破った壁の穴に向かった。オズウェルドは2人を呼ぼうと向かおうとした所を稲林によってられた。稲林は黙って敷くかに首を横に振った。

「こう言うのは俺たち他人が邪魔していいものじゃない。」

静かにそう言うと、オズウェルドは何も言わず稲林と共に穴から外に出た。残されたのは全身ボロボロになったシロウとウィリア。まだ呆然と立ち尽くして突き立てられた剣2本を眺めている。

「これで全部終わったね。シロウ。」

先に口を開き沈黙を破ったのはウィリアだった。声は安心感からか高くなっている。だがシロウは何も返さずに、歩いてオズウェルドの後を追った

「まだだ……後一つ残ってる。」

シロウの目は赤く染まっていた。

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巨獣アモンの雄叫びの大きさから2人は大分近づいている事がわかった。外に出ると見上げる巨体が首を上に向けないと見えないほどになっていた。獣士全員とセリザワ隊の2つの力をもってしても止められないと言うことに絶望した。これ以上に勝つ算段がないと言う証明を見せられているからだ。

「こんなのって……。」

「あんな奴を……どうやって……!!」

2人が絶望した瞬間

ドーーーン!

城の上の方から大きな爆発音が聞こえた。その後巨獣アモンの顔が爆発したのだ。

「オッシャー! クリーンヒット〜!」

聞き慣れた陽気な声を皮切りに次々と爆発音が響き、アモンの体が爆発していく。上に上がるとワイバーンと共に、シルベスター、レオン、サバージが大砲を使ってアモンに攻撃をしていた。

「レオンさん。これって一体……。」

「オズウェルドから聞いた。2人共よく勝ってきた。」

レオンはそう言いながら近づき2人を抱き締める。

「マスター・エイジからの指示で奴を封印することになった。体力をもう少し削る事ができればそれができるとのことだ。」

「そこでさっきボクたちが見つけたこの大砲を、せっかくだから使っちゃおうって事で今こうしてるの。」

「これなら威力も高いし、砲台もたくさんあるから効率的だしニャ。」

「何よりオイラ達狙われないしね!」

4人が懸命に大砲の弾を運んでは撃つという作業に2人も後に続いた。そして遂にその時が来た。

「皆さん。行きますよ!」

マスター・エイジは掛け声と共に高く飛び上がり地面を勢いよく叩いた。地面に魔法陣が広がり巨獣アモンの周りは黄金色のオーラで囲まれる。

「あれって……。」

「マスター・エイジの[気]だ。」

「すごい……あんな巨大なものを封印できるなんて。」

「いつ見てもマスター・エイジには敵わないと思わされるニャ。」

シロウとウィリアはエイジの凄さを目の当たりにして驚き入ていた。

「『獣術式極限封印術・黄金卿=無間復楽園』!」

光は強くなりアモンの姿が見えなくなる。地団駄を踏んでどうにかして出ようと暴れるがエイジはそれを抑えた。光の壁は徐々に狭くなり動きを制限していていく。

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アモンの巨大な断末魔が響き、近くにいた獣士全員耳を塞いだ。アモンの下に描かれた魔法陣は徐々に上り、アモンの姿を光と共に飲み込んでいった。そして何もかもが消えてなくなった。術を完成させたエイジの息は流石に上がっており、玉の汗もかいていた。

「「マスター・エイジ!!」」

獣士達は次々マスター・エイジの元へ駆けつける。だがその不安を宥めるようにエイジは手を上にあげた。

「私は大丈夫です。それより、鳥類の獣人ビースト達は城にいる6人を助けに向かってください。結界が崩れます。」

「わかりました、行くぞ!!」

「「はい!!」」

マスター・イーグルを先頭に鳥類の獣人ビースト達は飛んでいった。エイジの言葉通り結界が崩れ始めた。黒い粒子が空へと登り、草は本来の色を、暗かった空が青さを取り戻して光が差すようになった。一方シロウ達は、地鳴りと共に揺れる城の中で脱出方法を考えていた。

「まずいよ! レオン! 城が崩れる!!」

「飛び降りれるか?」

「流石に一回でこの高さは無理だニャ。」

「……みんな! あれ見て!!」

ウィリアが指差した先にはマスター・イーグル率いる鳥の獣人ビーストが飛んできた。

「イーグル!!」

「迎えに来た! 俺たちに捕まれ!!」

そのままシロウ達はそれぞれの足に捕まり、崩れる城を脱出した。






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シロウ・バース〜Lead 0〜 夢田雄記 @yumedayuki

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