第19話 大きな悲劇

「「ハアアアアアァァァァーーーー!!」」

 レオン達4人が勝利した時、城内の戦いは未だに白熱していた。薄暗い城の中で2人の雄叫びが響く。明度が異なる紫2色と赤い光跡が3本、生き物のように動き回り至る所で閃光が弾ける。死肉ヤタと死肉キュウビが出てきた穴の中からキメラが次々と湧いて出る。ウィリアとシロウはさまざまな属色の技を使いながら、キメラを捌く。それと並行するアンドラスとの戦闘は、他の4人の戦いより常軌を逸していた。だが死肉キュウビと死肉ヤタが出てきた穴から湧き出るキメラの数が徐々に減っているのは確かだった。

「さぁどうする? このまま続けてたら、お前らの体力が先に尽きるぞ?」

 息を切らす2人にアンドラスは冷笑を浮かべながら言う。翼がある分長時間空中に留まる事ができ、方向転換も自由自在。シロウの棍槍剣から放たれる銃弾を華麗に避けて、2人の挑発に拍車をかけていく。

「どうにかしてアイツを引きずり下ろさないと。」

「むやみに撃ってもしょうがないよ。」

 2人共、特にシロウは苛立ちを露わにしていたが、それ以上に焦っていた。ヤツの言う通りこのままこの状況が続けばシロウ達がへばってしまう。いくら兎とフェンリルの力を持っている2人だとしても、跳び続けながらの戦闘はかなりの体力を消耗するのだ。

「シロウ君。」

「大丈夫、わかってる……考えてることは同じだと思う。」

「数秒、一瞬でもいい、アイツの動きを止めるよ!!」

「そんな事、お前達ができるのか?」

「私たちが2人だけだと思わないで!!」

 シロウは札を取り出し、ウィリアと同じように剣を横一線に振った。

妖焔ようえん千疋狼せんびきおおかみ》!!」

稲妻刃イナバ白兎シロウサギ!!」

 紫の炎を纏う狼と白く光る兎が無数に現れてアンドラスめがけて向かっていく。それを阻止しようと向かうキメラは感電や燃えて倒れていく。空中を走れる狼と、直線移動が速い兎は逃げる範囲を徐々に狭めていく。

「(これなら……行ける!!)」

 ウィリアの刀身は黄色く、シロウの刀身は緑色に光りアンドラスを狙う。

「風撃……」

「雷撃……」

 2人がすぐさま次の獣術を出そうとした直後

 パァン! ドカン!

 アンドラスを追い詰めていた兎と狼が次々弾けていく。突然の出来事に2人は唖然とした。笑いをこぼすのを聞いた2人がアンドラスを見ると、彼は思い通りだっかたのように笑みを浮かべていた。

「キメラの数が減っているから当たると思っていたのだろう? 『今なら捕まえられる』と……だが甘いな。城内ここにいる限り私の手札が切れることはない。」

 キメラ達の大きな足音とは打って変わり、ヒタヒタと冷たく湿った音が響く。狼の残り火と兎が弾ける際に放たれる光で見えたものに2人は戦慄した。辺りにあったキメラの死体が全て骨だけの姿に変わり果て、先ほどのオルガンを弾いていた骸骨に肉が付き人型のゾンビになっていた。死肉キュウビ・ヤタのようなもので、なんらかの方法で肉を取り込んだのだろう。唯一、手のひらから出ている骨の棘を飛ばして狼達を撃ち落としているのは分かった。

「キメラの数が予想より減っていたから少々焦ってはいたが、結局は届かなかったな。2人をやれ。」

合図で2体はシロウたちに攻撃を仕掛ける。その時手から生えていた骨の棘が伸び、剣に変化した。剣で受けた瞬間2人は一撃の違いを感じた。アンドラスより速く重い、2人は避けることに専念したがアンドラスの滑空攻撃を避けることはできず、蹴り飛ばされ壁に打ち付けられた。強い衝撃で2人の視界がぼやける。体力の限界も薄々気づいていた。

「まさか……私たちが倒したキメラって……。」

「媒介だよ。取り込むほど強くなる、それがだ。」

 絶望が2人を襲う。突然聞かされた言葉に疑いを持つことはしなかった。ヤツならやりかねない、そう思っていたからだ。だがそれでも動揺するものだ。今2人を殺しにかかっているのが実の両親という状況に。

「私が獣人きさまらを滅ぼすためにどれだけこの戦いに備えたと思う? お前らを調べるためにどれだけのしかばねを積み上げたたと思う?」

「それは……どう言う……」

「君たちが破壊した人間界の研究所、我々が切り刻んだ獣人ビーストたち。全てはこの戦いに勝利するためだ!!」

 羽を飛ばして2人の脇腹に刺す。きれいに貫通し血は流れなかったが、2人の痛みはは尋常ではなかった。アンドラスが着地して、2人にゆっくりと迫ってくる。

「無駄な屍も積み上げたが、全てはこの瞬間のためだ。」

 シロウとウィリアに刺さった羽を強く押し込み苦痛を与えていく。2人の苦悶の表情と声をアンドラスは嬉々として眺めていた。羽を勢いよく引き抜くと、返しが内臓を抉った。激痛からでた2人が悲鳴が城内を響かせる。

「いい音だ。私がここを好むのは、こうして悲鳴や絶望の叫びがよく響くからだよ。元々劇場だったんだ。」

 今にも気を失いそうな2人が聞いているとも思っていないが、アンドラスは最後の言葉のように言うとサーベルを高く掲げた。これで終わる。2人の頭に浮かんだのはこの言葉だった。やはり子は親に逆らえないものだったのだと最期になって思い知らされる。ゾンビ達も2人の前に手を伸ばし狙いを定めた。

「さて幕引きだ。の勝利で、この戦いと……獣人ビーストの歴史が終わる。」

 シロウとウィリアの目に灯る火は消え、輝きを失っていた。顔はアンドラスの方を向いているが、実際はぼやけていてハッキリとした認識ができない。朦朧とする意識の中、必死に腕を動かした。だが武器がある方とは反対の手を動かしていた。互いの指先が触れた時、お互いに強く手を握った。アンドラスはゴミを見るような目で2人の動きを眺めていた。

「下らないな。そんなモノ、華々しく散るなんてことはない……今は舞台でも劇でもなんでもない……これが現実だ。」

 ザクザクザク!

 アンドラスがサーベルを振り下ろすのを合図に、無数の骨の棘が肉に突き刺さった。その旋律には少し乱れがあったが……城の中には相変わらず響き渡っていた。










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