RTAごんぎつね

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RTAごんぎつね

【一】

This is a story I heard from an old man in my village, Mohei, when I was a little kid.

(これは、私が小さいときに、村の茂兵というおじいさんからきいたお話です。)


Once upon a time, there was a small castle in a place called Nakayama near my village. A king by the name of Nakayama-sama lived in the castle.

(むかしは、私たちの村のちかくの、中山というところに小さなお城があって、中山さまというおとのさまがおられたそうです。)


A short distance away from Nakayama lived a fox named "Gon the Fox."

(その中山から、少しはなれた山の中に、「ごんぎつね」というきつねがいました。)


※現状でAny%での最速の言語設定である英語が選択されている。以下は日本語訳。



 ごんは、ひとりぼっちの小ぎつねで、しだのいっぱい茂った森の中に穴を掘って住んでいました。そして、夜でも昼でも、あたりの村へ出ていって、いたずらばかりしました。畑へ入って芋を掘り散らしたり、菜種がらの干してあるのへ火をつけたり、百姓家の裏手に吊るしてあるとんがらしをむしり取っていったり、子どもにかみついたり、産みたてのたまごを踏みつぶしたり、井戸にフンをして人にエキノコックスを感染させたり、いろんなことをしました。

 芋が復活する時間や、菜種がらやとんがらしが干される時間、それから芋ばたけや民家の位置を、ごんはしっかりからだに覚えこませていました。かんぺきな最短経路をたどって、効率よくいたずらをしていました。




【二】

 ごんは、山の動物たちを根こそぎ殺戮しました。手始めに、山の主、巨大いのししを殺しにいきました。

 巨大いのししの周りには、小さなうり坊が3頭いました。うり坊をたおすと、巨大いのししは、激怒モードになって攻撃力が18倍、素早さが3倍になります。たたかいが、とても不利になりました。ふつうは、巨大いのししを先にたおし、後からうり坊をたおします。けれども、ごんは、RTAの中でいのちを削っていました。激怒モードで巨大いのししは、攻撃力と素早さが上がりますが、防御力は3割まで下がります。うり坊を先にたおし、巨大いのししの防御力を下げることで、ごんは、たたかいの時間を短くしました。

「ああ、たまらないや。」

 一撃でも喰らえば即死の、ぎりぎりに生きる快楽に、ひとりぼっちの小ぎつね、ゴン・ザ・フォックスのからだはふるえました。


 うり坊はからだが小さく、攻撃を当てづらいのが難点ですが、攻撃パターンそのものは単調なので、冷静にかみ殺していきました。ごんは、微妙な位置調整をくり返しながら、最後の3頭目のうり坊をたおした瞬間に、地面の草へ「火をつける」をしました。

「ははあ、ここだな。うまくいった。」と、ごんは言って、安心したような顔をしました。

 うり坊が全滅した瞬間、いのしし咆哮ムービーが入りました。ムービー開始時に、位置が自動的にリセットされ、ちょうどごんが火をつけた位置にいのししが移動しました。ムービー中もダメージ判定があるため、いのししは咆哮しながら火ダメージを受け続け、壊れたおもちゃのようにがくがく震えました。いのししの当たり判定と火の位置は2ピクセルのずれしか許されず、また最後のうり坊が倒れてからムービー開始まで3フレームしかありませんでしたが、ごんは完璧に成功させました。

 ムービーが終わった直後、巨大いのししはいきなり死にました。


 それから、ごんは、さるや鳥など、こまごました山の動物たちを、あいた時間に殺戮していきました。




【三】

 ごんは、夜になると兵十の家の壁に、めり込んでいました。

 夜になると村の家々の戸口は閉まり、入れなくなりました。けれど壁抜けグリッチを利用することで、ごんは兵十の家に入り込んでいました。

「こおん、こおん、こ、こ、こ、こおおおおおおお」

 ダッシュ、ダッシュ解除、遠吠え、体かたむけ、とタイミングよくくり出すことで、ほんの一瞬、当たり判定の位置と実際のからだの位置にずれが生じました。すぐにずれは解消されますが、このとき壁に接触していると、壁の反発力の影響を受けずに向うがわに、行くことができました。

 兵十は、おっかあと二人ぐらしでした。二人とも、もう眠っていました。ごんは二人を起こさないように、しのび足で兵十のおっかあのそばへ近寄りました。

 ごんは、兵十のおっかあのわき腹に頭突きしました。

「おぁあ~っ!」

「おっかあ!」

 おっかあは痛みにうめき、兵十は飛びおきました。ごんは素早く身をかくしました。ここで見つかると、火縄銃でうち殺されます。

 ごんは、兵十とおっかあが再び寝入るまでじっと息をひそめて待って、また壁にめり込んでいきました。

「こ、こ、こ、こおおおおおおお」

 ごんはじわじわ壁に染み込んで、兵十の家を出ていきました。


 ごんは、毎日とてもいそがしく過ごしました。

 いたずらの合間に、栗や松茸をあつめました。穴のなかにあつめた栗は、ほうっておくと動物に食べられてしまうので、動物たちを殺しまわりました。里と山を一日になんども行き来しました。夜になると兵十の家へ入り込んで、おっかあを頭突きしました。

「おぁあ~っ!」

「おっかあ!」

 四日間、ごんは、眠るまもなく動きつづけました。




【四】

 ある秋のことでした。2、3日雨がふりつづいたその間、ごんは、外へも出られなくて穴の中にしゃがんでいました。いたずらの実績が、一定以上に達したので、大雨イベントが無事に始まりました。

 雨があがると、ごんは、ほっとして穴からはい出ました。空はからっと晴れていて、もずの声がきんきん、ひびいているはずでしたが、森の動物をみな殺しにしていたので、無音でした。


 雨あがりと同時に、魚ゾーン(うおぞーん)の使用が解禁されました。ごんは、小川の堤まで出て来ることになっていますが、無視して村の中へ一目散にかけていきました。そして子どもを見つけて、いきなり飛びつき、子どもの頭を踏みつけました。子どもにぶつかると、ごんは、時速180kmでどこかへとんでいきました。あたりの、すすきの穂には、まだ雨のしずくが光っていました。

 魚ゾーンは、気力をつかうかわりに、時間の進むはやさがゆっくりになります。時間のはやさは20分の1になりますが、ごんが受ける反動の大きさはそのままなので、魚ゾーン中に反動が発生する対象にぶつかると、通常の20倍の反動を受けました。人間や動物にぶつかると反動がおきますが、手ごろな動物はみな殺しにしたので、いませんでした。人間も、大人は大きすぎるので、子どもを踏みつけました。


 時速180kmで空をとぶ小ぎつね、ごんは、小川の上流の、うなぎがたくさんいる場所へぴったり着地しました。魚ゾーンをつかった大ジャンプは、子どもの頭をふむわずかな位置のちがいで、とぶ方向がまったく変わってしまいます。手前をふめば手前に、真上をふめば真上に、奥をふめば奥へとんでいきます。ごんは、動きまわる子どもの頭を、きわめて正確にふみ抜いたのでした。

 川は、いつもは水が少ないのですが、三日もの雨で、水がどっとましていました。ただのときは水につかることのない、川べりのすすきや萩の株が、黄色くにごった水に横だおしになって、もまれています。


 ごんは、にごった水の中に、あたまをつっこみました。すぐに顔をあげると、ごんは太いうなぎをくわえていました。ごんは、うなぎを、ぽいと草の中へほうりました。ごんはそうして、うなぎをぽいぽいつかまえました。にごって水の中はまったく見えませんでしたが、ごんは、うなぎがどこにいるかをまるで「最初から知っている」ようでした。

 魚ゾーンは、すばやくおよぎまわる魚をつかまえたり、にがしたりする時に、ごんが集中することで、時間の流れがおそくなるという能力でした。しかしごんは、魚ゾーンをまったく使わずに、うなぎの姿がまるで見えない状態のまま、完璧に動きを読んで、つかまえていました。


 うなぎを5ひきくわえて、ごんは山に向かってかけだしました。山のふもとで男の子がひとり、遊んでいました。この日、この時間のこの場所に、男の子がいることを、ごんは「最初から知って」いました。男の子は、太いなわのような、黒と白のぬめぬめした何かが、からみ合いながらかたまりになって、じぶんに向かってもうぜんと突っ込んでくるのを見て、恐怖しました。おしっこが、きらきらと光って、ももをつたわりました。

 目の前までかたまりがせまったかと思うと、ふいにとび上がり、とびかかってきました。頭にぶつかったかたまりは、いきなり、時速180kmでとび去っていきました。男の子はぼうぜんと、そのかたまりを見つめていました。




【五】

 空をとびながら、ふと見おろすと、川の中に人がいて、何かやっています。

「兵十だな」と、ごんは思いました。もちろんそこに兵十がいることを知っていて、このコースをとんでいました。兵十はぼろぼろの黒いきものをまくし上げて、腰のところまで水にひたりながら、魚をとる、はりきりという、網をゆすぶっていました。はちまきをした顔の横っちょうに、まるい萩の葉が一まい、大きなほくろみたいにへばりついていました。

 ごんは、空中でうなぎを放しました。兵十のいるところから、すこし上流で、うなぎは「とぼん、とぼん」と音をたてて、にごった水の中へもぐりこみました。ごんは、見つからないように、草の深いところへ着地し、そこからじっとのぞいてみました。

 しばらくすると、兵十は、はりきり網の一ばんうしろの、袋のようになったところを、水の中からもちあげました。その中には、芝の根や、草の葉や、くさった木ぎれなどが、ごちゃごちゃはいっていましたが、でもところどころ、白いものがきらきら光っています。それは、太いうなぎの腹や、大きなきすの腹でした。

 きすは、簡単にとれましたが、うなぎはこの場所にはあまりいませんでした。兵十がうなぎをとれるまで待つには、時間がかかったので、ごんは自分でうなぎをとってきてやったのでした。兵十は、びくの中へ、そのうなぎやきすをごみと一緒にぶちこみました。そして、また、袋の口をしばって、水の中へ入れました。


 兵十はそれから、びくをもって川から上がりびくを土手においといて、何をさがしにか、川上の方へかけていきました。

 兵十がいなくなると、ごんは、ぴょいと草の中からとび出して、びくのそばへかけつけました。ちょいと、いたずらがしたくなったのです。ごんはびくの中の魚をつかみ出しては、はりきり網のかかっているところより下手の川の中を目がけて、ぽんぽんなげこみました。

 一ばんしまいに、太いうなぎをつかみにかかりましたが、何しろぬるぬるとすべりぬけるので、手ではつかめません。ごんはじれったくなって、頭をびくの中につッこんで、うなぎの頭を口にくわえました。うなぎは、キュッと言ってごんの首へまきつきました。

 ここまでごんの手ぎわが、あまりによいため、兵十を待つ時間が、できてしまいました。ごんは意味もなく、まわりの草に火をつけたり、ちょっと鳴いてみたり、10秒ほど時間をつぶしていました。

「うわアぬすと狐め」と、兵十がようやくどなりたてました。ごんは、びっくりした風でとびあがりました。うなぎをふりすててにげようとする素振りをいちおう見せましたが、うなぎは、ごんの首にまきついたままはなれません。ごんはそのまま横っとびにとび出して一生けんめいに、にげていきました。途中、子どもがいたので、とんでいきました。

 ほら穴の近くの、はんの木の下でふりかえって見ましたが、兵十は追っかけては来ませんでした。180km/hで飛行する小ぎつねを、追いかけられる人間はいません。

 ごんは、ほっとして、うなぎの頭をかみくだき、やっとはずして穴のそとの、草の葉の上にのせておきました。




【六】

 うなぎ奪取イベントをこなして、ごんは、大急ぎで村へ向かいました。弥助というお百姓の家の裏を通りかかりますと、そこの、いちじくの木のかげで、弥助の家内が、おはぐろをつけていました。鍛冶屋の新兵衛の家のうらを通ると、新兵衛の家内が髪をすいていました。ごんは、

「ふふん、村に何かあるんだな」と、思いました。「何か」もなにも、兵十のおっかあが死んだに決まっています。ほんとうなら、10日たたないと、おっかあ葬式イベントは発生しません。大雨イベントの前に、おっかあを毎夜攻撃し、死ぬぎりぎりまで弱らせた、調整のたまものでした。


「何なんだろう、秋祭かな。祭なら、太鼓や笛の音がしそうなものだ。それに第一、お宮にのぼりが立つはずだが」

 こんな白々しいことを考えながらやって来ますと、いつの間にか、表に赤い井戸のある、兵十の家の前へ来ました。その小さな、こわれかけた家の中には、大勢の人があつまっていました。よそいきの着物を着て、腰に手拭いをさげたりした女たちが、表のかまどで火をたいています。大きな鍋の中では、何かぐずぐず煮えていました。

「ああ、葬式だ」と、ごんは思いました。

「兵十の家のだれが死んだんだろう」

 だれも何も、おっかあです。


 お午がすぎると、ごんは、村の墓地へ行って、六地蔵さんのかげにかくれていました。いいお天気で、遠く向うには、お城の屋根瓦が光っています。墓地には、ひがん花が、赤い布きれのようにさきつづいていました。と、村の方から、カーン、カーン、と、鐘が鳴って来ました。葬式の出る合図です。

 やがて、白い着物を着た葬列のものたちがやって来るのがちらちら見えはじめました。話声も近くなりました。葬列は墓地へはいって来ました。人々が通ったあとには、ひがん花が、ふみおられていました。

 ごんはのびあがって見ました。兵十が、白いかみしもをつけて、位牌をささげています。いつもは、赤いさつま芋みたいな元気のいい顔が、きょうは何だかしおれていました。

「ははん、死んだのは兵十のおっかあだ」

 ごんはそう思いながら、頭をひっこめました。


 その晩、ごんは、穴の中で考えました。

「兵十のおっかあは、床についていて、うなぎが食べたいと言ったにちがいない。それで兵十がはりきり網をもち出したんだ。ところが、わしがいたずらをして、うなぎをとって来てしまった。だから兵十は、おっかあにうなぎを食べさせることができなかった。そのままおっかあは、死んじゃったにちがいない。ああ、うなぎが食べたい、うなぎが食べたいとおもいながら、死んだんだろう。」

 うなぎをつかまえて、兵十のそばに放流してやり、兵十に無事うなぎをつかまえさせたら、今度はそれを奪って逃げたのは、ごんでした。おっかあの死期をはやめたのも、ごんでした。

「ちょッ、あんないたずらをしなけりゃよかった。」




【七】

 兵十が、赤い井戸のところで、麦をといでいました。

 兵十は今まで、おっかあと二人きりで、貧しいくらしをしていたもので、おっかあが死んでしまっては、もう一人ぼっちでした。

「おれと同じ一人ぼっちの兵十か」

 こちらの物置の後ろから見ていたごんは、そう思いました。

 これがつぐないの解除条件でした。


 ごんはまっしぐらに弥助の家へ向かいます。

「いわしのやすうりだアい。いきのいいいわしだアい」

 いわし売りはまだ弥助の家まで来ていませんでした。ほんとうは、いわし売りの声を聞いて、向かうのですが、先にきたので、いわし売りを待つあいだ、近くにいた子どもに噛みつくなどして、ごんは時間をつぶしました。


 ようやくいわし売りがきて、弥助のおかみさんが、裏戸口から、

「いわしをおくれ。」と言いました。いわし売りは、いわしのかごをつんだ車を、道ばたにおいて、ぴかぴか光るいわしを両手でつかんで、弥助の家の中へもってはいりました。ごんはそのすきまに、かごの中から、五、六ぴきのいわしをつかみ出して、さっきひまつぶしに噛みついていた子どもを使って、180km/hで兵十の家まで飛んでいきました。

 そして、兵十の家の裏口から、家の中へいわしを投げこんで、穴へ向かってかけもどりました。途中の坂の上でふりかえって見ますと、兵十がまだ、井戸のところで麦をといでいるのが小さく見えました。

 ごんは、うなぎのつぐないに、まず一つ、いいことをしたと思いました。


 つぎの日には、ごんは大雨のまえに、穴のなかにためていた栗をどっさりかかえて、兵十の家へいきました。裏口からのぞいて見ますと、兵十は、午飯をたべかけて、茶椀をもったまま、ぼんやりと考えこんでいました。へんなことには兵十の頬っぺたに、かすり傷がついています。どうしたんだろうと、ごんが思っていますと、兵十がひとりごとをいいました。

「一たいだれが、いわしなんかをおれの家へほうりこんでいったんだろう。おかげでおれは、盗人と思われて、いわし屋のやつに、ひどい目にあわされた」と、ぶつぶつ言っています。

 兵十がいわし屋にぶん殴られたことで、つぐないアイテムとして栗や松茸が解禁になりました。まずはそっと物置の方へまわってその入口に、栗をおいてかえりました。


 6時間でつぐない実績が消化されるため、ごんはきっちり6時間おきに栗や松茸を兵十の家に届けました。絶対に姿を兵十に見つからないように気をつけました。この時点で見つかると、強制的に銃殺か撲殺されて、死亡エンドになってしまうからです。

 兵十の動きは、一見ランダムですが、他の村人の行動や、洗濯物の有無や、菜種がらやとんがらしの干してある数などによって、シード値を正確に推定でき、そこから兵十の次の動作パターンを特定することができました。

 ごんは、兵十の視界に入らず、音も立てないよう最新の注意を払って栗や松茸をおいてかえりました。栗リリースポイントである物置の入口に兵十がいても、シード値の特定で、完璧に兵十の動きを把握して、兵十の視界の外ぎりぎりを攻めることができました。ごんは、まるで兵十と二人で、踊りをおどっているようにも見えました。


 夜中は、さりぎわに兵十の家に体当たりをして、兵十を物置の前まで出して、栗を確認させました。そうしないと、実績が消化できなかったからです。兵十は、ひどい寝不足になりました。




【八】

 月のいい晩ではありませんでした。月のいい晩に発生するイベントでしたが、最速で実績を積みつづけたので、まだ新月でした。ごんは空をとんで、中山さまのお城の下を通ってすこしいくと、着地しました。細い道の向うから、だれか来るようです。話声が聞えます。チンチロリン、チンチロリンと松虫が鳴いています。


 ごんは、道の片がわにかくれて、じっとしていました。話声はだんだん近くなりました。それは、兵十と加助というお百姓でした。兵十は、ひどい寝不足で、ふらふらしていました。

「そうそう、なあ加助」と、兵十がいいました。

「ああん?」

「おれあ、このごろ、とてもふしぎなことがあるんだ」

「何が?」

「おっ母が死んでからは、だれだか知らんが、おれに栗や松茸なんかを、まいにちまいにち、日にいくども、くれるんだよ」

「ふうん、だれが?」

「それがわからんのだよ。夜中にも、わざわざおれを起こして、おいていくんだ」

 ごんは、ふたりのあとをつけていきました。

「ほんとかい?」

「ほんとだとも。うそと思うなら、あした見に来いよ。その栗を見せてやるよ」

「へえ、へんなこともあるもんだなア」

 それなり、二人はだまって歩いていきました。


 加助がひょいと、後ろを見ました。ごんは加助の視界のぎりぎり外で、意味もなく動きまわっていました。加助は、ごんには気がつかないで、そのままさっさとあるきました。吉兵衛というお百姓の家まで来ると、二人はそこへはいっていきました。ポンポンポンポンと木魚の音がしています。窓の障子にあかりがさしていて、大きな坊主頭がうつって動いていました。ごんは、

「おねんぶつがあるんだな」と思いながら井戸のそばにしゃがんでいました。しばらくすると、また三人ほど、人がつれだって吉兵衛の家へはいっていきました。お経を読む声がきこえて来ました。




【九】

 ごんは、おねんぶつがすむまで、井戸のそばにしゃがんだり立ったり、火をつけたり、意味もなく動きまわっていました。兵十と加助は、また一しょにかえっていきます。ごんは、二人の話をきこうと思って、ついていきました。兵十の影法師をふみふみいきました。

 お城の前まで来たとき、加助が言い出しました。

「さっきの話は、きっと、そりゃあ、神さまのしわざだぞ」

「えっ?」と、兵十はびっくりして、加助の顔を見ました。

「おれは、あれからずっと考えていたが、どうも、そりゃ、人間じゃない、神さまだ、神さまが、お前がたった一人になったのをあわれに思わっしゃって、いろんなものをめぐんで下さるんだよ」

「そうかなあ」

「そうだとも。だから、まいにち神さまにお礼を言うがいいよ」

「うん」

 ごんは、へえ、こいつはつまらないなとも、なんとも思いませんでした。おれが、栗や松たけを持っていってやるのに、そのおれにはお礼をいわないで、神さまにお礼をいうんじゃア、おれは、引き合わないなあ、などと思ったりはしませんでした。

 加助との会話が終わって、ひと晩がたつまでは、兵十に見つかると強制的に死んでしまうので、ここで話を聞いただけでした。




【十】

 そのあくる日もごんは、栗をもって、兵十の家へ出かけました。兵十は物置で縄をなっていました。それでごんは家の裏口から、こっそり中へはいりました。

 そのとき兵十は、ふと顔をあげました。ときつねが家の中へはいったではありませんか。こないだうなぎをぬすみやがったあのごんぎつねめが、またいたずらをしに来たな。

「ようし。」

 兵十は立ちあがって、納屋にかけてある火縄銃をとって、火薬をつめました。

 そして足音をしのばせてちかよって、いま戸口を出ようとするごんを、ドンと、うちました。

「魚ゾーン!!」

 ただちに魚ゾーンを発動し、20分の1で進む時間のなかで、ごんは、せいいっぱい小さなからだをよじりました。さいごのさいごまで来て、ここはほとんど運要素でした。兵十をとことん寝不足に追いこんできたのは、栗の実績を最速で積み上げるためだけではありません。95%超の命中率を、わずかでも下げるためでした。


 ごんがあわれに命をおとすことで、おわるはずの物語です。けれども、このRTAは、Any%ながらも生還エンドで達成しなければいけませんでした。だれが決めたのでもなく、ごんがそれを望んで、いどみつづけてきました。


 たまは、ごんの後ろ足を貫通しました。かわしきることはもとよりできませんでしたが、命はたすかりました。ほそい可能性の糸を、なんとかたぐり寄せました。ごんは地面に、ばたりと倒れました。

 兵十は、火縄銃をすてて、右手に包丁、左手に鎌をもって、ものすごいはやさで迫ってきました。ごんは後ろ足をひきずりながら、はね起きました。火縄銃のたまをよけるのに、気力をほぼつかいきっていました。包丁の突きがはいる瞬間に、この数秒で回復したわずかな気力をつかって、ごんは、魚ゾーンを発動して、ぎりぎりかわしました。皮膚がさけ、血がにじみました。

 兵十のたえまない攻撃を、一瞬だけ魚ゾーンを発動してかわし、気力をわずかに回復させ、またかわす。そのくりかえしで、しのいでいきます。巨大いのししとの戦いとは、くらべものにならないほどの、神経をすりへらす時間がつづきました。すこしでも判断をまちがえたり、動きをまちがえれば、即死でした。兵十に攻撃することはできません。


 ごんは、息つくまもない攻撃を、かろうじてかわしながら、少しずつ兵十の位置を誘導していました。戸口の近くに、栗がかためておいてありました。兵十は、栗を踏んでころびました。ごんも、体力と気力をつかいはたして、ばたりとたおれました。傷だらけでしたが、たしかに、生きています。

 兵十は、あおむけにたおれたまま、じっと空を見つめていました。手をのばしてもつかむもののないほど、深い秋晴れの空でした。

「ごん、お前だったのか。いつも栗をくれたのは」

 ごんは、ぐったりと目をつぶったまま、うなずきました。

 ごんがうなずいて、時間が止まりました。

 放火したり感染症を広めたり、いたずらの限りをつくしました。山の動物を死滅させ、兵十のおっかあを攻撃して死期をはやめました。そうしてたどり着いた、最速のしあわせな終わりでした。

 A wisp of blue smoke still rose from the gun on the ground. (青い煙が、まだ筒口から細く出ていました。)

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