太郎の恩返し

健さん

第1話

この日は、朝から、雨が、降っていた。俺は、子供と女房を乗せて運転していた。子供は、男の子でまだ1歳。名前は、”ハヤト”。時間は、夜の8時。今日は日曜日なので、女房の実家(家から、車で40分位の所)に行って遊びに行って、食事をした帰りだった。雨は、朝から、強く降っている。対向車の前照灯の光で、一瞬だったが、”ぬいぐるみ”みたいのが、見えた。俺は、車を脇に停めて、その、”ぬいぐるみ”のところに行った。しかし、それは、子犬だった。轢かれてしまったのか?恐る恐る見てみると、ケガは、していないようだ。可哀そうに、雨に濡れて、震えている。どうやら、息は、しているようだ。俺は、抱き抱えて、車の所に行き、車を拭くタオルで、拭いてやった。どうして、こんなところにいたのだろうか??前の飼い主に捨てられたのだろうか?それとも、親犬と、はぐれたか?すぐ家に帰り、この子犬と一緒に風呂に入って、暖めてやった。そして、風呂から、出て、温めたミルクを飲ませた。最初のうちは、飲む気がなく、ぐったりしていたが、促すと、そのうち、飲むようになって、少しずつ元気になってきた。多分、この犬は、雑種だろう。ちょうど、近いうち、柴犬でも飼うつもりでいたが、よく見ると、この子犬ちゃん、愛らしい顔をしている。”よし、何かの縁だ。飼うことにしよう!!”オスのようなので、名前は、太郎と、付けた。一軒家なので、庭もわりかし広い。日曜大工で、太郎の家を作った。朝、出勤前だが、俺が、散歩に連れていき、夕方は、女房が、連れていった。たまに、家の中に太郎を入れていると、俺が、車で帰宅するや否や、玄関前で、待っていて、しっぽを、これでもか!という感じで振りながら、抱きついてくる。本当に、可愛いヤツだ。それから、5年の歳月が、過ぎた。息子のハヤトは、6歳。小学校1年生だ。ハヤトも、学校から、帰ってくると、散歩に連れていったり、食事の世話とか、進んでやった。そして、今日は、土曜日だ。仕事は、休みなので、いつもより少し遅かったが朝、散歩したのだが、お昼前だが、太郎は、やけに吠える。(散歩に連れていってほしいのか?)俺は、また、いつも行く近くの公園に、散歩に出た。ハヤトも土曜日だから、お昼前に帰ってくるだろう。通学路だから、会うかもしれないな。と、思っていたら、ハヤトに気づいたのか、尻尾を大きく振って吠えだした。ハヤトも、気づいてこちらに向かって手を振って走ってくる。しかし、よく見ると、左側から、トラックが、走ってくるのが、見え、しかも、運転手は、どうやらスマホを、いじりながらの運転だ。「ハヤト!危ないから、そこで、待っていなさ~い!!」と、叫んだ。その時、太郎が、ものすごい勢いで俺の手を振り切り、トラックが、ハヤトと、ぶつかる寸前で、ハヤトに覆いかぶさり、その勢いで、10メートル飛んだが、ハヤトは、軽傷で済んだが、太郎は、そのトラックに轢かれてしまった。身代わりになってくれたのだ。太郎は、即死だった。俺は、太郎を抱き抱えいつまでも泣いた。運転手は、逮捕されたが、太郎は、もう、戻ってこない。初めて抱いたときは、ものすごく軽かったのに、今は、重い。これだけ成長したんだな。太郎が、身代わりになってくれなければ、ひょっとしたら、ハヤトは、死んでいたかもしれない。そうか、太郎、恩返し、してくれたのか。俺は、一生分の涙を流して泣いた。俺は、太郎に向かって、「今まで、本当にありがとう。天国で幸せになってくれ!」と、言うと、”上の方”から、”ワン”と、(太郎の声?)聞こえた。

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